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『とう の おうじ』
二つ目の物語。高慢な王子が、天を突き破るほどの高い塔を建てさせ、その最上階に暮らしている。年頃になった王子の元に、一枚の肖像画が届けられる。世にも類稀な、菫色の髪をした美貌の乙女の肖像。一目で恋に落ちた王子は、彼女を妻にすることに決めた。だがしかし、彼女は異国からやってきた王女で、塔のはるか下にテントを張って王子を待っているという。王女を最上階まで連れてくるよう家来に命じるが、それではあまりに失礼だ、王子が塔を下るべきだと諭され、しかたなく王子は自ら階段を下っていくことにした。しかし、塔は高すぎた。王子が塔の一階に辿り着くのには66年という年月がかかった。歩くのもままならない老人となった王子が、塔の門の前に張られているぼろぼろのテントをのぞいてみると、そこには王女の名が刻まれた墓石があるだけだった。王子は若き日の自らの高慢さを悔い、神に向かって罪を嘆きながら、墓石にもたれかかって死んだ。神は王子を哀れに思い、天の国において二人を結婚させた。
めでたし、めでたし。
(あまり「めでたし」じゃないわ。王女の方も階段を上っていれば、少なくとも死ぬ前に王子に会えたのに。罪を告白すべきなのは王女も同じことじゃなくて?ねえ、あなた…)
再び花婿の亡霊に語りかけてしまったようだ。女はそっと唇に指を押し当て、心の口を閉ざした。
今度は喉が渇いてきた。婚礼の宴のときもヴェールで顔を隠していたので、せっかくの上物のワインどころか、ただの水にさえも口をつけることができなかったのだ。
だが、次の物語を読めば、心の中の口を潤すことはできそうだ。
『わかがえり の みず』
モミの森の中。子供のない老夫婦があばら家で暮らしている。ある日、ウサギを追っていた夫が森の深みに迷い込んだ。そこで彼は奇妙なものを見た。追っていたウサギ、シカ、キツネ、クマ…あらゆる種類の動物が一列に並んでいる。列の先端をうかがうと、白い百合の花で囲まれた、淡く光る泉がある。片目から血を流している、老いぼれのシカがその水を一口飲むと、不思議と血は止まり、目は再び開いて輝きを取り戻した。のみならず、全身の毛並みがつやめき、雄々しい角が伸び、たくましい筋肉の輪郭が浮き上がってきた。いまやシカは若く強い過去の姿を取り戻した。それを見た老狩人は全てを察し、自分も列に加わって順番が巡ってくるのを待った。ついに日が暮れ、真夜中になり、夜が更け、空が白み始めたころ、彼はようやく水にありつくことができた。日が昇るとともに、老人は力がみなぎるのを感じた。頭に触れてみれば髪はふさふさ、顔に触れてみれば、しわ一つない。彼は喜びいさんで水を水筒に詰め込み、帰路についた。帰ってきた夫の姿に妻は驚いたが、彼の勧めるまま水を一口飲んでみた。すると、彼女の頬はバラ色に染まり、髪は長く美しくうねり始めた。
二人は若い日々を再び楽しんだが、何の因果があってか、あいかわらず子供を授かることはなかった。若い日の楽しみに飽きてきた夫は、恐ろしい計画を思いついた。水筒に残っていた若返りの水を全て鍋にそそぐと、上等なスープに仕立て、何も言わずにそれを妻に飲ませたのである。若い妻は何も知らないままスープを飲み干し、あっという間にかわいらしい少女に、そして、よちよちあるきの幼児に、最後には立つこともできず、目もまだ開かない赤ん坊になってしまった。若い男は彼女を抱き上げると、嬉しそうに子守唄を歌ってあやしてやった。二人の愛は新しい形で深まったのである。
めでたし、めでたし。
二つ目の物語。高慢な王子が、天を突き破るほどの高い塔を建てさせ、その最上階に暮らしている。年頃になった王子の元に、一枚の肖像画が届けられる。世にも類稀な、菫色の髪をした美貌の乙女の肖像。一目で恋に落ちた王子は、彼女を妻にすることに決めた。だがしかし、彼女は異国からやってきた王女で、塔のはるか下にテントを張って王子を待っているという。王女を最上階まで連れてくるよう家来に命じるが、それではあまりに失礼だ、王子が塔を下るべきだと諭され、しかたなく王子は自ら階段を下っていくことにした。しかし、塔は高すぎた。王子が塔の一階に辿り着くのには66年という年月がかかった。歩くのもままならない老人となった王子が、塔の門の前に張られているぼろぼろのテントをのぞいてみると、そこには王女の名が刻まれた墓石があるだけだった。王子は若き日の自らの高慢さを悔い、神に向かって罪を嘆きながら、墓石にもたれかかって死んだ。神は王子を哀れに思い、天の国において二人を結婚させた。
めでたし、めでたし。
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今度は喉が渇いてきた。婚礼の宴のときもヴェールで顔を隠していたので、せっかくの上物のワインどころか、ただの水にさえも口をつけることができなかったのだ。
だが、次の物語を読めば、心の中の口を潤すことはできそうだ。
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二人は若い日々を再び楽しんだが、何の因果があってか、あいかわらず子供を授かることはなかった。若い日の楽しみに飽きてきた夫は、恐ろしい計画を思いついた。水筒に残っていた若返りの水を全て鍋にそそぐと、上等なスープに仕立て、何も言わずにそれを妻に飲ませたのである。若い妻は何も知らないままスープを飲み干し、あっという間にかわいらしい少女に、そして、よちよちあるきの幼児に、最後には立つこともできず、目もまだ開かない赤ん坊になってしまった。若い男は彼女を抱き上げると、嬉しそうに子守唄を歌ってあやしてやった。二人の愛は新しい形で深まったのである。
めでたし、めでたし。
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