異世界モヒカン転生

みなかみしょう

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31.神殿の戦い

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 すぐに勝負がつくと思っていた。
 相手は魔法使い。動きは遅い。
 何よりこちらには魔剣の技がある。
 フィーティアの使う魔剣技は、剣に魔法を宿して打ち出す技術だ。
 セインなどの持つ魔剣とは根本的に違う技術で、魔法使いを打ち倒すために生み出されたもの。
 魔法を宿した剣で、魔法を打ち砕き、魔法使いを仕留めるのだ。
 
 フィーティアに油断が無かったと言えば嘘になる。
 しかし、誰が責められようか。
 彼女は女神の三騎士として加護を受け、並外れた実力を持っている。
 多少強くなったとはいえ、相手は以前倒した魔法使いなのだ。

 それがまさか、これほどまでに手強くなっているとは。

「なんなんだよ! この非常識な魔法は!」

 フィーティアの周囲に無数の魔法陣が展開していた。
 シーニャの古代魔法によって貼り付けられたものである。

「わたくしの魔法ですわ。この辺り一帯に、攻撃、防御、妨害、回復とわたくしが有利になるようあらゆる魔法が展開されています」
「そんなもの……!」

 魔剣を振りかぶると、魔法の矢が飛んできた。

「このぉ!」

 剣で切り払う。だが、この短い間にも魔法陣は増えていた。
 赤く輝く魔法陣。そのどれもが、油断できない威力を秘めているのが伝わってくる。

「魔法を発動できた以上、簡単にはいきませんわ。貴方を相手に戦うことは想定しておりましたもの」
「へぇ……随分準備がいいんだね」
「当然、ここに来て女神の三騎士が障害になるのは確実。対策くらい練っておきますわ」

 胸を張って言い切るシーニャ。
 やたらでかい胸部が強調され、フィーティアはちょっとイラッとする。
 コンプレックスなのだ、胸が。

「流石、賢い魔法使い様だね! でも、簡単にはいかないよ! 土の魔剣!」

 剣に魔力が宿し、地面を切りつける。
 切っ先から地面が隆起し、シーニャに迫る。

「甘いですわ!」

 シーニャが杖を振ると、地面の隆起が方向転換し、一気にフィーティアの横を通り過ぎた。

「へぇ、本当にしっかり対策してるね」
「魔剣技を使うとわかっていれば。調べることもできますのよ」

 全てはタイシャに教えて貰った知識である。
 今のシーニャは魔剣技相手なら、世界でもっとも秀でた魔法使いだ。
 
 しかし、シーニャ自身はそれほど余裕があるとは思っていなかった。
 今は優位に立っているが、これはすぐに覆される。接近されたら負けるのが魔法使いだ。
 カーンの援護にはいけないが、死力を尽くして足止めする。
 シーニャの覚悟は決まっていた。

「……思ったより楽しめそうだよ」
「カーン様の邪魔はさせませんわ……」

 魔法と魔剣の、二つの力の激突が始まった。 

○○○

 セイン・ライクレイが身につけた剣技は力の剣だ。
 技巧ではなく、力で相手を圧倒することを主に置いている。
 対するカイエも扱う武器は剣。剣技は同じく神殿のもの。

 自然、二人の戦いは力と力のぶつかり合いとなる。
 つまり、二人はゴリラとなる。

「うおおおお!」
「ぬおおおお!」

 似たような叫び声を上げながら打ち合う二人。
 時には拳や蹴りを繰り出す、力と力の戦い。
 一進一退。戦いは互角だった。
 ステータスの面で見ればカイエ有利だが、タイシャより伝授された「神技」がその差を埋めているのだ。

「腕を上げたな。セイン・ライクレイ!」
「カイエ先輩こそ! ですが、負けられません!」
「それは私も同じ事!」

 一度距離を取った二人は叫び声で会話。
 そして、互いに武器を振りかぶり、ぶつかり合いを再開する。

「うほおおおおおおおお!!」
「ほあああああああああ!!」

 一撃、二撃とそれぞれの剣が折れんばかりの剛力の激突。
 どちらも魔剣、ぶつかった余波で魔力の衝撃波が発生し、周囲の建物がどんどん崩れていく。

「うほ! うほおおおお!」
「ほあああ! ほあ! ほああああ!」

 ゴリラ達の戦いは、終わらない……。

○○○ 
 
 天使形態は危険な状態だ。
 『本来の自分』を閉じ込めて、天使としての力を使う。
 長引くほど、俺は天使に近づく、人間であることを忘れていく。
 普通なら、天使形態になれば速攻で片がつく。
 しかし、トゥルグは普通じゃなかった。

