異世界モヒカン転生

みなかみしょう

文字の大きさ
24 / 33

24.タイシャ

しおりを挟む
 俺達は海の見えるリビングに案内された。
 タイシャの家は作りも近代的な感じで、ファンタジー世界では無く現代の別荘にいるような気分になる。
 ソファーで寛ぎながら、歓待を受けつつ、修行についての話が始まった。

「何はトモアレ。遠路はるばるお疲れさまデース! ささ、冷たいものでもドウゾ」
「お、おう」
「ありがとうございます」

 テーブル上に冷たい飲み物が用意される。透明なグラス、氷、なんか泡立ってる透明な飲み物。

「……懐かしい味だ」
「変わった飲み物ですのね……」
「甘いです……」

 飲んでみたらサイダーだった。この壊れたヴァルキリー、さては好き放題してるな。

「甘いジュースを用意しましタ! 毒はないので楽しんでくださいネ!」
「……物凄く友好的ですのね。もっと事務的で恐い方を想像していたのですけれど」
「ほとんどのヴァルキリーはそんな感じデース! でも、タイシャは壊れてるのでちょっと変わってるデース!」
「壊れてるって自覚はあるんだな……」
「ちょっと感情を得てこの世界を気に入ってしまったイレギュラー。それがタイシャ。皆さんに害意は無いので安心してクダサイ」

 そう言ってタイシャはぺこりとお辞儀をした。言動はともかく所作は非常に丁寧だ。流石は神の使徒だ。俺とは大違いだな。

「……そういえば、自己紹介がまだだったな。聞いてると思うが、俺がモヒー・カーンだ」
「シーニャ・ライクレイ。魔法使いですわ」
「セイン・ライクレイ。妹で聖騎士です」
「タイシャです。自己紹介……シマス?」

 首を振る。もう十分わかった。

「話は聞いてると思うが……」
「エエ! バッチリ聞いてます! 特に妖精にサンシター神を布教した話は大爆笑デシタ! あれを聞いてタイシャは協力を決めたデス!」

 マジかよ。人生、何がきっかけになるか本当にわかんねぇな。

「皆さんは運がいいデス。タイシャは季節ごとに住処を変える主義。あと少し遅かったら物凄い豪雪地帯の山奥に行くハメになってたデス」
「そ、それは本当に運が良かったですわね」

 豪雪地帯への旅とか想像したくない。移動しやすく過ごしやすい海辺にいてくれて本当に良かった。
 俺がほっとしていると、セインが緊張した面持ちで口を開いた。

「あの、私達はそう簡単に強くなれるものなのでしょうか? カーン殿はともかく、私と姉上は普通の人間です」
「ウーン、そうデスね……」

 少し考えてから。タイシャがこちらを見た。

「カーンサン、ちょっと私を見てくれますカ? それでわかると思いマス」
「いいのか?」
「似たようなコト、タイシャもできマスから」
「あの、何の話ですの?」
「俺とタイシャは相手を見ることで、ある程度強さを知ることが出来るんだ」
「なんと、そのような便利な能力が……」

 確かに便利だけど、プライバシーが丸見えなのが問題だ。そこは教えないけど。

「じゃ、失礼するぜ」

【タイシャ】
種族:戦乙女

力 :999
魔法:999
速さ:999
防御:999
魔防:999

スキル:
・全武具適正L10:あらゆる武具を使いこなす。
・神代武技L10:神由来の武技を使いこなす。
・神代魔法L10:神由来の魔法を使いこなす。
・飛行L10:高速・高空で飛行可能。
・教練L10:武技や魔法を非常に効率よく伝えることが出来る。

備考:感情を得て以降、以上に住まう。人間に友好的な戦乙女。故障中。


「……滅茶苦茶強いじゃねぇか」
「ハッハッッハ! 驚きましたカ?」

 驚くも何も、これまで会った中で最強だ。もうこいつに全部頼んでしまおうか。

「なあ、いっそ俺達に協力……」
「それは駄目デス! 神の遣いが人間の営みに深入りするのは禁じられているのデス!」
「それだとカーン殿は全力で禁を破ってることになるんですが」

 セインの言うとおりだ。俺は全力で人間社会に関わっている。神の遣いなのに。知らなかったとはいえ、大丈夫なのか?

「カーンサンは特別デス! 人間と関わってもいいくらいに力が制限されてるデスヨ!」
「制限されてこの強さですのっ!?」
「俺も驚きだ……。いや、強くなる余地があるのがわかるのは嬉しいけどよ」
「美人姉妹サンもご安心を、タイシャは訓練のプロです! ネッ!」

 にっこり笑いながら言うタイシャ。
 俺は厳かに頷く。タイシャのスキル『教練』とやらは非常に有用だ。神様は最適な人材を見つけてくれた。後で祈っておこう。

「ああ、どうやらタイシャに稽古を付けて貰えば、飛躍的に強くなれるらしい」
「なるほど。伝承などで神やそれに近しい存在に力を授けられる場面がありますが、そんな感じになるわけですね……」
「そう考えるとちょっと素敵ですわ!」
「シンプルに地獄の特訓になりますデス! 覚悟してくださいネ!」
「…………」

 タイシャの笑顔に対して、俺達は全員真顔になった。

「期間は一ヶ月、明日から出来るだけみっちりと鍛えてやるデス!!」

 とりあえず、その日は歓迎会の後、早めに寝た。

○○○

 翌日、タイシャの用意してくれた部屋で目覚め。タイシャの用意してくれたパンケーキとミルクの朝食を楽しんだ後、俺達は砂浜に出た。
 装備を身につけ、タイシャを前に、一列に並ぶ。
 朝の空気と潮風が心地よい。地獄の特訓の始まりだ。

「さっそく特訓か。砂浜ダッシュでもするのか?」
「いえ、それは後デス。まずは、手っ取り早くカーンサンを強くしまス」

 後でやるのかよ……。って、俺を強くって、そんな簡単に出来ることなのか?

