異世界モヒカン転生

みなかみしょう

文字の大きさ
4 / 33

4.俺の名は

しおりを挟む
「セイン! 急ぎますのよ! 準備を!!」

 魔法使いのそんな叫びが聞こえてきたと思ったら、女騎士の方が馬車から出て来た。
 頑丈そうな白い鎧を着込んでいる、柔和な顔つきの銀髪の美しい娘だ。
 そして、かなり立派な胸部をお持ちでいらっしゃる。鎧が身体のラインの形に作られているからわかるのだ。盛っていなければだが。

 俺の姿を見て興奮が冷めたらしい彼女は、気まずそうに話しかけてきた。

「む、すまない。えっと……なんといったか?」
「ん、ああ、俺の名前は……いやまあ、先にそっちを片づけてくれ」
「恩に着る!」

 そう言うと女騎士は馬車から離れていった。何をする気なんだろう。
 ……そういえば、自分の名前を決めなきゃならない。元の名前はわからないしな。この世界にいる間だけだから、適当にモヒー・カーンとでも名乗るとするか。

 それよりも、あの二人が仕事をしている間に、やっておくことがある。

 俺は倒れているリーダーの身なりを確認する。紋章入りの柄の剣と鎧。髪も髭も整っている。鎧の間から見える衣服は痛んでいるがあまり不潔な感じはしない。
 山賊とか盗賊の類いっていうのは、もっとこう、小汚い格好をしてるのではないだろうか? 
 推測するに、こいつらが馬車の護衛で、あの二人はやはり……?

「おい……おっさん。起きろ」
「…………」

 反応がない、どうしたもんか。事実関係を明らかにした上で謝罪とかしたいんだけど。
 そのとき、馬車の方から再び魔法使いの大声が聞こえた。

「ありましたわ! 大収穫ですわ!」

 どうやら捜し物は終わってしまったらしい。ぬう、どうしたものか。

「お目当てのものは見つかったのか?」
「ええ、この通りですわ?」

 魔法使いは小さな箱を持って外に出て来た。俺の前で箱を開けて、杖で軽く叩く。
 一瞬だけ箱が光ったと思うと、箱の底に穴が開いた。

「二重底か……」
「ええ、念入りに魔法で隠匿されていたのですわ。初歩的な仕掛けですけれど」

 そんな会話をしていると女騎士の方が戻ってきた。見れば二頭の馬を連れている。どうやら近くに隠していたらしい。いよいよ盗賊じみてきたな。

「姉上! 見つけたのですね!」
「ええ、この通りですわ!」

 近くにやってきた女騎士と共に、二重底にあったものを取り出す。
 それは、小さな首飾りだった。銀の鎖と緑色の宝石で作られたシンプルなものだ。
 よく見ると、宝石の中では小さな光が揺らめいていた。光の反射ではなく小さな火が中に封じられているようだ。不思議だ。ファンタジーだ。

「それは?」
「この馬車で密かに運ばれていたご禁制の品です。彼らは何も知らずに運んでいたのですよ」
「こいつを狙って馬車を襲ったのか」
「それも事情あってのことですわ。逞しいお方、どうやらそちらも事情がおありの様子? 少しお話致しませんか?」
「そいつはいいが……こいつらはどうなる?」

 俺は倒れている護衛の方々を見回す。密輸の片棒を担がされて昏倒とか、大変なことになるんじゃないか?

「しばらくしたら魔法は解けますわ。一見すると積み荷も馬も無事。わたくし達への記憶も曖昧になりますの」
「盗賊としては完璧な仕事だな……」

 便利すぎだろ、魔法。俺も欲しい。

「いや、それは違うのだ! だから説明をする機会をだな! えーと、その……」

 どうやら、二人の様子を見るに事情がありそうだ。本物の悪人で俺を騙しているという可能性もあるが……。
 まあ、乗りかかった船だ。ここは一つ、誘いに乗ってみるか。

「モヒー・カーン。……カーンと呼んでくれ」

 たった今決めた名前を名乗る。
 今から俺は、モヒカン姿の神の使徒、モヒー・カーンだ。

「では、カーン殿。その変わった馬で私達の後についてきてくれ」
「わかった。後についていくぜ」

 そう言って俺はバギーに乗り込んだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...