「いい加減倒れな!」
「それはこちらの台詞だ!」
 
 トゥルグの剣を斧で受けながら叫ぶと向こうからうんざいした様子の返事が来た。
 動きは追いつける。天使になった俺は肉体強化魔法によってステータスが底上げできる。
 その上、タイシャから教わった神技というスキル。
 この二つのおかげで、戦闘は俺有利に進められていた。

 しかし、トゥルグは強い。
 単純に、戦闘の経験値が違う。
 肉体のスペックで凌駕していても、俺が追い詰め切れないのはそこが原因だ。
 たまに、予想もしていない一撃が俺を襲い、状況が覆される。

 今もそうだ。俺の斧を大きく跳んで回避。天井を足場にして即座に反撃してきた。
 しかも、空中で俺に向かって剣から魔法を打ち出して来やがった。

「うおおおお!」

 斧で迎撃。そのまま剣と打ち合う。速度も力もこちらが上だが、技量はあちらが上。
 何度やっても決め手が無い。
 もっと力を上げなければ、そのためには自分を殺して、天使の力を引き出して引き出し引き出し引き出しししししししししし……。
 
 …………自分は何者だったか?

「隙あり!」
「おおおお!」

 目の前の迫ったトゥルグの剣を何とか斧で受け止めた。
 威力を受け流すことはできず、そのまま吹き飛んで壁に激突。
 女神の神殿は丈夫な建物だ。崩れたりはしない。俺の全身に激痛が走る。

「いてて……今のはヤバかったな」
 
 一瞬、自分の意志を失いかけてた。攻撃されて正気に戻れたのはラッキーだ。

「そろそろ、決着が近そうだな」

 俺の前に立ち、剣を構えるトゥルグ。実に様になっている。こりゃあファンも多そうだ。

「仲間の乱入がないのが幸いだな」

 俺も斧を手に立ち上がるが。正直、焦っていた。
 天使形態でもってしても、トゥルグを打倒するのは難しそうだ。
 いや、殺すつもりでいけば話は違うかもしれない。

 正直に言おう、俺はこいつを殺したくない。
 こいつはきっと、この世界に必要な人間だ。

 何かいい手は無いか……。
 シーニャとセインは助けに来ない。
 これ以上天使の力を出すと正気を失う。どうする……。

「ここまで来て申し訳ないが、女神様に卿を会わせるわけにはいかん!」

 そう宣言して、こちらに疾駆するトゥルグの背後に、光の柱が見えた。
 光の柱。つまり、女神そのものが、目の前の建物にいる。
 そして、俺の目的は女神に会うことだ。
 目の前の男に勝つことじゃない。

 なんだ。簡単な話じゃねぇか。
 勝利条件を、この場に引きずり出せばいい。

 俺は切り札の一つ。妖精の魔法で姿を隠す。

「なっ、消えただとっ!」

 驚くトゥルグ。よし、俺を見失った。
 だが、こいつくらいの達人になると気配を察知するくらいありそうだ。
 長時間消えるのは危険。なら、やることは一つ。
 俺は立ち位置を変えて、トゥルグではなく女神の建物の直線上に姿を現す。

「俺はここだぜ!」
「しまったっ!」

 トゥルグも俺の狙いを察したらしい。だが遅い。
 斧を構え、叫ぶ。女神のいる場所に向かって。

「汚物は消毒だああああああ!」

 天使形態、最大出力の爆炎が斧から吹き出した。

「やめろおおお!」

 トゥルグが叫ぶが爆炎は止まらない。
 斧から吹き出た爆炎は、俺の意志にしっかりと応え、女神の建物に直撃した。
 
「なっ……、なんという無茶苦茶を」

 煙と崩れ落ちる建物を見て、愕然とするトゥルグ。

「へ、狙いどおりだぜ……」

 崩れた建物を見て、俺は笑った。
 流石に自分の部屋を壊されれば、女神が出てくるだろ。

「何と強引な手法を!」
「仕方ねぇだろ。これしか思いつかなかったんだから」

 がらがらと音を立てて崩れる女神の部屋の一部を眺めながら言った。

 かつて、神様は「女神に会えば何とかなる」と言っていた。
 それが自分の家をぶっ壊されても大丈夫なレベルかどうか、そこは賭けだ。

 トゥルグの方は剣を収めていた。もう戦う気はないようだ。
 それ以上の状況が起きたからな。

 そして、それは現れた。
 金髪で薄布をまとった美女だ。
 圧倒的な存在感、天使としての体が畏怖を覚え、全身が震えた。
 金属音がした。斧を落とした音だ。
 俺は女神を前して動けなくなっていた。
 何とか視線を動かすと、横ではトゥルグが跪いていた。

 なるほど。これが神か。
 女神は俺達を一瞥してから言った。

「随分派手なノックをしてくれたわね。貴方、ダーリンからの遣いね。……なかなか面白い外見と魂をしているわ。話を聞きましょう」

 どうやら、話くらいはできそうだ。
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