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「は~い、皆さん注目っ!今日はいつもお世話になっている狭間田葬儀社(はざまだそうぎしゃ)の担当者様がお見えですよ。ご挨拶しましょう~‼」
田中課長…ご挨拶をしましょうって…幼稚園児相手じゃないんですから…。
そう思いながらも相手の男性に会釈する。
この町で人が亡くなると、医師の確認ののち、この町で唯一の【狭間田葬儀社】に連絡が入ることは以前お伝えしたかと思う。
葬儀社の仕事は細々とあるが、一番重要な仕事は故人の肉体と【魂】を切り離し、そののち魂にご臨終印を押印することだ。
ご臨終が確認された魂はその後、自分で狭間田市役所へ出向いて自分自身の戸籍を没戸籍へと変更する。それで生前に出来ることは全て完了する訳だ。
魂は市役所の中で安置された後で初期化される。自分が現世で行った罪も善行もすべてが魂からはリセットされるわけだけれど、現世で行った行動自体は消えない。
それらの情報は魂から抜き取られた後でデータ化され、この世とあの世のハザマ…【閻魔庁】へ送られるのだ。
アチラからは魂宅配業者が毎日来ることが出来るが、こちらから行くことも、自在にコンタクトを取ることも出来ない。
そのため、毎日決まった時間までに死亡者数と魂の数を併せて報告しないと恐ろしいことになるぞ…と課長からくれぐれも言われている。
話は逸れたが、葬儀社は我々市役所と【魂】を繋ぐ大切な仕事と言えるのだ。
ただ、お気づきだとは思うが、葬儀社の社員になるのにもかなり重要な適性が必要になる。…そう、【魂を見る、話せる、そして触れる】能力なのだ。
この能力って、突然変異で一般のご家庭に生まれる場合も稀にあるそうだけれど、ほとんどの場合が世襲制らし く、親から子供へ遺伝しているモノらしい。
もちろん、葬儀社の跡取りで能力が出ない場合も稀にある。そういった場合には能力もちを婿養子に迎えたり、直接養子にしてしまったりと時代錯誤ではあるが、たしかに手っ取り早い方法がとられていると聞いた。
本日お見えの担当者様は、狭間田葬儀社の跡取り息子でもある春原(すのはら)陵(りょう)介(すけ)さん、27歳だった。
「皆さん、いつもお世話になっております。狭間田葬儀社の春原陵介です。よろしくお願い致します」手短に挨拶を述べるとニッコリとほほ笑んで、菓子折りを差し出した。
物腰の柔らかいタイプで、おっとりした雰囲気の春原さんは市役所での人気も高い。
「あの、人当たりの良さそうなところがいいのよねぇ~付き合ったらめちゃめちゃ大切にしてくれそうだし!」と女子更衣室で話題になっているのを何度か聞いたので、かなりモテるのではないかと推察はしている。
そうは言ってもこちらはただの仕事相手であり、お世話になっている以上はキチンと対応しなければ!理来は菓子折を受け取ると丁寧にお礼を述べて彼を応接室へと案内した。
「こちらに伺うのはどのぐらいぶりだろう…?でも現場で四六時中東雲さんとは会っているから久しぶりな気がしないですよね?」
応接室のソファーに腰かけた春原さんがコーヒーを飲みながらにこやかに言った。
「ああ!確かにそうですよね。いつもお世話になっています~」
「アハハ、こちらこそ。東雲さんはいつも真面目な仕事ぶりで助かっています」
ニコッっと笑う邪気の無い笑顔…癒されます。…もちろん、本当に優しいだけでは葬儀社の仕事なんて出来ないのも判っていますが。
「本日はどのようなご用件で?何か当方に問題がありましたでしょうか…?」
田中課長に聞かれた春原さんは持参した鞄からA4サイズの封筒を出し、こちらへ差し出した。
「閻魔庁からわが社に直接指示がありました。…これは内密な案件なのですが、【天竺市】で【魂】の脱走が相次いで発覚しました。その数7件。…その後も脱走が少しずつ増えてきていることから、内部に【魂】の脱走を手引きしている者がいるのではないかと閻魔庁では疑っています」
「内部犯…といいますと、魂が一斉に脱走していると言うことですか?」
課長の言葉に頷くと、春原さんは書類の2枚目を指さした。
「先月の中旬までに初期化されずに安置されていた魂は7そして、先月の脱走魂の数も7とくれば市役所から脱走している可能性が高いですね」
「でも、危険な魂は個別に危険魂保管所で捕縛袋のまま保管してあります。それを解除するのは一般の職員にはできる芸当ではありませんし…」
「…ですから、こちらへ伺ったんですよ」
課長の言葉を遮ると、春原さんは私たちを見回した。
「もちろんこちらの【初期課】の方を疑っている訳ではありません。能力持ちがこんなことをすればバレるリスクが 高いことは当然皆さんご存じでしょうし。