「そんな簡単にできるんですの?」
「簡単ではありますが、そうじゃないかもしれないデス」
「意味がよくわからねぇな」

 俺の言葉に、タイシャは少し難しい顔をした。

「んー、これはカーンサン個人に非常に関わることなので、お二人がいるところで詳しい説明をするのは控えたいデス……」

 なるほど。俺の個人的な事情について触れなきゃいけないような方法か。
 俺は既にシーニャとセインの事情に深く関わっている。なら、二人に俺のことを知る権利は十分にあると言える。

「……構わねぇよ。この二人とはもう一蓮托生だ」
「カーン殿……」
「カーン様……」
「本当にいいんデスカ? 個人的な事情を話すことになりますガ?」
「ああ、構わねぇ」

 俺の目をしばらく見つめた後、迷いが無いと理解してくれたタイシャが説明を始めた。

「では、改めマシテ。既に気づいているかもしれませんガ、カーンサンは天使として真の力を発揮できていません。その理由は、天使の体に人間の魂が入っているからデス」
「天使の体に……人間の? あのそれはどういう?」

 やっぱりその件か、今更隠すことでもねぇな。

「俺は別の世界の人間なんだ。実はそっちで死ぬ運命でな。それを覆すために、この体の中に入って、使命と共にこの世界に来た」
「そ、それはまさに神の御業ですが……」
「そんなことが起こりうるんですのね」
「俺も驚いた。女神に会って神様と仲直りするように説得するのが使命なんだ」

 今更ながら、命がけでやるには何だか間抜けな使命だ。いや、十分苦戦してるんだけどな。

「その使命を果たすと、カーン様……の中の人は生き返れるんですのね」
「ああ、そういうことになってる。それで、俺の中の魂が問題なんだな?」

 タイシャが頷く。

「ハイ。貴方は人間の感覚で天使の体を動かしています。おかげで肉体の性能を引き出せていませン」
「魔法を使えないのはそういうことだったんだな……」

 天使の体に人間の魂か、使いこなせてないと言われるのも納得だ。逆に、こんな歪な状態だからこそ、この世界で好きにさせて貰えたのかもしれない。

「わかりました! つまり、カーン殿に天使の肉体の使い方を教授すること、で飛躍的に強くなれるということですね!」

 状況を理解して嬉しそうなセインに対して、タイシャが首を振った。

「無理デス。根本的に、人間の魂では、天使の体を使いこなせません」
「なんですと!」
「……ちょっと話が見えて来たぜ。つまり、俺の魂をどうにかするんだな?」

 俺は、自分の精神について中途半端だという自覚がある。
 人間時代の記憶は曖昧で、人格だって元々から大分変貌している。『元の人生を生き直したい』という強い願望はあるが、それを他人事のようにも感じることがあるくらいだ。

「ハイ。カーンサンの魂は人間のものですが、長期保存するために半分以上休眠状態にあります。多分、カーンサン自身は『生き返りたい』という強い使命感がこみ上げてくる以外は、ご自分のことが曖昧なのでハ?」
「その通りだ。俺を突き動かす衝動はあるけど、人格としてはこの世界に来て生まれた感じだな……」

 現代日本の常識はあるが、異世界人らしいのはそのくらいだ。俺の人格が形成されたのはこの世界に来た後という認識がある。

「カーンサンは天使としての魂と人間の魂が混ざった状態なのデス。ですから、人間の魂にちょっと休んで貰えば……」
「俺は天使としての機能を発揮できるってことか! ……それ、危険はないのか?」
「ありマス。人間の魂を封じれば、貴方を動かす衝動が弱まり、最悪、使命を忘れた天使として成立してしまうでショウ……」

 ただでさえ元の人格にとって重要そうな記憶が無いのに加えて、感情まで失ってしまえば、俺はそのままでいられるかわからない。

「完全に別人になっちまうかもしれないってことか……。でも、対策があるからこんな話をしてるんだろ?」

 わざわざ危険な提案をするんだ。何かしらの準備はしているはず。
 このヴァルキリーが無闇にリスクを背負わせるタイプだとは思いたくない。
 そんな俺の願望に答えるかのように、タイシャは笑顔で答えた。

「ハイ。貴方が完全に天使となるギリギリまで魂を押さえ込む精神魔法を用意しまシタ。自分の魂と向き合って、この魔法を受け入れるよう説得してくだサイ」
「自分を納得させろってことか……」

 今更精神をいじることについてとやかく言わない。最初の段階でされたことだ。

「必要なのは覚悟。自分の運命を覆すために、自分を犠牲にすることができるカ。それを問う時が来たのデス」
「そうだな。それ、すぐできるのか?」
「望むナラバ」
「よし、やってくれ」
「カーン様! もっと良く考えてからの方がいいですわ!」
「危険はあるのですよ!」

 ライクレイ姉妹が心配顔で言ってくる。有り難いが、この件で迷う余地は無い。何より『手っ取り早い』のが実にいい。

「いや、きっと考えても結論は変わらない。俺もリスクの一つくらい負うべきだ」
「良い結論です。では、そこに座ってくだサイ」
「おう。ここでいいか? 儀式とかいらないんだな」

 俺が砂浜に座りながら聞くと、タイシャは握り拳を作りながら答えた。

「魔法はタイシャがかけますから。はい、では。アチョー!!」
「なっ、ぐおっ!」

 いきなり頭を殴られて、視界が暗転した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...