異世界モヒカン転生

みなかみしょう

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33.そして、俺は僕になった

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 外に出ると、全員が不安げな顔をして待っていた。

「カーン様!」
「カーン殿!」
「心配掛けたな。話は全部終わった」

 手を振って答える俺を見たシーニャがほっとした様子で言う。

「その様子だと。良い結果になったのですわね?」
「ああ。あっちの男が、俺を遣わした神、サンシターだ。しばらくこの世界で女神様と共に暮らすことになった」

 その台詞にトゥルグが反応した。

「……女神様。我らを見捨てぬ慈悲に感謝致します」

 トゥルグが跪くと、残りの三騎士がそれに続いた。

「モヒカンさんに感謝しなさいよぉ。私とダーリンが一緒にいるように頼んでくれたんだからぁ」

 それを聞いて、立ち上がったトゥルグが俺に向かって頭を下げた。

「カーン殿。感謝致す」
「気にしないでいいぜ。たまたま、思いつきが上手くいっただけだ」

 いや、本当にラッキーだった。日頃の行いだな。

「カーン君。そちらがライクレイ姉妹だね。別れを言わなくていいのかい?」
「ん、ああ、そうだな」

 俺はライクレイ姉妹の前に行く。別れの言葉くらい必要だろう。

「え、あの、もう行ってしまうのですか? 少しは時間があるものかと」
「無事に使命も果たしたことだし、ゆっくりしていってもいいんですのよ?」

 二人はそう言うがどうしたもんか。
 俺が困っていると、女神が近寄って来て、耳元で囁いた。

「その二人、モヒカンさんに惚れてるわよ。女神が保証するわ。少し生き返るのを伸ばして、一緒にいてもいいと思うけど?」
 
 その後のことも保証するわよ、と女神が付け加える。
 生き返るのを引き延ばして、二人と過ごすか……。
 悪くない。
 悪くないけど、俺はこの世界の人間じゃない。
 二人にとっての俺は、運良く出会った恩人くらいの立場でいいだろう。
 そして、彼女たちの人生をあるべき形に戻す、それが俺の最後の仕事だ。

「未練が残ると帰りにくくなっちまう。だから、ここで終わりだ。シーニャ、セイン。本当に世話になった」
「…………」

 シーニャ・ライクレイとセイン・ライクレイ。
 二人は真っ直ぐな視線で俺を見た後、それぞれの作法で静かに一礼した。

「モヒー・カーン様。優しき神の遣い。お礼を言うのはわたくし達の方です」
「ええ、本当に、感謝の言葉もない。私達だけでは、ここまで来れなかった」

 顔を上げた二人の目には涙が光っていた。
 別れの涙だ。悪いものじゃない。

「なに。互いに利用し合っただけだ。おかげで俺も順調に旅ができた」

 そういって、俺達は握手を交わした。
 それから俺は女神と神様を見る。

「二つ、頼みがあります」
「聞けることなら叶えたい気分よ。ダーリンが」
「……まあ、そうだね」

 丸投げされた神様に苦笑しつつ、俺は望みを口にする。

「シーニャとセインは、家の秘宝を密輸する馬車を襲ったので、ステータスを見ると犯罪者扱いになっています。そこを女神様の力で恩赦を与えて欲しい」
「それ、犠牲者でてるの」
「全く出ていないよ。保証する」

 神様が補足してくれると、女神は笑顔で言った。

「なら簡単ね。安心なさい。そちらの美人姉妹は犯罪者じゃないわ」

 よし、これで安心だ。

「それともう一つ。女妖精に妖精の里に帰るように言ってください。男だけになって、大分苦しんでいます。あるいは、男妖精をここに呼んでもいい」

 忘れちゃならない妖精のこと。
 隠れ身の魔法は色々と役立ってくれた。
 せめて約束くらいは果たしておこう。

「それも簡単ね。請け負うわ。それだけでいいの? 私、あなたのこと気に入ってるから色々叶えてあげるけど?」
「あとは、元の世界に戻れれば十分です」
「欲の無い子ね」
「そこが気に入っていたんだろう?」
「まあね」