それに何より今回の事件は愉快犯の匂いがするんですよ。面白がって事件を引き起こしているという匂いがね…」
春原さんの雰囲気が一変する。…今までは物静かで包容力溢れる大人の男性と言うイメージだったが、笑顔の裏に見え隠れする激情が鬼軍曹のようで恐ろしい。
「他市の件とは云え、このまま手をこまねいている訳には行きません。閻魔庁からも特別予算を付けてもらいましたので、こちらの初期課の方を数名、研修という名目で送り込み、犯人を上げたいと思っております。ぜひご協力をお願いします」
そう言うと、頭を下げた春原さんは急に笑顔で申し添えた。
「勿論、現場となる【天竺市】にはこちらから内密に要請します。さらに、事件解決までの宿泊・食事及び移動のための交通費用に関しましてもこちらが費用を負担させていただきますので」
鬼軍曹は、今度はテレビショッピングの司会者のような雰囲気になってきた。
「…交通費、宿泊費用無料で北条先輩と親密になれるチャンス…」
「他市のカワイ子ちゃんともお近づきになれるチャンスが…」
西野・南原ペアは二人ともブツブツと言っているところをみると、余程行きたいのだろう。私はこんな面倒な仕事はごめんだし、第一いない間の事務仕事は誰が変わってくれるというのか?否‼溜まった仕事は結局自分でこなすのだ…絶対に行きたくない。
「俺が、南原と一緒に天竺市へ行こう!」「あの~私が北条さんと一緒に行きます~」
西野・南原ペアは二人同時に名乗りを上げた。良かった。これで決定だろう…と思ったとき、春原さんがこちらを見ていることに気が付いた。
「…できれば、研修の名目で潜入捜査をしていただきたいので、一人は世慣れていない雰囲気の東雲さんにお願いしたいんですけれど…」
まさかのご指名⁈だったら最初からそう言ってくれれば心の準備も出来たのに…ああ、また残業の日々が始まるのね…。
「もし、あと一人が見つからないようでしたら、今回は閻魔庁からの特命でもありますし、私が行ってもいいですけれど…?」
春原さんと私が二人きりで旅行⁈…いや違った、潜入捜査なんて、仲良くなれるチャンスかもしれないし…と少し心が揺れたその時、「俺が東雲と一緒に行くから」と北条先輩が名乗りを上げた。
「いや北条先輩じゃあ、目立って潜入捜査にならないし…」と言ったものの、春原さんは「では、北条さんと東雲さんのお二人でお願いしますね。手続きが済み次第度連絡します」と言うと、さっさと席を立ち帰ってしまった。
私に反論する隙も与えずに…。
田中課長…ご挨拶をしましょうって…幼稚園児相手じゃないんですから…。
そう思いながらも相手の男性に会釈する。
この町で人が亡くなると、医師の確認ののち、この町で唯一の【狭間田葬儀社】に連絡が入ることは以前お伝えしたかと思う。
葬儀社の仕事は細々とあるが、一番重要な仕事は故人の肉体と【魂】を切り離し、そののち魂にご臨終印を押印することだ。
ご臨終が確認された魂はその後、自分で狭間田市役所へ出向いて自分自身の戸籍を没戸籍へと変更する。それで生前に出来ることは全て完了する訳だ。
魂は市役所の中で安置された後で初期化される。自分が現世で行った罪も善行もすべてが魂からはリセットされるわけだけれど、現世で行った行動自体は消えない。
それらの情報は魂から抜き取られた後でデータ化され、この世とあの世のハザマ…【閻魔庁】へ送られるのだ。
アチラからは魂宅配業者が毎日来ることが出来るが、こちらから行くことも、自在にコンタクトを取ることも出来ない。
そのため、毎日決まった時間までに死亡者数と魂の数を併せて報告しないと恐ろしいことになるぞ…と課長からくれぐれも言われている。
話は逸れたが、葬儀社は我々市役所と【魂】を繋ぐ大切な仕事と言えるのだ。
ただ、お気づきだとは思うが、葬儀社の社員になるのにもかなり重要な適性が必要になる。…そう、【魂を見る、話せる、そして触れる】能力なのだ。
この能力って、突然変異で一般のご家庭に生まれる場合も稀にあるそうだけれど、ほとんどの場合が世襲制らし く、親から子供へ遺伝しているモノらしい。
もちろん、葬儀社の跡取りで能力が出ない場合も稀にある。そういった場合には能力もちを婿養子に迎えたり、直接養子にしてしまったりと時代錯誤ではあるが、たしかに手っ取り早い方法がとられていると聞いた。
本日お見えの担当者様は、狭間田葬儀社の跡取り息子でもある春原(すのはら)陵(りょう)介(すけ)さん、27歳だった。
「皆さん、いつもお世話になっております。狭間田葬儀社の春原陵介です。よろしくお願い致します」手短に挨拶を述べるとニッコリとほほ笑んで、菓子折りを差し出した。
物腰の柔らかいタイプで、おっとりした雰囲気の春原さんは市役所での人気も高い。
