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16.ヴルミナの街
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女神の神殿。そこは女神の国の中枢であり、女神のおわす場所。
神殿と呼ばれているが実質は宮殿である。広大な建物内には国を回ための政務担当者のための建物もあるからだ。
建物は壮麗。曲線で形作られた優美な建物は白と金で彩られており、女神の加護か少しも汚れることはない。
そして何より、女神の存在を示す光の柱の存在である。
神の持つ力の強大さを示す光は、女神の国に繁栄をもたらしている。
ここは女神の国。今、この世界でもっとも幸せな場所。
そんな場所に似つかわしくない不景気な顔の男が、広い廊下を歩いていた。
白に金の刺繍が入った服を着た男である。白と金は女神の好む色であり、神殿内でその配色の服を着ることが許された者は限られる。
彼の服は女神から直接賜ったものだ。見た目は布だが、並の鎧以上の強さと驚くべきしなやかさを備えた防具である。
また、腰に帯びる長剣もやはり女神由来の武器である。
無精髭の目立つ、鋭い目つきの細面の男。
彼こそが『女神の三騎士』の筆頭、トゥルグ・ミロスワである。
トゥルグが歩くのは女神の国の中枢部。先ほどからすれ違う人々は、彼の表情を見ると怯えた様子で道を譲っていく。
それもこれも、彼が戦場さながらの殺気を放っているからだ。
目つきは悪くとも優しいと評判のトゥルグである。その彼が無言で眉間に皺を作って殺気を放っていれば、ただならぬことが起きたことは明白だ。
歩き去るトゥルグを見送った人々は、何事が起きたと小声で語り合うのだった。
「失礼致します」
ノックも無しにトゥルグはその部屋に入った。
「そろそろ、来る頃だと思っていたわ」
部屋の主は咎めもせずに、そういった。
室内に幾重にも張られた薄布のせいで、主の居場所はわからない。
しかし、その存在感は物理的な圧力を感じるほどトゥルグに伝わってくる。
眼の前にいるのはこの国の主にして、神の一柱なのだから、当然だ。
「……では、自分が何を言うかもご存じですね」
「報告はお前の仕事です。話しなさい」
有無を言わせない口調だった。勿論、不満はない。これこそが自分の仕事なのだから。
「少し前から、東の方角に不思議な気配を感じるようになりました。別の神が介入したのではないかと」
「そうね。多分、私の知り合いね。お前達が気配を感じると言うことは、光の柱が見える範囲にいるということになるわ」
「どのように致しましょう?」
「そうね……」
トゥルグは驚いた。女神が思案していることに。
神であるこの方は、常ならば少しも考えた様子もなく自分たちに指示を出すというのに。
「お前達でどんな者か確認し、ここに来る資格ありと見なしたら連れて来なさい」
「資格あり……ですか?」
「基準はお前達に任せるわ。最近、少し落ちつきすぎて、刺激が欲しかったところでしょう?」
そういう女神の言葉は笑いを含んでいた。
このお方が楽しんでいるならば良い。トゥルグはそう思い、頭を下げた。
「では、自分たちのやり方で試させてもらいます」
「ええ、報告を楽しみにしているわ」
そう言って、トゥルグは部屋を後にした。
「いかがでしたか?」
部屋の外には二人の騎士がいた。
一人は男、カイエ・カルンツェル。元光の神の神殿騎士で剣の達人である。温和な性格で人々に慕われている。
もう一人は女、フィーティア・スオン。小剣と魔法を同時に操る赤髪の魔剣士。戦場ではすばしっこく過激に動き、性格もそれに準じる猟犬。
二人ともトゥルグの部下に相応しい手練れであった。
「女神様は、彼の者を自分たちなりのやり方で試せと仰った」
「それは……」
「つまり、アタシ達の好きにしろってことだよね?」
カイエは思案しながら、フィーティアは期待に満ちた目で反応を返した。
「トゥルグ殿、どのように致しますか?」
「恐らく、やってきたのは女神を連れ戻す使命を帯びた神の使徒だ。……お帰り頂くしかなかろう」
そう言うと、二人の騎士は同時に頷いた。
その日、女神の三騎士は東に向かって出発した。
彼らが戦支度で神殿を出るのは実に半年ぶりのことであった。
○○○
「あれが街か……」
「ヴルミナの街。女神の国を除けばこの辺りで最も栄えている場所ですわ」
「久しぶりにですね、ここに来るのは」
街道の近くでバギーを降りた俺達は、丸一日歩いて、ようやくヴルミナの街の門に到着した。
俺達はこの街に用件がある。
端的に言って、路銀が尽きかけているのだ。
シーニャの「ちょっとお金が心許ないんですの」の発言によって、俺はようやく金銭事情について思い至った。
この世界に来てから金が必要な場面がなかったせいだ。
すぐ神様に「現地通貨くれ」と打診したが、「昔、それで経済に異変を起こしたことがあるので最後の手段にして頂けると……」と返答が来た。代わりに水と食料を貰った。神様にも色々あるらしい。