 神様達の短いやりとりのあと、そのまま俺の帰還が始まることになった。
 神様が念押しするように俺に向かって言う。

「では、カーン君。本当にいいんだね? もう少し時間をかけてもいいんだよ?」
「さっきも言ったように。未練が残るといけない。やってくれ」
 
 心配そうに見るシーニャとセインが目に入るが、俺はあえてそちらを見ない。

「元の世界に戻ったら、この記憶はどうなる?」
「長い夢を見ていたくらいの扱いになるよ。異世界の記憶が色濃く残るのは良くないからね。記憶を曖昧にしたのもそこが理由さ」

 この記憶にもちゃんと理由があったのか。まあ、納得いく話ではある。

「ありがたい。向こうで思い出したら辛そうだからな」
「別れが辛いほど、良き出会いであったということさ。では、いくよ」

 神様はこちらを慮った優しいことで言ってきた。
 この体は神様が用意したものだ。俺の感情くらい読めるのだろう。
 帰りたくないって思いも、少しばかりあるのも事実だ。
 だから、これ以上のここへの滞在は危険だ。
 俺の中の生き返りたいという使命感があるうちに帰るべきだ。
 俺はこの世界の住人ではないのだから。

「では、目を閉じて」

 神様の手のひらが頭に当てられる。
 目を閉じると、暖かい感覚と共に少しずつ意識が薄れていく。

○○○

 気がつくと、僕は白い空間にいた。
 前と同じく、地面と天井が曖昧な世界だ。
 そして、目の前には身長二メートルはあるモヒカンマッチョがいた。
 僕はそれに驚くことなく、話しかける。

「モヒー・カーン?」
「そうだ。お別れの時間ってやつだな」
「僕は貴方だったのに、別人みたいなんだね」
「ま、人格的には割と別人だしな。最後の戦いの時、ちょっとやばかったけどな」

 あの時は僕の意識が消えかけた。
 でも、頑張った甲斐はあったみたいだ。

「うん。貴方が頑張ったおかげで何とかなった」
「あれはお前の手柄だ。お前は俺なんだからな」

 何となく、僕達は二人で笑いあった。
 周囲の靄が少しずつ晴れていく。

「時間みてえだな。……達者で暮らせよ」
「うん。貴方が取り返してくれた人生、大事に生きるよ」
「まあ、あんまり気張らず。体を大事にな」

 そう言うカーンの体は少しずつ薄れ始めていた。
 多分、僕の覚醒が近いのだろう。

「ありがとう。そして、さようなら。もう一人の僕……」

 手を振ると。モヒカンマッチョが男臭い笑顔で応えてくれた。

「あばよ。なかなか楽しかったぜ」

 それが、モヒー・カーンとの別れだった。
 僕は自分の意識が薄れていくのを感じた。
 まるで、穏やかに眠りに落ちるようだ。
 次に目覚めれば、全ては記憶の彼方。
 でも、その記憶のおかげで僕は再び生きていける。
 最後になんとか、言葉を紡ぐ。

「僕も、楽しかったよ」

 その声が届いたのか、消えかけたモヒカンマッチョは、もう一度手を振ってくれた。

 そして、俺は僕になった。
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感想 4

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みんなの感想(4件)

ミラクルぱるぷんて

善の心を持ちつつ結果的に悪っぽい道に進んでしまう
とかを期待してました

2017.10.21 みなかみしょう

申し訳ないです。割りと普通のこのまま話が進みます。10万字くらいで終わる予定です。

解除
ミラクルぱるぷんて

モヒカン生活も大分板について来たようで何よりです
頑張ってください

解除
ミラクルぱるぷんて

これは良いものだ

解除

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