「あの、人当たりの良さそうなところがいいのよねぇ~付き合ったらめちゃめちゃ大切にしてくれそうだし!」と女子更衣室で話題になっているのを何度か聞いたので、かなりモテるのではないかと推察はしている。
そうは言ってもこちらはただの仕事相手であり、お世話になっている以上はキチンと対応しなければ!理来は菓子折を受け取ると丁寧にお礼を述べて彼を応接室へと案内した。
「こちらに伺うのはどのぐらいぶりだろう…?でも現場で四六時中東雲さんとは会っているから久しぶりな気がしないですよね?」
応接室のソファーに腰かけた春原さんがコーヒーを飲みながらにこやかに言った。
「ああ!確かにそうですよね。いつもお世話になっています~」
「アハハ、こちらこそ。東雲さんはいつも真面目な仕事ぶりで助かっています」
ニコッっと笑う邪気の無い笑顔…癒されます。…もちろん、本当に優しいだけでは葬儀社の仕事なんて出来ないのも判っていますが。
「本日はどのようなご用件で?何か当方に問題がありましたでしょうか…?」
田中課長に聞かれた春原さんは持参した鞄からA4サイズの封筒を出し、こちらへ差し出した。
「閻魔庁からわが社に直接指示がありました。…これは内密な案件なのですが、【天竺市】で【魂】の脱走が相次いで発覚しました。その数7件。…その後も脱走が少しずつ増えてきていることから、内部に【魂】の脱走を手引きしている者がいるのではないかと閻魔庁では疑っています」
「内部犯…といいますと、魂が一斉に脱走していると言うことですか?」
課長の言葉に頷くと、春原さんは書類の2枚目を指さした。
「先月の中旬までに初期化されずに安置されていた魂は7そして、先月の脱走魂の数も7とくれば市役所から脱走している可能性が高いですね」
「でも、危険な魂は個別に危険魂保管所で捕縛袋のまま保管してあります。それを解除するのは一般の職員にはできる芸当ではありませんし…」
「…ですから、こちらへ伺ったんですよ」
課長の言葉を遮ると、春原さんは私たちを見回した。
「もちろんこちらの【初期課】の方を疑っている訳ではありません。能力持ちがこんなことをすればバレるリスクが 高いことは当然皆さんご存じでしょうし。
それに何より今回の事件は愉快犯の匂いがするんですよ。面白がって事件を引き起こしているという匂いがね…」
春原さんの雰囲気が一変する。…今までは物静かで包容力溢れる大人の男性と言うイメージだったが、笑顔の裏に見え隠れする激情が鬼軍曹のようで恐ろしい。
「他市の件とは云え、このまま手をこまねいている訳には行きません。閻魔庁からも特別予算を付けてもらいましたので、こちらの初期課の方を数名、研修という名目で送り込み、犯人を上げたいと思っております。ぜひご協力をお願いします」
そう言うと、頭を下げた春原さんは急に笑顔で申し添えた。
「勿論、現場となる【天竺市】にはこちらから内密に要請します。さらに、事件解決までの宿泊・食事及び移動のための交通費用に関しましてもこちらが費用を負担させていただきますので」
鬼軍曹は、今度はテレビショッピングの司会者のような雰囲気になってきた。
「…交通費、宿泊費用無料で北条先輩と親密になれるチャンス…」
「他市のカワイ子ちゃんともお近づきになれるチャンスが…」
西野・南原ペアは二人ともブツブツと言っているところをみると、余程行きたいのだろう。私はこんな面倒な仕事はごめんだし、第一いない間の事務仕事は誰が変わってくれるというのか?否‼溜まった仕事は結局自分でこなすのだ…絶対に行きたくない。
「俺が、南原と一緒に天竺市へ行こう!」「あの~私が北条さんと一緒に行きます~」
西野・南原ペアは二人同時に名乗りを上げた。良かった。これで決定だろう…と思ったとき、春原さんがこちらを見ていることに気が付いた。
「…できれば、研修の名目で潜入捜査をしていただきたいので、一人は世慣れていない雰囲気の東雲さんにお願いしたいんですけれど…」
まさかのご指名⁈だったら最初からそう言ってくれれば心の準備も出来たのに…ああ、また残業の日々が始まるのね…。
「もし、あと一人が見つからないようでしたら、今回は閻魔庁からの特命でもありますし、私が行ってもいいですけれど…?」
春原さんと私が二人きりで旅行⁈…いや違った、潜入捜査なんて、仲良くなれるチャンスかもしれないし…と少し心が揺れたその時、「俺が東雲と一緒に行くから」と北条先輩が名乗りを上げた。
「いや北条先輩じゃあ、目立って潜入捜査にならないし…」と言ったものの、春原さんは「では、北条さんと東雲さんのお二人でお願いしますね。手続きが済み次第度連絡します」と言うと、さっさと席を立ち帰ってしまった。
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