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23.新たな出会い
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「駄目ですわね……」
「やはり駄目か……」
地面に描かれた魔法陣の上で俺はため息をついた。
杖を手にしたシーニャが申し訳なさそうな顔をしているが、勿論彼女のせいじゃない。
ヴルミナの街を後にした俺達は、とある場所に向かいながらパワーアップの方法を求めていた。
パワーアップ。ライクレイ姉妹はともかく、俺のその方針は明確だった。
魔法の習得だ。ステータスを見る限り、肉体強化系の魔法が使えるのは間違いない。敵は女神の三騎士、つまりは三人だ。万の軍勢を相手にするわけじゃない。ステータスを底上げは非常に効果的だ。
そんなわけで、前からお願いしていたシーニャ先生による魔法の授業をお願いしているのだが、それが一向に上手くいかない。
魔法陣の上に座り「まずは魔法の感覚に慣れることですわ」と何らかの儀式を行うのだが、魔法陣がちょっと光るだけで俺自身には何の変化も起きないのである。
ちなみに、試みはこれで三度目だ。三度目の正直というし、駄目で元々と思ってトライしてみたが、今回も不発に終わった。
「やはりこれは、根本的なところから見直す必要があると思いますわ」
「やっぱそっちか……」
優秀な魔法使いであるシーニャが、三度も失敗する可能性は非常に低い。
とすると、俺自身に問題があると言うことになる。
こちらの問題の推測は簡単にできる。俺は天使。人間じゃない。そのため、人間の魔法は使えない、という推測だ。
想像通りなら、俺が魔法を使えるようになるためには、人間の魔法使いに教えを受けていちゃ駄目だってことになる。
「簡単に強くなるってのは難しいもんだなぁ」
「ですわねぇ」
再びため息をつく俺とシーニャ。決意を新たに旅立ったが、上手くいかないもんだ。
そんな時、遠くから声が聞こえてきた。
声は女性で、こちらに近づく人影から発されていた。
「カーン殿ー! 姉上ー! これでしばらく肉には困りませんよー!」
することがないので狩りに出ていたセイン・ライクレイが元気いっぱいに叫んでいた。なんか街にいるときより元気な気がする。しかも、なんか猪を引きずってるし。あれ、解体して食うのか。
セインの後ろには光の柱。女神の存在証明が見える。
その輝きは、ヴルミナの街から見るよりも細く長い。
「あの子、体を動かしてると脳天気に見えますわね」
「遠回りしてて焦る気持ちはあるが、セインくらい心に余裕を持つべきなんだろうな」
俺達は一時的に女神の国から離れていた。
魔法の方は残念な結果が出ているが、幸い、最適な相談相手がいる。
そう、神様だ。
ヴルミナの街を出る前に俺はいつものノートに書き込んだ。
[カーンのノートへの記述]
女神の三騎士とかいう素晴らしく強い奴らに会いました。
どうやら激突は避けられないようです。
僕とライクレイ姉妹が強くなる手っ取り早い手段を教えてください。
[神様からの返信]
しばらくお待ちください。
その返信から数日後。ノートに追記があった。
[神様からの連絡]
ちょうど良い人材が近くにいました。
ヴァルキリーをご存じでしょうか?
