異世界モヒカン転生

みなかみしょう

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7.今後の予定

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 どうやら俺はマジで天使だったらしい。いや、正しく神の遣いなのだから、合ってはいる。しかし、自分でいうのも何だが違和感がある。モヒカンマッチョにバギーだし。

 それはそれとして、俺達はライクレイ姉妹の隠れ家で旅の準備をしていた。
 今日はここに一泊だ。俺も空いた時間を利用して神様と交換日記を書いてみたりした。即座に返信が来てちょっと引いた。神様、暇なのかな。

 時刻は夜になり、姉妹が作ったスープとパンをいただきながら、俺達は今後について話していた。

「あの馬車の連中、本当に大丈夫なんだろうな?」
「今頃は魔法も解けて、荷物が何も奪われていないことを不思議に思いながらお仕事を続けていらっしゃるでしょう。わたくし達のことも思い出せませんわ」
「魔法ってのは便利なもんだな」

 できればシーニャの言ってることを確認したいがそれもできない。ここは彼女を信じるとするか。

「姉上は特別優秀なのです。普通はこうもいきません」
「なるほどな。そういうもんか」

 セインの作ったスープを飲みながら俺は無理矢理自分を納得させる。

「それで、今後はどういう予定なんだ?」

 先ほどの話だと、この姉妹は復讐を完遂するために馬車を襲ったようだ。しっかりと計画をたてて行動するタイプと見た。
 女神に会うという大目標はあるが、まったく情報不足な俺にとっては頼りになりそうだ。

「わたくし達は妖精の里に向かうつもりですの」
「妖精の里?」
「妖精とは手の平より大きいくらいの透き通った羽を持った可愛らしい種族です。普段は人から隠れて暮らし、たまに現れては悪戯したり、人助けをするのです」

 俺がこの世界について何も知らないことを察してくれたのか、セインが説明してくれた。実に優しい。

「その妖精に力を借りると?」

 二人は頷く。どうも、助けてくれそうな種族には思えないんだが。

「ライクレイ家は妖精と縁の深い家なのですわ。この秘宝『妖精の曙光』を手にして里を訪れれば必ず力を貸してくれるんですの。具体的には、姿隠しの力などですわね。妖精の姿隠しの魔法は神の目すら欺くと言われておりますの」
「そいつはいいな。俺にも是非協力させてくれ」

 神の目すら欺く姿隠し。俺にとっても有用そうだ。モヒカンマッチョでヒャッハーするのは目立ちすぎるからな。隠れて移動したい機会はいくらでもあるだろう。

「勿論です。カーン殿はすでに私達の仲間なのですから」

 そういうセインの隣で、シーニャも嬉しそうに微笑んでいた。
 その日は食事の後、すぐに就寝した。
 姉妹はテントで。俺はバギーに積まれていた寝袋にくるまって外で寝た。

 ○○○

 翌朝、出発前の野営地で、俺とセインは互いに武器を構えていた。

「稽古をつけると言われましても。私は斧の扱いは知らないのですが……」
「それは俺もだ。実は、戦いに慣れていなくてな。セインは腕が立つから戦いの練習になる」

 それぞれ手に持つのは練習用の剣だ。生真面目な性格らしいセインは野営地に練習用の武器を持ち込んでいた。ありがたいことだ。

 武器の稽古を頼んだのは俺の方からだ。実はあの後、神様に頼んでライクレイ姉妹のステータスを教えて貰った。


【シーニャ・ライクレイ】
種族:人間
職業:魔法使い兼犯罪者(馬車を襲ったため)

力 :20
魔法:143
速さ:35
防御:28
魔防:106

スキル:
・一般攻撃魔法全般L10:属性に関係なく攻撃魔法全般を使える。
・一般防御魔法全般L10:結界に代表される魔法全般を使える。
・一般援護魔法全般L10:回復、能力強化などの援護魔法全般を使える。
・古代魔法全般L4:忘れられた古代の魔法を使うことができる。


【セイン・ライクレイ】
種族:人間
職業:聖騎士兼犯罪者(馬車を襲ったため)

