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第38話:再会と同窓会

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 エリア・リコニアに接触するため、冒険者としての知名度を上げる作戦は、上手くいった。
 というか、上手くいきすぎた。
 脱出路を確認する依頼を受けた翌日から、オレの姿は冒険者ギルドでは無く、ザイアムの町にある領主の別邸にあった。

 町の中心から少し外れた、敷地を大きく取られた屋敷。その一室で、オレはエリアと共に仕事をすることになった。

「これから三カ所に輸送。荷馬車は各商会で準備してるから、これからやるわよ。戻ったら、昨夜のうちに準備してくれてた分もね」
「なあ、冒険者ギルドよりもハードに働かされてる気がするんだが……」
「仕方ないでしょ。領主直々からの仕事がこれなんだから」

 オレ達のところに回されて来ているのは、武器、食糧、資材類の輸送依頼だ。冒険者ギルドと話し合いの上で、オレは領主と直接契約したテレポート屋になっている。
 これまでとの違いは仕事量だ。
 冒険者ギルドからの依頼は、その量が制御されていた。本気で飛び回れば他の人の仕事まで奪ってしまうので、そうならないように金持ち限定、高額で仕事を回すように調整してくれていた。

 今回は全然違う。最大効率でオレを稼働させている。わざわざ魔力回復ポーションまで用意してくれている辺りに、その意志の強さを感じることができる。
 戦争に関する情報を得やすくなるので歓迎すべき状況ではあるが、この仕事量にはちょっと困ってしまう。
 なにより、運んでいる物資的に断るわけにもいかない。
 既に五日、オレはそこらじゅうをお目付役のエリアと共にテレポートで飛び回っていた。

「こんなにしっかり準備できてるってことは、近いのか?」

 なにを、とは言わずに聞くと、エリアは首を横に振った。

「ごめん。私もはっきりとはわからないの。家族といえど、学園を出たばかりの新参にはそこまで話してくれない。でも、これだけ物資を運んでるってことは、お父様はそう考えているんでしょうね」

 オレが運ばされているのはどう見ても戦時用の物資なのだ。リコニア辺境伯は優秀な人物なので、これは戦争の気配が相当近づいていると見ていいんじゃないかと思う。

「ま、まあ、今日明日にでもってわけじゃないと思うわよ。騎士団とか傭兵とか、そっちの準備はしていないもの。先に物資だけ用意しているんじゃないかしら」
「そういう考え方もあるか……」

 全然わからん。ただ、戦時の気配があるってことは確かだ。

「とりあえず、仕事をしちゃいましょう。テレポートで一瞬なんだし、早く済ませて休憩しましょ」
「たしかに、仕事自体は早く済むしな」

 考え込むオレを見て、エリアが明るく言う。

 オレはザイアム周辺の小さな町までなら大体テレポートできるようになっている、移動時間だけ見れば荷物が用意された各商会までの時間の方が長いくらいだろう。魔力もそれほど使わないから、余裕はある。

「私の方でも色々聞いてみるから、まずは仕事をこなすこと、でしょ?」
「そうだな」
「フォミナが帰ってきた時、喜びそうなお店も教えるわよ。せっかく賑やかな所に来たんだから、少しは楽しみなさいよ」
「それはありがたいな」

 フォミナのことを話すと、エリアはとても会いたがっていた。付き合いが深いわけじゃないけど、同級生女子だとそんなもんだろうか。
 日程的に、彼女もそろそろ神殿の仕事を終えて帰ってきてもいいはずだけど。

 先に目的を達成できてしまったことを心の中で詫びつつ、オレはエリアと共に輸送の仕事へと向かった。

○○○

「やっぱり美味しい店を聞くなら地元の人間だなぁ」
「でしょう。甘い物に限らず、色々教えるから知っとくといいわよ」
 
 半日後、今日の分の輸送を終えたオレとエリアは街中のモダンな雰囲気の喫茶店でケーキを食べていた。オレ如きには詳細のわからない、いくつものクリームを組み合わせられたフルーツケーキは絶品だ。一緒に出て来たコーヒーも美味い。