優秀な戦士を死後ヴァルハラに導くという北欧神話のアレです。
それに近い存在が貴方のすぐ近くに滞在しています。彼女に会ってください。
注意点として、地上に常在しているヴァルキリーというのは正常な状態ではないことがあります。
つまり、彼女は壊れています。
壊れるといっても機能面や人格面に著しく問題が出たわけではありません。
ちょっと世界に対して感情的になってしまっただけです。
彼女の名前はタイシャ。その世界を気に入ってしまったヴァルキリーです。
事情を話したところ、快く協力を約束してくれました。
彼女は人里離れた地で、静かに暮らしています。地図に位置を記しておきますので、行ってみてください。
描かれた地図に記された場所は、女神の国から離れた海辺だった。
「なんで海なんだろうな……。人里離れてはいるけどよ」
街道を外れ、海辺の草原をバギーで走りながら俺は呟いた。地面の状態が悪いので姉妹と話せるスピードの超安全運転だ。
さて、問題のヴァルキリー。俺達の悩みを解決してくれそうなのはありがたいが、何故海辺なのか。
こういう時の定番は人里離れた山奥とかじゃないのか。いや、今俺達が走っている海辺も十分人里離れているが。
「山奥よりも海辺の方が暮らしやすいからかもしれませんよ。この辺、暖かいですし」
「そういった人間味溢れる理由だったら親近感が沸きますわね」
多少バギーが上下するが、海が見晴らせる気持ちの良い景色を見ながら姉妹が言った。
景色のおかげか、二人の表情は明るい。女神の三騎士に遭遇した後はしばらく落ち込んでいたが、少しは落ちついてきたみたいだ。
「そろそろだな……」
俺がそう呟いてから三時間後。全然そろそろじゃない道程の末、目的地が見えた。
砂浜とその向こうに見える小高い丘。
海を見下ろせるその場所に、ぽつんと佇む住みやすそうな一軒家が見えた。
白黒二色の二階建て。金持ちの別荘と言われれば納得してしまいそうな作りだ。
「ほんとにありましたわ……」
「街道から大分外れているとはいえ、こんなところに建物があるとは……」
ライクレイ姉妹が驚きながら言う。
今は何もないが、人間が増えたらあっという間に街を作られてしまいそうな場所に、ヴァルキリーは居住していた。将来的にどうするつもりなんだろう……。
いや、今は細かいことはいい。大事なのは俺達のパワーアップだ。
俺達は家に近づき。バギーを降りる。
玄関に向かってゆっくりと歩く。バギーも俺達も目立つので接近には気づいているはずだが、反応はない。
そのまま、玄関の前に到達した。
「もう話は通してあるらしい。だが、礼儀正しく挨拶からいくとするぜ」
「……正直、緊張します」
「ちょっとワクワクしますわ」
緊張しているセインとうきうきしてるシーニャ。それぞれの性格が出た反応を確認してから、俺は扉をノックした。
ノックに答えるように、扉の向こうから元気な足音が聞こえた。
そして、これといった警告も無く、ゆっくりと扉が開く。
現れたのは、人形のような容姿をした黒髪黒服、長身の美女だった。
超リアルなCGです、と言われても納得してしまいそうな美貌に気圧されつつも、俺は何とか落ちついて言葉を紡ぐ。まずは挨拶。挨拶は大事だ。
「はじめまして、モヒー・カーンだ。話はいってると思うが修行に……」
言葉はそこで遮られた。
「話は聞いていマース! タイシャのおうちへようこそ。ヒャッホー! 久しぶりのお客様デース!」
なるほど。これは壊れてる。
「やはり駄目か……」
地面に描かれた魔法陣の上で俺はため息をついた。
杖を手にしたシーニャが申し訳なさそうな顔をしているが、勿論彼女のせいじゃない。
ヴルミナの街を後にした俺達は、とある場所に向かいながらパワーアップの方法を求めていた。
パワーアップ。ライクレイ姉妹はともかく、俺のその方針は明確だった。
魔法の習得だ。ステータスを見る限り、肉体強化系の魔法が使えるのは間違いない。敵は女神の三騎士、つまりは三人だ。万の軍勢を相手にするわけじゃない。ステータスを底上げは非常に効果的だ。
そんなわけで、前からお願いしていたシーニャ先生による魔法の授業をお願いしているのだが、それが一向に上手くいかない。
魔法陣の上に座り「まずは魔法の感覚に慣れることですわ」と何らかの儀式を行うのだが、魔法陣がちょっと光るだけで俺自身には何の変化も起きないのである。
ちなみに、試みはこれで三度目だ。三度目の正直というし、駄目で元々と思ってトライしてみたが、今回も不発に終わった。
「やはりこれは、根本的なところから見直す必要があると思いますわ」
「やっぱそっちか……」
優秀な魔法使いであるシーニャが、三度も失敗する可能性は非常に低い。
とすると、俺自身に問題があると言うことになる。
こちらの問題の推測は簡単にできる。俺は天使。人間じゃない。そのため、人間の魔法は使えない、という推測だ。
想像通りなら、俺が魔法を使えるようになるためには、人間の魔法使いに教えを受けていちゃ駄目だってことになる。
「簡単に強くなるってのは難しいもんだなぁ」
「ですわねぇ」
再びため息をつく俺とシーニャ。決意を新たに旅立ったが、上手くいかないもんだ。
そんな時、遠くから声が聞こえてきた。
声は女性で、こちらに近づく人影から発されていた。
「カーン殿ー! 姉上ー! これでしばらく肉には困りませんよー!」
することがないので狩りに出ていたセイン・ライクレイが元気いっぱいに叫んでいた。なんか街にいるときより元気な気がする。しかも、なんか猪を引きずってるし。あれ、解体して食うのか。
セインの後ろには光の柱。女神の存在証明が見える。
その輝きは、ヴルミナの街から見るよりも細く長い。
「あの子、体を動かしてると脳天気に見えますわね」
「遠回りしてて焦る気持ちはあるが、セインくらい心に余裕を持つべきなんだろうな」
俺達は一時的に女神の国から離れていた。
魔法の方は残念な結果が出ているが、幸い、最適な相談相手がいる。
そう、神様だ。
ヴルミナの街を出る前に俺はいつものノートに書き込んだ。
[カーンのノートへの記述]
女神の三騎士とかいう素晴らしく強い奴らに会いました。
どうやら激突は避けられないようです。
僕とライクレイ姉妹が強くなる手っ取り早い手段を教えてください。
[神様からの返信]
しばらくお待ちください。
その返信から数日後。ノートに追記があった。
[神様からの連絡]
ちょうど良い人材が近くにいました。
ヴァルキリーをご存じでしょうか?