力 :92
魔法:44
速さ:102
防御:78
魔防:43

スキル:
・一般防御魔法全般L3:結界に代表される防御魔法(下級)を使える。
・一般援護魔法全般L3:回復、能力強化などの援護魔法(下級)を使える。
・神聖魔法L5:神より賜る奇跡の魔法。光の至高神の神聖魔法を使える。
・神の加護L2:世界を作りし光の神から、たまに啓示がもたらされるなどの弱い祝福。
・光神騎士団剣術L8
・光神騎士団槍術L8

 二人の能力はこんな感じである。
 ちなみに軽く二人の身の上を神様に伝えたら、「泣きました。嘘じゃ無いので是非力を貸してあげてください」と返事も来た。事実確認までしてもらえて実に助かる。

 ステータスを見る限り、俺はこの姉妹に二人同時に襲われたら確実に負ける。
 そして、ライクレイ姉妹はこの世界最強の存在でもない。
 俺には戦う技術が必要だ。

 そこで目を付けたのが「成長」のスキルである。これは間違いなく、チートスキルというやつだ。
 その証拠が「投石」のスキル。
 俺はただ一回、石を投げただけで投石のスキルを手に入れたらしい。
 高レベルな戦闘スキルを持つセインと鍛錬すれば、それだけで戦闘技術が上がっていくはずだ。自分の能力を上げておくのは悪いことではないだろう。

 もちろん、シーニャのほうには魔法の指導をお願いした。彼女は少し思案したあと、「少し準備をさせてくださいませ」と言っていた。魔法の方は色々と大変らしい。

 そんなわけで、俺達は朝から武器の鍛錬を始めることになったわけだ。

「それでは、宜しくお願いします」
「二人とも、ほどほどにお願いしますわ」
「では、軽く一時間ほど、お願いします」
「おう、わかったぜ」

○○○

 一時間後、俺は全身に傷を負っていた。

「いつつ……。練習用っつっても金属の塊で殴られるのと変わらねぇじゃねぇか。いってぇ」
「申し訳ない。カーン殿の飲み込みが早いので、つい加減を忘れてしまい……」
「まったく、カーン様が武器の扱いに慣れていないのはすぐにわかったでしょうに」

 俺の目の前で正座するセインをシーニャが叱っていた。
 稽古開始直後、俺はいいようにやられた。
 しかし、持ち前のスキルのおかげで、だんだんとセインの動きについていけるようになり、少ししたらまともに剣を受けれるようになったのだ。
 それがいけなかった。

 嬉しそうに「カーン殿は筋がいいようだ」と言ったセインは、どんどん剣の速度を上げていき、防戦一方の俺は受けきれずに全身に傷を負ったというわけだ。
 気絶したり大怪我しなかったのは、この身体の基本スペックの高さのおかげだろう。普通なら骨が何本かもってかれてると思う。

「出発前に治療ですわね。……しかし、あれだけ打たれて深刻な傷が無いのが本当に凄いですわ」
「私も驚きです。かなり速度を上げたのですが。私の動きについてくるのが楽しくて、ついやりすぎてしまったかと思ったのですが……」
「まあ、こう見えても神の使徒だからな」

 天使の身体に感謝しよう。それと、やはり稽古を頼んで正解だった。ステータスの数値で勝っていても、スキルが伴わなきゃ意味がないのを身をもって体験した。今の俺はセイン一人に負けかねない。

「カーン様の治療はわたくしが致します。セインはここを引き払う準備を」
「はい。わかりました」

 セインがてきぱきと準備を進める。テントや衣類などは収納の魔法道具にしまい、焚き火の跡などを片づけていく。

「では、癒やしますわね」

 シーニャが俺に杖を向けると全身が柔らかな光に包まれた。
 痛みがどんどん消えていく。

「やっぱり魔法はすげぇな」
「いえ、これはカーン様の身体が凄いのですわ。普通、こんな急激に回復しませんの」

 魔法を使いながら驚くシーニャ。種族:天使は伊達ではないってことか。自分の身体について知ることも大事になりそうだ。

 数十分後、治療を終えた俺達は妖精の里目指して出発した。
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