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4.俺の名は
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「セイン! 急ぎますのよ! 準備を!!」
魔法使いのそんな叫びが聞こえてきたと思ったら、女騎士の方が馬車から出て来た。
頑丈そうな白い鎧を着込んでいる、柔和な顔つきの銀髪の美しい娘だ。
そして、かなり立派な胸部をお持ちでいらっしゃる。鎧が身体のラインの形に作られているからわかるのだ。盛っていなければだが。
俺の姿を見て興奮が冷めたらしい彼女は、気まずそうに話しかけてきた。
「む、すまない。えっと……なんといったか?」
「ん、ああ、俺の名前は……いやまあ、先にそっちを片づけてくれ」
「恩に着る!」
そう言うと女騎士は馬車から離れていった。何をする気なんだろう。
……そういえば、自分の名前を決めなきゃならない。元の名前はわからないしな。この世界にいる間だけだから、適当にモヒー・カーンとでも名乗るとするか。
それよりも、あの二人が仕事をしている間に、やっておくことがある。
俺は倒れているリーダーの身なりを確認する。紋章入りの柄の剣と鎧。髪も髭も整っている。鎧の間から見える衣服は痛んでいるがあまり不潔な感じはしない。
山賊とか盗賊の類いっていうのは、もっとこう、小汚い格好をしてるのではないだろうか?
推測するに、こいつらが馬車の護衛で、あの二人はやはり……?
「おい……おっさん。起きろ」
「…………」
反応がない、どうしたもんか。事実関係を明らかにした上で謝罪とかしたいんだけど。
そのとき、馬車の方から再び魔法使いの大声が聞こえた。
「ありましたわ! 大収穫ですわ!」
どうやら捜し物は終わってしまったらしい。ぬう、どうしたものか。
「お目当てのものは見つかったのか?」
「ええ、この通りですわ?」
魔法使いは小さな箱を持って外に出て来た。俺の前で箱を開けて、杖で軽く叩く。
一瞬だけ箱が光ったと思うと、箱の底に穴が開いた。
「二重底か……」
「ええ、念入りに魔法で隠匿されていたのですわ。初歩的な仕掛けですけれど」
そんな会話をしていると女騎士の方が戻ってきた。見れば二頭の馬を連れている。どうやら近くに隠していたらしい。いよいよ盗賊じみてきたな。
「姉上! 見つけたのですね!」
「ええ、この通りですわ!」
近くにやってきた女騎士と共に、二重底にあったものを取り出す。
それは、小さな首飾りだった。銀の鎖と緑色の宝石で作られたシンプルなものだ。
よく見ると、宝石の中では小さな光が揺らめいていた。光の反射ではなく小さな火が中に封じられているようだ。不思議だ。ファンタジーだ。
「それは?」
「この馬車で密かに運ばれていたご禁制の品です。彼らは何も知らずに運んでいたのですよ」
「こいつを狙って馬車を襲ったのか」
「それも事情あってのことですわ。逞しいお方、どうやらそちらも事情がおありの様子? 少しお話致しませんか?」
「そいつはいいが……こいつらはどうなる?」
俺は倒れている護衛の方々を見回す。密輸の片棒を担がされて昏倒とか、大変なことになるんじゃないか?