優秀な戦士を死後ヴァルハラに導くという北欧神話のアレです。
それに近い存在が貴方のすぐ近くに滞在しています。彼女に会ってください。
注意点として、地上に常在しているヴァルキリーというのは正常な状態ではないことがあります。
つまり、彼女は壊れています。
壊れるといっても機能面や人格面に著しく問題が出たわけではありません。
ちょっと世界に対して感情的になってしまっただけです。
彼女の名前はタイシャ。その世界を気に入ってしまったヴァルキリーです。
事情を話したところ、快く協力を約束してくれました。
彼女は人里離れた地で、静かに暮らしています。地図に位置を記しておきますので、行ってみてください。
描かれた地図に記された場所は、女神の国から離れた海辺だった。
「なんで海なんだろうな……。人里離れてはいるけどよ」
街道を外れ、海辺の草原をバギーで走りながら俺は呟いた。地面の状態が悪いので姉妹と話せるスピードの超安全運転だ。
さて、問題のヴァルキリー。俺達の悩みを解決してくれそうなのはありがたいが、何故海辺なのか。
こういう時の定番は人里離れた山奥とかじゃないのか。いや、今俺達が走っている海辺も十分人里離れているが。
「山奥よりも海辺の方が暮らしやすいからかもしれませんよ。この辺、暖かいですし」
「そういった人間味溢れる理由だったら親近感が沸きますわね」
多少バギーが上下するが、海が見晴らせる気持ちの良い景色を見ながら姉妹が言った。
景色のおかげか、二人の表情は明るい。女神の三騎士に遭遇した後はしばらく落ち込んでいたが、少しは落ちついてきたみたいだ。
「そろそろだな……」
俺がそう呟いてから三時間後。全然そろそろじゃない道程の末、目的地が見えた。
砂浜とその向こうに見える小高い丘。
海を見下ろせるその場所に、ぽつんと佇む住みやすそうな一軒家が見えた。
白黒二色の二階建て。金持ちの別荘と言われれば納得してしまいそうな作りだ。
「ほんとにありましたわ……」
「街道から大分外れているとはいえ、こんなところに建物があるとは……」
ライクレイ姉妹が驚きながら言う。
今は何もないが、人間が増えたらあっという間に街を作られてしまいそうな場所に、ヴァルキリーは居住していた。将来的にどうするつもりなんだろう……。
いや、今は細かいことはいい。大事なのは俺達のパワーアップだ。
俺達は家に近づき。バギーを降りる。
玄関に向かってゆっくりと歩く。バギーも俺達も目立つので接近には気づいているはずだが、反応はない。
そのまま、玄関の前に到達した。
「もう話は通してあるらしい。だが、礼儀正しく挨拶からいくとするぜ」
「……正直、緊張します」
「ちょっとワクワクしますわ」
緊張しているセインとうきうきしてるシーニャ。それぞれの性格が出た反応を確認してから、俺は扉をノックした。
ノックに答えるように、扉の向こうから元気な足音が聞こえた。
そして、これといった警告も無く、ゆっくりと扉が開く。
現れたのは、人形のような容姿をした黒髪黒服、長身の美女だった。
超リアルなCGです、と言われても納得してしまいそうな美貌に気圧されつつも、俺は何とか落ちついて言葉を紡ぐ。まずは挨拶。挨拶は大事だ。
「はじめまして、モヒー・カーンだ。話はいってると思うが修行に……」
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