狭間田市役所へようこそ  

矢島みち

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 研修1日目が無事に終わりました。
 何だか…気疲れしたようで、いつもよりも疲労が激しいです。…まぁ、二日酔いのせいもあるかもしれませんが。

「お疲れ、今日そっちはどうだった?」

 ホテルへと帰り、北条先輩の部屋で合流した私たちは本日お互いが気づいたことを突き合わせることにしました。

「今日は簡単な業務説明と、【天竺市役所】の概要、VR技術を使った捕縛研修がありました。…後は…この天竺市には4社の葬儀社があって全てご兄弟で別々に経営しているということを聞いたぐらいかな…」

 私がそう言いながら先ほどコンビニで購入してきたチキンにかぶりつくのを横目で見て、北条先輩も無言で私のポテトに手を伸ばします。
 おい!それは私のだろ⁈

「葬儀社が4社、しかも全て兄弟で経営…特殊技能持ちが同じ家に4人も生まれたってことか?すごい確率だな…」

 モグモグとポテトを食べながら今度はチキンまで⁈

「先輩…それ私の買ってきたチキンです。先輩はご自分のを召し上がって下さい。…ところでそちらの首尾はどうだったんですか?」

 北条先輩は表の戸籍課に配属されて、私とは別のフロアに在籍となった。だから、お互いの状況が全く分からないのだ。
「…チッ!一つぐらい良いだろう。あー、俺の方は大した話はなかったかな。ただ、さっきお前が言っていた4つの葬儀社の業績に差があって、一番下の弟がずば抜けて魂をこちらに送り込む回数が多いとか聞いたな。」

 そう言いながら最後のチキンまで齧る…。最後の一つを楽しみに取っておいたのに…。

「本日の収穫はこんなもんか。じゃあ、飯食いに行くか‼」先輩が立ち上がるが、昨日の事もあり、私は辞退する。

「いえ、私は結構です。…もうお腹いっぱいですから‼」

 …本当はまだまだ足りぬが、先輩が出かけたらもう一度コンビニに行ってチキンを買うことに決めたのだ‼今度は旨辛ホットチキンにしよう。そう思い、自分の部屋へ帰ろうといそいそと鞄を引き寄せると、北条先輩に睨まれた。

「お前さあ…今朝俺のシャワー写真撮ったよな?」

 お、お代官様人聞きの悪い⁈あれはあくまでもシャワー後にあなたが勝手に出てきたところを激写したのであって、その言い方だと私が盗撮したみたいじゃないですか⁈

「俺の恥ずかしい写真を人にバラまこうとするし…」

 で、ですから、それはうららかだけに送るつもりで、それをネタに先輩を脅そうとか、人に売ろうとか思っていなかったんです~‼

「俺…傷ついたな~あんな辱めを受けて…もうお婿には行けないかも」

「せ、先輩なら引く手あまたですから!それに写真は消しましたし!何でもしますから許して下さい~‼」

 その瞬間北条先輩がニヤリと悪魔の微笑みを見せた。

「その言葉忘れんなよ?じゃあ先ずは飯に行こう。お前の好きな場所にしてやるから」
打って変わって上機嫌な先輩が「こいつにはこの手が一番だな…」とほくそ笑んでいたことを私は知らなかった。

「へーっ⁈こんな店があったのか。気が付かなかったな~」

 北条先輩がキョロキョロと周りを物珍しそうに見回している。

「ふっふっふっ、昨日駅前で降りた時に周りに美味しいお店が無いかチェックしておいたんですよ」

 私は得意げに胸を張った。
 ここは駅商店街の中ほどにある炉端のお店で、雰囲気の良さそうなお店だなとチェックしていたのだ。コンビニでもさりげなく情報収集する抜け目の無さ!我ながら美味しい物に対する情熱が半端ないな。

 中に入ると、「いらっしゃ~い‼」と元気な声がかかる。そうそう、この雰囲気が良いんですよ!
 店の看板メニューでもある焼き鳥の他に串揚げや地ビールまである。最高かよ⁈
 早速、地ビールと焼き鳥を注文して先輩と乾杯した…っぷはぁ~‼この一杯の為に生きているぅ~‼北条先輩も焼き鳥を頬張り「美っ味~‼めちゃめちゃ美味いじゃん」と大絶賛だ。そうでしょう、そうでしょう。

 思う存分食事を堪能していると炉端の店主が「えっらいイケメンのお兄ちゃんだね、恋人同士かい?」と冷やかしてきた。
 違う…と答える前に先輩が「そうなんです。でも付き合いたてだから彼女が恥ずかしがっちゃって」と愛想笑いをする。…誰が恥ずかしがり屋の彼女だって?私か?
 …酔っ払いが適当に話を合わせているな…と無視して食べていると店主は頷きながら「そっか~最近はこの町も少し物騒になってきて、カップルを狙った切り裂き魔とかも出るらしいから気を付けた方がいいよ」と言い出した。

「それって、最近の話なんですか?」聞くと店主は頷き、「そうそう、本当にここ一か月ぐらいの間に切り裂き魔が何件か発生したって聞いたし、子供の虐待事件も相次いでいるって話さ。嫌な世の中になったよねぇ~」そう言うと店主はごゆっくり~と言いおいて別の客の所へ行ってしまった。

「さっきの話ってやっぱり悪霊の仕業ですかね?」すっかり酔いがさめた頭で考える。

「…多分それしかないだろうな…」

 二人でそのまま無言で食べ進めると、そのまま会計を済ませ今日はお開きとなった。
 食事は美味しかったけれど、話の後味は最悪だった。
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