 お高い店らしく、店内の客層は落ち着き、自分が浮いているんじゃないかと心配になるほどだ。幸い、常連らしいエリアのおかげでおかしな目では見られていないけど。

「貴方の予知夢、時期がはっきりしないのが不便ね。そこがわかれば、もっと色々できるのに」
「夢だからなぁ。その辺はあてにならないみたいだ」

 話題は自然とオレの予知夢……ということになっている帝国との戦争の話になっていた。オレのゲーム知識とこの世界の動きは時期にずれが出てきている。黒神が不吉なことを言っていたので、色々と変わってきているのかもしれない。
 そう思うと不安が増すが、思いついたことを頑張って実行するしかないんだよな。今はエリア経由で正確な情報を知りたい。

「やっぱり、フォミナが帰ってきたら、屋敷に住み込んでもらうのがいいと思うんだけれど」
「その話か……。オレとしてはありなんだけどな」

 エリアが言っているのは、宿から通うのではなく領主の別邸にいっそ住み込んでしまえという話だ。部屋は余っているし、別邸とはいえ領主の屋敷にいれば情報が得られる可能性がぐんと上がる。上手くすれば、辺境伯その人と話す機会だって得られるかもしれない。
 この決断は、フォミナが帰ってきてから、とオレは先延ばしにしている。外回りの仕事から帰ってきてオレが宿にいなかったら、びっくりするやら悲しいやらで彼女に悪すぎる。

「私としても同級生がいてくれた方が頼もしいし、嬉しいのよ。良い返事を待ってるわ」
「わかった。……しかし美味いな、ここのケーキ」
「そうでしょ。開店する時にうちがちょと出資してるのよ。あ、良ければ私の分もちょっと食べる? わけてあげるわよ、ほら!」
「え、ちょっと……」

 嬉しそうにいいながら、自分の分のケーキを切り分けて、直接食わせようとしてきた。そうだこの子、たまに距離感がおかしいんだ。

「楽しそうですね、マイス君……」

 いきなり、ここにいるはずのない人物の声が聞こえた。
 声のした方、後ろを振り向くと、久しぶりに見る仲間の姿があった。

「フォミナ……なんでここに」
「……ようやく町に戻ってきたら、同級生とマイス君の姿を見るかけたんで入ってみただけですよ。楽しそうですね、続きをどうぞ」

 そういうフォミナの声はかなり底冷えするような無感情なもので、表情からは無そのものになっていた。暴れ回る自分の心を必死に押さえてる、そんな感じだ。

 どうやら、非常に良くないタイミングで、仲間と再会してしまったようだ。

○○○

「なるほど。一足先に、マイス君がエリアさんと一緒に仕事をする関係になっていたのですね」
「そうそう。それで、今度フォミナと行けそうな良い店を紹介して貰ってたんだ。ここ、エリアの地元だしな!」
「せっかくだから、二人にザイアムを楽しんで欲しかっただけなのよ!」

 フォミナがとても怒っていたので、オレとエリアは二人がかりで頑張って説明した。
 テレポートによる商売、領主の仕事を代行する上で困っていたエリア、そのまま領主お抱えの輸送屋みたいになっていること。
 順を追って説明することでフォミナの表情は柔らかくなり、ようやく一緒の席に座ってくれた。

「では、先ほどケーキを食べさせようとしていたのは?」
「……あれは、仕事を終えたテンションでつい。ごめんなさい」
「距離感については今後気を付けて欲しい」
「!? あんたはちゃんと私のフォローしなさいよ!」

 いや、そこはオレ悪くないし。
 恐る恐るフォミナの方を見れば、意外にも笑顔だった。

「冗談です。私が色んな村にいくたびに嫁に来てくれだの言われたり、神殿の人に勧誘されたりするのを必死に躱しながら働いてる裏で、マイス君が女の子とイチャイチャしてたなんて……と思うと、ついこみ上げて来るものがあっただけです」