「この町で、女神の国で活動するくらいの金を稼がなきゃならんな」
「大丈夫。私達ならすぐですよ!」
セインが自信たっぷりに言い切った。
俺達はこのヴルミナでできるだけ金を稼いだあと、一気に女神の国に入って姉妹の復讐と俺の目的を完遂するつもりだ。
その間、資金に余裕があるようにしておかねばならない。シーニャ曰く「金貨百枚……いえ、金貨二百枚あれば安心ですわね」と言っていた。
何でも、一人の人間が平均的な暮らしをすると、一年間に金貨三十枚ほど必要とのことだった。
つまり、三人で二年は暮らせるだけの資金を捻出したいとシーニャは言ってるのである。
短期間では難しい話に思えるが、シーニャとセインはそれほど問題視していないようだ。金策のあてがあるらしい。
さて、そうなると問題は俺の方だ。
今の俺は慎重二メートルのモヒカンマッチョ(棘付き肩パッド付き)だ。果たして人間の街で受け入れられるだろうか? 悪人面なので問答無用で捕まったりしないか心配だ。
そんな俺の不安を杞憂にしてくれたのはステータス鑑定だった。
街を目指しながら、前から気になっていた俺の種族「天使」について鑑定してみた。
【種族:天使】
・カリスマ 初対面の相手に好印象を与える(モヒカンマッチョな外見で相殺)。
・天使の鎧 天使がその身に纏う、見えない鎧。物理攻撃半減。属性攻撃半減。魔法攻撃半減。
・天使の肉体 あらゆる状態異常を無効化する。
・感情制御 理性・欲望をコントロールできる。
・言語理解 あらゆる言語でのやりとりが可能。
つえぇwww
おっと、思わず変な言葉を使ってしまった。
なるほど。「カリスマ」か。転生前に「現地で人に会っても大丈夫」みたいなことを神様が言ってたのはこれがあるからだな。
モヒカンなおかげで相殺されてるけれど、つまりは、初対面の人に悪印象を抱かれない程度の状態ってことだ。いや、そういや、最初に会った馬車の護衛はびびってたな。過信しないようにしよう。
あと、これまでライクレイ姉妹と一緒にいてアレな感情が必要以上に刺激されなかった理由もよくわかった。まさか天使の種族特性のおかげだったとは。冷静な判断が出来るというのは非常に有利に働くだろう。
ともあれ、おかげで安心して街に入れる。精神的に楽になったらちょっと楽しみになってきた。
何しろ、俺はこの世界に来て、初めて人間の街に来たのだから。
「初めての街だ。どんなもんがあるか、ちょっと楽しみだぜ」
「あらあら、遊びに行くんではないのですのよ?」
「いいではないですか。カーン殿、私達がご案内致しますよ」
期待を胸に、俺はヴルミナの街へと足を踏み入れた。
神殿と呼ばれているが実質は宮殿である。広大な建物内には国を回ための政務担当者のための建物もあるからだ。
建物は壮麗。曲線で形作られた優美な建物は白と金で彩られており、女神の加護か少しも汚れることはない。
そして何より、女神の存在を示す光の柱の存在である。
神の持つ力の強大さを示す光は、女神の国に繁栄をもたらしている。
ここは女神の国。今、この世界でもっとも幸せな場所。
そんな場所に似つかわしくない不景気な顔の男が、広い廊下を歩いていた。
白に金の刺繍が入った服を着た男である。白と金は女神の好む色であり、神殿内でその配色の服を着ることが許された者は限られる。
彼の服は女神から直接賜ったものだ。見た目は布だが、並の鎧以上の強さと驚くべきしなやかさを備えた防具である。
また、腰に帯びる長剣もやはり女神由来の武器である。
無精髭の目立つ、鋭い目つきの細面の男。
彼こそが『女神の三騎士』の筆頭、トゥルグ・ミロスワである。
トゥルグが歩くのは女神の国の中枢部。先ほどからすれ違う人々は、彼の表情を見ると怯えた様子で道を譲っていく。
それもこれも、彼が戦場さながらの殺気を放っているからだ。
目つきは悪くとも優しいと評判のトゥルグである。その彼が無言で眉間に皺を作って殺気を放っていれば、ただならぬことが起きたことは明白だ。
歩き去るトゥルグを見送った人々は、何事が起きたと小声で語り合うのだった。
「失礼致します」
ノックも無しにトゥルグはその部屋に入った。
「そろそろ、来る頃だと思っていたわ」
部屋の主は咎めもせずに、そういった。
室内に幾重にも張られた薄布のせいで、主の居場所はわからない。
しかし、その存在感は物理的な圧力を感じるほどトゥルグに伝わってくる。
眼の前にいるのはこの国の主にして、神の一柱なのだから、当然だ。
「……では、自分が何を言うかもご存じですね」
「報告はお前の仕事です。話しなさい」
有無を言わせない口調だった。勿論、不満はない。これこそが自分の仕事なのだから。
「少し前から、東の方角に不思議な気配を感じるようになりました。別の神が介入したのではないかと」
「そうね。多分、私の知り合いね。お前達が気配を感じると言うことは、光の柱が見える範囲にいるということになるわ」