「しばらくしたら魔法は解けますわ。一見すると積み荷も馬も無事。わたくし達への記憶も曖昧になりますの」
「盗賊としては完璧な仕事だな……」
便利すぎだろ、魔法。俺も欲しい。
「いや、それは違うのだ! だから説明をする機会をだな! えーと、その……」
どうやら、二人の様子を見るに事情がありそうだ。本物の悪人で俺を騙しているという可能性もあるが……。
まあ、乗りかかった船だ。ここは一つ、誘いに乗ってみるか。
「モヒー・カーン。……カーンと呼んでくれ」
たった今決めた名前を名乗る。
今から俺は、モヒカン姿の神の使徒、モヒー・カーンだ。
「では、カーン殿。その変わった馬で私達の後についてきてくれ」
「わかった。後についていくぜ」
そう言って俺はバギーに乗り込んだ。
魔法使いのそんな叫びが聞こえてきたと思ったら、女騎士の方が馬車から出て来た。
頑丈そうな白い鎧を着込んでいる、柔和な顔つきの銀髪の美しい娘だ。
そして、かなり立派な胸部をお持ちでいらっしゃる。鎧が身体のラインの形に作られているからわかるのだ。盛っていなければだが。
俺の姿を見て興奮が冷めたらしい彼女は、気まずそうに話しかけてきた。
「む、すまない。えっと……なんといったか?」
「ん、ああ、俺の名前は……いやまあ、先にそっちを片づけてくれ」
「恩に着る!」
そう言うと女騎士は馬車から離れていった。何をする気なんだろう。
……そういえば、自分の名前を決めなきゃならない。元の名前はわからないしな。この世界にいる間だけだから、適当にモヒー・カーンとでも名乗るとするか。
それよりも、あの二人が仕事をしている間に、やっておくことがある。
俺は倒れているリーダーの身なりを確認する。紋章入りの柄の剣と鎧。髪も髭も整っている。鎧の間から見える衣服は痛んでいるがあまり不潔な感じはしない。
山賊とか盗賊の類いっていうのは、もっとこう、小汚い格好をしてるのではないだろうか?
推測するに、こいつらが馬車の護衛で、あの二人はやはり……?
「おい……おっさん。起きろ」
「…………」
反応がない、どうしたもんか。事実関係を明らかにした上で謝罪とかしたいんだけど。
そのとき、馬車の方から再び魔法使いの大声が聞こえた。
「ありましたわ! 大収穫ですわ!」
どうやら捜し物は終わってしまったらしい。ぬう、どうしたものか。
「お目当てのものは見つかったのか?」
「ええ、この通りですわ?」
魔法使いは小さな箱を持って外に出て来た。俺の前で箱を開けて、杖で軽く叩く。
一瞬だけ箱が光ったと思うと、箱の底に穴が開いた。
「二重底か……」
「ええ、念入りに魔法で隠匿されていたのですわ。初歩的な仕掛けですけれど」
そんな会話をしていると女騎士の方が戻ってきた。見れば二頭の馬を連れている。どうやら近くに隠していたらしい。いよいよ盗賊じみてきたな。
「姉上! 見つけたのですね!」
「ええ、この通りですわ!」
近くにやってきた女騎士と共に、二重底にあったものを取り出す。
それは、小さな首飾りだった。銀の鎖と緑色の宝石で作られたシンプルなものだ。
よく見ると、宝石の中では小さな光が揺らめいていた。光の反射ではなく小さな火が中に封じられているようだ。不思議だ。ファンタジーだ。
「それは?」
「この馬車で密かに運ばれていたご禁制の品です。彼らは何も知らずに運んでいたのですよ」
「こいつを狙って馬車を襲ったのか」
「それも事情あってのことですわ。逞しいお方、どうやらそちらも事情がおありの様子? 少しお話致しませんか?」
「そいつはいいが……こいつらはどうなる?」
俺は倒れている護衛の方々を見回す。密輸の片棒を担がされて昏倒とか、大変なことになるんじゃないか?
「しばらくしたら魔法は解けますわ。一見すると積み荷も馬も無事。わたくし達への記憶も曖昧になりますの」
「盗賊としては完璧な仕事だな……」
便利すぎだろ、魔法。俺も欲しい。
「いや、それは違うのだ! だから説明をする機会をだな! えーと、その……」
どうやら、二人の様子を見るに事情がありそうだ。本物の悪人で俺を騙しているという可能性もあるが……。
まあ、乗りかかった船だ。ここは一つ、誘いに乗ってみるか。
「モヒー・カーン。……カーンと呼んでくれ」
たった今決めた名前を名乗る。
今から俺は、モヒカン姿の神の使徒、モヒー・カーンだ。
「では、カーン殿。その変わった馬で私達の後についてきてくれ」
「わかった。後についていくぜ」
そう言って俺はバギーに乗り込んだ。
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