日本戦車を改造する。

ゆみすけ

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内地での論議。

現場との空気の差が・・・

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 加藤中尉を乗せた陸軍の徴用船が大阪港へ投錨した。
大阪陸軍工廠に近いからである。
 なんせ、鹵獲したソ連軍のT26B型を工廠まで運ばねばならないからだ。
そして、その戦車と共に加藤中尉も同伴することとなる。
 なお、日本陸軍が満州国へ派遣されたことは・・・内密である。
言わない、だけである。
 軍事行動は軍事機密に含まれるからである。
こちらの動きを、わざわざ敵に教える道理はないのだ。
 「ごくろうさんでした。」と、大阪工廠の日下部補佐が出迎えた。(工廠のナンバー2だ。)
「これは、補佐みずから恐縮です。」と、敬礼する中尉だ。(軍隊なら、副司令官である。)
 「あれが、レイのヤツですか。」と、クレーンで降ろされる荷を見上げる補佐だ。
「え、え、10トンほどですから港のクレーンが使えて助かりましたよ。」と、中尉だ。
 「とりあえず、3両は持ってきました。」「助かります。」
「敵を知り、己を知れば百戦あやうからづですからな。」と、補佐だ。
 まじめな顔で中尉が・・・
「まともに当たれば、当方が全滅だったかも。」と、つぶやく。
 「えっ・・・」と、補佐がおどろく。
「まあ、工廠で調べれば、わかると思いますが。」と、加藤君がこぼした。
 
 「これが、ソ連のヤツですか。」と、覆いの布を取ったT26B型を見上げる日下部補佐だ。
「なんとも、はや・・・砲身が無いですが。」
 「それは、八九式の57ミリ短砲身と交換したのですよ。」
「マジ、だったんですね。」「聞いてはいましたが、半分冗談かと・・・」
 無線で八九式の砲身を交換するとの暗号連絡は受けてはいたが・・・本気にしてなかった補佐である。
大阪工廠として、自信をもって戦車の砲身とした57ミリ短砲身だったのである。
 「それは、敵戦車の装甲に傷ひとつ付けられなかったからですよ。」と、残念な話をする中尉だ。
「それも、距離300ですよ。」と、加える中尉だ。
 「まさか・・・」と、絶句する日下部補佐だ。
「距離、300なんて眼と鼻の距離じゃないですか。」
 「これは、戦車砲や対戦車野砲を見直さなければならんですな。」と、複雑な顔だ。
「それに、砲弾も榴弾では・・・やはり、徹甲弾が必要です。」と、中尉がソ連軍の45ミリ徹甲弾をしめす。
 「それは?」「え、え、ソ連軍の戦車の砲弾ですよ。」と、中尉だ。
「距離、500で八九式の前面装甲に穴が・・・」と、中尉だ。
 「・・・・・」なんも言えない、補佐である。
「では、敵は我が軍より遠い距離で・・・これでは、勝てないのも納得です。」
 「でも、紛争は満州国の勝ちだと。」と、補佐だ。
「それは、奇策で乗り切ったからですよ。」「二度も有効とは思えないですが。」と、中尉だ。
 「とりあえず、砲身だけでも敵戦車のヤツと交換したので、ある程度は戦えるとは思いますが。」と、重ねる中尉である。

 「中尉が、言いたいことはわかりました。」「57ミリ長砲身を造れと。」
「え、え、そうです。」「57ミリ短砲身を57ミリ長砲身へは戦車の改造をしないで装備できるでしょ。」
 「それは、そうだが・・・」
「なら、早急にお願いします。」と、頭を下げる中尉だ。
 軍人は滅多に頭は下げないモノである。
「長砲身の57ミリ砲と徹甲弾で、ソ連軍を押し返すことができます。」と、確信をもって言う中尉である。
 「しかし、よくソ連の45ミリ長砲身を八九式へ取り付けることができましたね。」と、補佐が驚く。
「あ、あ、それは砲塔の穴が57ミリ砲身なので、45ミリ砲身が入ったからです。」
 「もちろん、スキマはありますが・・・そこは鉄の薄板を重ねてふさぎましたよ。」
「まあ、なんとも言えませんが・・・」オレなら、ヤラねぇと思った補佐だ。
 照準器の再調整や耐久性など・・・あるからだ。
それで、八九式用の57ミリ長砲身の改造を急がねばならないのである。
 「じつは、ココではないんですが・・・新型戦車開発が進んでるのですよ。」と、補佐が・・・
「えっ、うわさの九五式ですか。」と、中尉だ。
 「いえ、九七式というらしいですが。」と、補佐が明かす。
「九五式は軽戦車として、シナとの戦いに備えて開発中です。」
 「そして、九七式は八九式の後継車という位置ずけです。」と、解説する補佐だ。
「八九式の足回りでは、速度が50キロは無理ですから。」と、補佐が明かす。
 そうなのだ、中尉も速度の限界は足回りの改造しかないと・・・確信していたのである。
戦車の足回りは建物なら基礎工事である。
 土台がしっかりしてないと、上の建築物はがっしりとはならない。
「九七式は民間の工場で開発中ですよ。」と、補佐がいう。
 「参考までに、見学はどうですか。」と、水をむける補佐だ。
「それは、ぜひにでも。」と、賛同する中尉である。
 補佐としても敵の戦車と渡りあった軍人を同伴すれば、いいアイデアでもと・・・思ったのだが・・・
これが、ヒョウタンから駒(こま、馬のことだ。)となるとは補佐も、そこまでおもってなかったが・・・

 
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