「どのように致しましょう?」
「そうね……」
トゥルグは驚いた。女神が思案していることに。
神であるこの方は、常ならば少しも考えた様子もなく自分たちに指示を出すというのに。
「お前達でどんな者か確認し、ここに来る資格ありと見なしたら連れて来なさい」
「資格あり……ですか?」
「基準はお前達に任せるわ。最近、少し落ちつきすぎて、刺激が欲しかったところでしょう?」
そういう女神の言葉は笑いを含んでいた。
このお方が楽しんでいるならば良い。トゥルグはそう思い、頭を下げた。
「では、自分たちのやり方で試させてもらいます」
「ええ、報告を楽しみにしているわ」
そう言って、トゥルグは部屋を後にした。
「いかがでしたか?」
部屋の外には二人の騎士がいた。
一人は男、カイエ・カルンツェル。元光の神の神殿騎士で剣の達人である。温和な性格で人々に慕われている。
もう一人は女、フィーティア・スオン。小剣と魔法を同時に操る赤髪の魔剣士。戦場ではすばしっこく過激に動き、性格もそれに準じる猟犬。
二人ともトゥルグの部下に相応しい手練れであった。
「女神様は、彼の者を自分たちなりのやり方で試せと仰った」
「それは……」
「つまり、アタシ達の好きにしろってことだよね?」
カイエは思案しながら、フィーティアは期待に満ちた目で反応を返した。
「トゥルグ殿、どのように致しますか?」
「恐らく、やってきたのは女神を連れ戻す使命を帯びた神の使徒だ。……お帰り頂くしかなかろう」
そう言うと、二人の騎士は同時に頷いた。
その日、女神の三騎士は東に向かって出発した。
彼らが戦支度で神殿を出るのは実に半年ぶりのことであった。
○○○
「あれが街か……」
「ヴルミナの街。女神の国を除けばこの辺りで最も栄えている場所ですわ」
「久しぶりにですね、ここに来るのは」
街道の近くでバギーを降りた俺達は、丸一日歩いて、ようやくヴルミナの街の門に到着した。
俺達はこの街に用件がある。
端的に言って、路銀が尽きかけているのだ。
シーニャの「ちょっとお金が心許ないんですの」の発言によって、俺はようやく金銭事情について思い至った。
この世界に来てから金が必要な場面がなかったせいだ。
すぐ神様に「現地通貨くれ」と打診したが、「昔、それで経済に異変を起こしたことがあるので最後の手段にして頂けると……」と返答が来た。代わりに水と食料を貰った。神様にも色々あるらしい。
「この町で、女神の国で活動するくらいの金を稼がなきゃならんな」
「大丈夫。私達ならすぐですよ!」
セインが自信たっぷりに言い切った。
俺達はこのヴルミナでできるだけ金を稼いだあと、一気に女神の国に入って姉妹の復讐と俺の目的を完遂するつもりだ。
その間、資金に余裕があるようにしておかねばならない。シーニャ曰く「金貨百枚……いえ、金貨二百枚あれば安心ですわね」と言っていた。
何でも、一人の人間が平均的な暮らしをすると、一年間に金貨三十枚ほど必要とのことだった。
つまり、三人で二年は暮らせるだけの資金を捻出したいとシーニャは言ってるのである。
短期間では難しい話に思えるが、シーニャとセインはそれほど問題視していないようだ。金策のあてがあるらしい。
さて、そうなると問題は俺の方だ。
今の俺は慎重二メートルのモヒカンマッチョ(棘付き肩パッド付き)だ。果たして人間の街で受け入れられるだろうか? 悪人面なので問答無用で捕まったりしないか心配だ。
そんな俺の不安を杞憂にしてくれたのはステータス鑑定だった。
街を目指しながら、前から気になっていた俺の種族「天使」について鑑定してみた。
【種族:天使】
・カリスマ 初対面の相手に好印象を与える(モヒカンマッチョな外見で相殺)。
・天使の鎧 天使がその身に纏う、見えない鎧。物理攻撃半減。属性攻撃半減。魔法攻撃半減。
・天使の肉体 あらゆる状態異常を無効化する。
・感情制御 理性・欲望をコントロールできる。
・言語理解 あらゆる言語でのやりとりが可能。
つえぇwww
おっと、思わず変な言葉を使ってしまった。
なるほど。「カリスマ」か。転生前に「現地で人に会っても大丈夫」みたいなことを神様が言ってたのはこれがあるからだな。
モヒカンなおかげで相殺されてるけれど、つまりは、初対面の人に悪印象を抱かれない程度の状態ってことだ。いや、そういや、最初に会った馬車の護衛はびびってたな。過信しないようにしよう。
あと、これまでライクレイ姉妹と一緒にいてアレな感情が必要以上に刺激されなかった理由もよくわかった。まさか天使の種族特性のおかげだったとは。冷静な判断が出来るというのは非常に有利に働くだろう。
ともあれ、おかげで安心して街に入れる。精神的に楽になったらちょっと楽しみになってきた。
何しろ、俺はこの世界に来て、初めて人間の街に来たのだから。
「初めての街だ。どんなもんがあるか、ちょっと楽しみだぜ」
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