異世界モヒカン転生

みなかみしょう

文字の大きさ
9 / 33

9.妖精達の歓迎

しおりを挟む
 森に入って5時間がたった。

「ありましたわ。ありましたわー!」
「…………ようやく見つかったか」

 俺達は森の中で疲れ果てていた。
 妖精の里に入るには『フェアリーサークル』なるものを見つける必要がある。
 事前の説明ではシーニャの魔法で簡単に見つかるはずだったんだが、これが全然ダメだった。

 俺達はシーニャの合ってるんだか間違ってるんだかわからない魔法の反応を頼りに、森の中を5時間も徘徊して回ることになった。
 精神的にもうボロボロだ。風呂入って寝たい。

「ここが里の入り口になってるんだな」

 全身汗だく泥だらけの俺達の前には、森の木々の間の空間に、突然現れた円形の花畑があった。
 色とりどりの花が咲くこの円陣『フェアリーサークル』は、花の並びが一種の魔法陣を形作っているそうだ。

「妖精の里は異世界のような場所。妖精達が二つの世界の出入りをした後がこのフェアリーサークルですの」
「そこで、私達の祖先が妖精から貰ったという秘宝『妖精の曙光』をかざせばいいという話ですが……」
「さっそくやってみますわ」
「お、おい、まだ心の準備が」

 俺が止める間もなくシーニャが『妖精の曙光』を手にサークルの前に立った。
 小さな宝石がちかちかと瞬くと、サークルが淡い光を放ち始める。 

「成功ですわっ!」
「……いきなり実行に移すのは心臓に悪いからやめてくれ」
「すいません。すぐ行動に移すのは姉上の美点であり欠点なのです」

 行動力があるのはいいことだと思うが、うっかりで大変なことをしでかしそうだ。

「とにかく、道は開かれたわけだ」
「はい。この先に先祖が訪れたという妖精の里があります」
「参りましょう。わたくし達の目的のために」

 こちらを向いて笑顔で言うシーニャに対して、俺とセインが静かに頷く。
 俺達は、三人同時にフェアリーサークルへ脚を踏み入れた。


○○○

「なんか景色が変わったように見えねぇな」

 フェアリーサークルの向こう側に出た最初の感想がそれだった。
 見えるのは直前と同じく鬱蒼とした森の木々だ。花畑とかメルヘンチックな建物とか、妖精の里という言葉からイメージされるものは全くない。
 これはどうしたものかな、と思ったときだった。
 森の奥から気配がした。

「何か来るな?」

 既にセインとシーニャも身構えていた。流石だ、俺なんかよりよっぽど実戦経験があるだけはある。

「油断なきようお願いします」
「だ、大丈夫ですわよ。きっと妖精さんですわよ」

 緊張する俺達の前に、複数の影が森から現れた。
 出て来た連中は、俺達を見るなりこう叫んだ。

「ようこそっ! 妖精の里へ! ライクレイの者達よ!!」

 そう言って大合唱したのは、20センチくらいの大きさの、背に透明な羽が生えた小さな人間。
 つまりは、妖精だった。
 ただし、全員男で、しかも上半身裸の凄いマッチョだ。
 元は全員爽やかな美形だったのだろう。顔立ちが整っているのが不気味さを引き立てていた。

「いやあぁぁぁ! こんなの妖精じゃありませんわぁぁぁ!」

 恐ろしいものを見せつけられたシーニャが杖を振り上げる。やばい、恐慌状態だ。しかも杖が光ってる。魔法の準備をしてやがる。
 俺は慌ててシーニャの手を掴んで押さえにかかる。

「シーニャやめろ! セイン、手伝ってくれ!!」
「よ、妖精……。これが……。ご先祖様は何を救ったのだ……」

 チィ、こっちもダメか。

「は、離してくださいまし! こんなのちがいますわ! こんなの……っ」
「落ち着け! これが現実だ! おいっ、妖精達、逃げるんだ! こいつは錯乱している!」

 このままだと妖精に攻撃魔法が炸裂してしまう。それはまずい。いや、気持ちはわかるが。
 そして、俺の忠告に妖精達は動いてくれない。というかびびってる。うん、明らかに凄い魔力を感じるからね。

「おやおや、驚かせてしまったようですな」

 混沌とした場に、落ち着いた声が響いた。
 現れたのは上半身裸では無いが、明らかにマッチョ体型のナイスミドルな妖精。パッツンパッツンのスーツ姿が特徴だ。

「『妖精の曙光』を持つお嬢さん。どうか落ち着いてください。私達にも事情があるのです」

 そういって、妖精は男臭い笑みを浮かべた。
 周囲の妖精も同時に「落ち着いてください!」と爽やかに男臭いスマイルを決めた。

「こ、恐いですわあああ!」
「あっ、こら!」

 シーニャのスカートの半透明部分が赤く光り始めた。こいつの痴女スカート(俺はそう呼んでいる)は魔法陣が刺繍されていて、発動すれば大規模破壊を起こせる切り札だと言っていた。
 やばい、なんかこの辺一帯吹き飛ぶくらいの魔法が発動するぞ……。
 そのとき、茫然自失としていたセインが動いた。

「ていっ」
「かはっ」

 迷い無く動いたセインの当て身を受け、短く息を吐いて、シーニャは意識を失った。

「ふう、姉上は自分を失うとよくこうなるのです。久しぶりですが上手くいきました」
「……そ、そうか良かったな」

 汗をぬぐい、よいしょっととシーニャを肩に担ぐセイン。荷物みたいに扱われてシーニャの下着が丸見えなんだが、全然嬉しくない。

「すまねぇ、うちの魔法使いはちょっと精神に問題があるんだ。ここは妖精の里で間違いないんだな?」

 とりあえず落ちついたので、妖精に謝罪する。
 紳士的マッチョ妖精は「いいんですよ」と笑顔で返してくれた後、俺の全身を興味深そうに眺めて言った。

「ふむ。どうやらライクレイ家の者以上に珍しい事情を抱えているご様子、私の家で話を伺いましょう。どうぞ、こちらへ」

 そう言って、ナイスミドルが森の奥へとふわふわ飛んで俺達を誘う。そして残りのマッチョ半裸妖精達が「お客様だ!お客様だ!」と嬉しそうに後に続く。……不気味だ。

「どうやら、歓迎はされてるみたいだな」
「ええ、行くしかないでしょう」
「…………」

 気絶してるお色気魔法使いを担いだまま、俺達も森の奥へと入っていくのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...