 笑ってるのは顔だけじゃないかな、これは。

「とりあえず、フォミナの分のケーキを頼もう。仕事の完了と再会を祝して、ということで」
「かなり食べたい気分ですね」
「私のお勧めどんどん頼むわよ。今日は奢っちゃう」
 
 メニューを見ながら、エリアが次々にケーキを注文した。
 
 三十分後、フォミナの機嫌は直っていた。

「フォミナあんた、苦労したのね。私も家のことは色々あるけど、そっちも大概だわ……」
「はい。でも、私はマイス君が助けてくれましたから」

 甘い物好きのフォミナへのケーキ攻勢と、コミュ力高めのエリアとの会話により、何とか状況は改善していた。
 自然、話は卒業後からこれまでのことになり、たった今フォミナの口からメイクベの出来事が伝えられた所だ。

「しかし、マイス。あんた、やるわね。本当に見直したわ」
「そうでもない。直前までどうするかかなり悩んだしな」
「それでも、ちゃんと助けたのが偉いと思うのよ。自分の命をかけてボスとの戦いへ身を投じるなんて、なかなかできることじゃないわ!」

 フォミナの口から語られるオレは、大変頼もしい人物だった。横で聞いてると恥ずかしいくらいに。

「あの時は本当に、もう自分は終わりだと思っていましたから。今でも夢に見るほどです」

 なんかうっとりしながら言われてるが、当事者としては照れるくらいしか出来ない。あれだって、勝算がなきゃやらなかったんだが。

「いいわね、あなた達。……ねぇ、今の話、本にしていい?」
「本?」
「…………」

 エリアの唐突な発言に、怪訝な顔をするフォミナと、沈黙するオレ。来たか、という感じだ。この領主の娘の趣味は、同人誌みたいな本を作ることだ。漫画じゃないけど、イラスト多め、夢一杯に脚色された書物を自主製作し、各所に流通させている。

「もちろん、本人がわからないように脚色するわよ。こんないい話聞いたら、創作意欲が沸いちゃって困るんだわー」

 一人で身もだえしながら言うエリア。現物を目にするとちょっと恐いな。

「あの、意味がわからないんですが?」

 困った顔をしたフォミナがオレの方を見た。

「聞いたことがある。エリアの自主製作本だろ。既刊を見せて貰った上で、フォミナが良いと判断したならオレはいいよ。ただ、可能な限り脚色してくれ」
「その言い方、やっぱりただ者じゃないわね、マイス。ちょっと興味出てきたわ」
「…………」

 今のはオレが元々オタクだから使い慣れた言葉が出てしまっただけで他意はない。フォミナの視線が恐い。エリアの好感度を稼ぎにいったわけじゃないんだ。

「本なら別邸にも少しあるから、大丈夫よ。そうだ、引っ越しの話も進めちゃいましょうか」
「オレとフォミナが揃ったら、領主の別邸に住まないかって薦められてるんだ。情報収集的にも、仕事的にも都合がいいだろうって」
「そのうえ、私のお客様だから、宿代はかからないわよ!」

 親指立てながらエリアが補足する。

「この様子だと、マイス君は了承してるんですね?」
「辺境伯に直接会える可能性があるし、色々と助かるのは確かだからな」

 輸送の仕事で固定されるデメリットはあるけれど、それ以上にメリットが大きい話だ。断る手はない。

「わかりました。マイス君と一緒ということなら、喜んで同行します」
「良かった。私も嬉しいわ。よろしくね、二人とも」

 納得したフォミナが微笑で頷くと、エリアが快活な笑顔で応えた。

「ところでマイス君。エリアさんと会ったなら、例のノートで教えてくれても良かったのでは?」
「あ……」

 クラム様との情報共有ノート。あれを使えばもっと円滑にことが進んだ。なんてこった、目の前のことに必死で気づかなかった。駄目だな、気を付けないと。

「今後気を付けます……」
「そんな本気で謝らなくても……」

 かなり本気で凹んだけど、この後、三人だけの同窓会ということで食事に行ったりして、その日は結構楽しく過ごした。
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