狭間田市役所へようこそ  

矢島みち

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 ガタン・ゴトン・ガタン・ゴトン

 電車の走る車窓にはのどかな田園風景が広がっている。
 もうすぐ【天竺(てんじく)市】に到着する旨のアナウンスが流れる穏やかな風景の中。…私の目の前には車内中の女性の視線を集めるキラキラのイケメンが座っている。

「おい、そろそろ降りるから支度しろよ。…忘れ物なんてしたらお前を忘れものセンターに置いていくからな」

 口の悪い俺様イケメンこと、北条拓海様は今日も今日とて絶好調でした。
  …ううう、なんで北条先輩と二人きりでこんな所まで来なけりゃならないのか。
 狭間田葬儀社の春原さんが訪ねてきてから3日後、早速研修生として潜入捜査する手筈が整ったと連絡が来ました。
 早っ⁈さすがに仕事が出来る人は違うとは思いますが、私はもう少し心の準備期間が欲しかった。
 あの後、『状況を見極めて犯人を挙げるためにも1週間は天竺市に潜入することになりそうだ』と聞いた南原うららかは私に大激怒した。

「もし、北条先輩に色仕掛けで迫ったりしたらただじゃおかないからね⁈」と胸ぐらをつかまれた時には慄いたけれど、「つかんだ胸を見る限りでは色仕掛けは無理そうね!安心したわ~」と言った時には後ろから飛び蹴りをかましてやろうかと思うぐらいにはムカついた。
 悪かったですね、お子様体型で。「別に私は仕事で行くだけなんだから、北条先輩とは仕事以外別行動になると思うよ」と告げると、納得して引き下がったけれど。
 最後に「北条先輩の寝顔とかプライベートな私服とか、インスタでコッソリ撮って送ってよ?そうしたら留守の間の書類整理はしておいてあげるから」と言われたので二つ返事で引き受けた。
 …北条先輩の写真の1枚や2枚で仕事が片付くなら何枚でもうららかに送ってやるぜ!今回の最重要任務はそれだな…私は密かに決意した。

 電車を降りると、比較的大きな駅であることが判る。
 ここは近隣のベッドタウンなのか、駅前には商店が立ち並び、今時にしては珍しく活気あふれる雰囲気を醸し出している。
「おい、ボケっとしてないで早く来い。」小姑のような先輩について行くと、すぐ傍のビジネスホテルへ入っていった。
「予約した北条と東雲ですが」と先輩が受付に伝えると、カウンターの女性はすぐに確認してくれ、カードキーが渡された。
「北条様が1054のお部屋、東雲様が1055のお部屋となります」と案内され、無事に部屋に荷物を運びこむ。…比較的新しいホテルなので、思ったより設備も綺麗で安心する。これなら1週間快適に過ごせそうだ…と部屋をウロウロしているとスマホが鳴った。
「これから、【天竺市役所】の様子を見に行くから、お前も支度しろ。10分後にロビーに集合な」と一方的に言われて電話は切れた。…相変わらず勝手な人だな…。

  …仕方なく、スーツから私服に着替えてロビーへと向かった。
 ビジネスホテルのロビーに着き先輩を探そうとするも、探すまでも無く彼は数人の女性客と歓談していた。
 私に気が付くと手をあげ、「ツレが来たから、ごめんね」と爽やかにこちらへと来る。
 私を見る女性客らしき数名の敵意の視線が痛い…。

「あの人たちどなたですか?知り合い…じゃあないですよね?」

 聞くと「ああ、逆ナンされた」とこともなげに言う。
 逆ナンて…ナンパ⁈この短時間で声かけられたんですか?…私なんて生まれてこのかた一度も体験したことないというのに?

「へーっ⁈凄いですね、さすがはイケメン…。自分がナンパした相手の内面を知らないって幸せなことなんですね…」思わず呟くと「お前の前だけな。俺は相手を見て態度を決めるから」と憎たらしさ爆発で言われた。…本当にムカつくヤローだ。

「どうせ東雲はナンパされたことも無いんだろ?」と顔を覗き込んで来る仕草もムカつきます。

「その通りですよ!彼氏なし歴日々更新中ですからーっ‼」

 私が思わず叫ぶと大爆笑された。…はいはい、好きなだけ笑ってください。
「あー腹痛い。ナンパされた時はイラついていたけどスッキリしたわ、サンキューな」と頭を撫でられる。なんでナンパされてイラつくんだろう…好みのタイプじゃなかったから?…嫌なら断ればいいだけだしイラつくか?普通。
 キャーキャー言われてイケメンって褒められたら嬉しいんじゃないの?…モテモテ大魔王様の考えることは凡人には本当に判らない…。 

 徒歩で【天竺市役所】へ向かう道すがら、段々と嫌な気配が漂っていることに気が付いた。何だろうか…溝(どぶ)のような饐え(すえ)た匂い…?

「お前も気が付いたか?」北条先輩の言葉に頷く。多分、脱走した【魂】が腐食して穢れを呼び寄せている。
 既に脱走した魂も悪霊に近い存在になったのだろう。それが近くにいることだけは判る。
 悪霊化した魂は初期化することは出来ない。捕縛した悪霊を【閻魔庁】に引き渡すのみで、私達生きる者が介入できる範疇を超えてしまうためだ。
 魂になってから犯した罪はデータ化することが出来ず、その【穢れた魂】は地獄の炎で焼却されると聞いたことがある。…当然転生することも出来ず、消えるのみなのだ。

「できれば、まだ悪霊になり切っていない【魂】だけでも助けてあげられればいいんですけれど…」私の言葉に、北条先輩はただ、「そうだな」と答えるのみだった。
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