英雄を諦めた青年

KEA

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3話

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「――其処にいるのは分かっている。姿を現したらどうだ」

弓を構え、即座に射てる準備は整っている。
だが、何処を狙えばいい? 何処が弱点か分からない。
最も有効なのは眼を潰すことだが、頭は何処に……。

俺の言葉に反応するように、スゥーと姿が現れる。
真っ黒い鱗は、差し込む光で光沢を放っていた。
口元から止めどなくどす黒い血が流れ落ち、俺を見つめていた。

「はっ、竜かよオイ」

図鑑でしか見たことのない竜。
ソイツが全身ズタボロで横たわっていた。
それでもその身体からは膨大な魔力が渦巻いているのが分かる。

身体を起こそうとして、首から胴体にかけての切り傷から血が更に流れ出した竜は
諦めた様子でその身体を倒した。

「……死にかけてるのか」

ゼェゼェと荒い息を吐いている竜は、もう間もなく死にそうだった。
これなら村を襲われる心配はない。もう数刻も持たないだろう。

踵を返してその場を離れようとして――悲しそうに鳴く竜の鳴き声が聞こえた。

知能の高い竜は人の言葉を理解し、人の言葉を使うこともある。
俺の言葉に反応をして姿を現したのは、俺に助けを求めたからではないだろうか。

死ぬ前に一人でも人を殺そうとするのなら、姿を現す必要はない。
近づいたところでブレスなり魔法なりを使っただけで俺は死んでいただろう。

「……くそ」

仕方ない、今回だけだ。
幾つかの道具を取り出して、竜の傍で跪く。

「染みるかもしれないけど、我慢しろよ」

コクコクと頷く竜を見て、薬品をぶっかける。
にしても、酷い傷だ。バッサリと斬られている。
竜っていうのは物理的耐性も魔法的耐性も非常に高い。
なのにこんなにも簡単に斬られている。人間技じゃないな。

竜同士争ったかと思ったがこの傷は違う、刀剣類で斬られたものだろう。
傷口が染みていたのか、クゥクゥ鳴く竜の頭を撫でる。

「もう少しだ、もう少しだから我慢しろよ」

肉が盛り上がり、傷口を塞いでいく。
最高級の回復道具を惜しみなく使えばこうなるか。
人間に使えば、瀕死から一気に全快にまで持っていく秘薬だ。

だが、無くなった血まで元に戻るというわけではない。
暫くは安静にして過ごした方がいいだろう。

「――よし、これでいいだろ」

完璧に塞がったのを見て、俺は立ち上がる。
後は――契約だ。

「お前の怪我を治した代わりに、一つ契約をしてほしい」

内容は単純なモノ。村の人間を決して襲わない、というものだ。
これで元気になって村を襲いにでも来たらどうしようもない。
そうすればコイツも落ち着いたら此処を離れて何処かに行くだろう。

何故か目を輝かせている気がするが、気のせいだろう。

魔法の契約書を取り出し、ナイフで自身の人差し指を切りつけて指を押し付ける。
コレで後は竜の血をコレに付ければ契約は終わり。
竜が血を付けたのを見届け、契約書を仕舞う。

「それじゃあな、あんまり人は襲うなよ」

荷物を片付け、踵を返す。
村の人間を襲わせないようにはしたが、それ以外の人間には問答無用で襲うだろう。
全ての人間を対象に出来るほどこの契約書は性能が高くないし、俺もそこまで拘束出来るわけじゃない。

数歩歩きだしたところで竜が泣き出した。
振り返ってみれば、此方をジッと見て泣いている。

「……何だよ、もう痛みはないだろ。少し安静にすりゃ動けるようになる」

顔だけ向けてそう言っても、竜は泣き出した。
まさか一人が心細いとか言うんじゃないだろうな。
見た目にそぐわず結構幼いのか? いやいや、そんな可哀そうとか思うなよ俺。

これ以上面倒ごとはごめんだった。
村も襲わせない、竜は怪我を治した。それでいいだろう。

竜の鳴き声に振り返らず、俺は歩き出した。
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