大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

接近と底

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相当離れた位置にいた俺達に、明確な空気の揺れを感じさせる程の爆発。
空中都市の底が一瞬見えなくなるほどのそれは、作戦書に書いてあった「かすり傷一つさえ付ければ」というラインを余裕で超える。
「流石だアーネ」
「もちろんですわ」
結果、空に浮かぶ大きな大地が落下を始める。
「これそのまま墜ちるんじゃねぇか?」
「何、相手は魔族だ。一瞬だけでもどうにかするだろうよ」
俺がそう言った瞬間、落下速度が目に見えて落ちる。
アーネの魔法が起こした爆発、その影響で多少凹むなり崩れるなりをしているようだが、飛行には問題ないらしい。
だが高度は充分以上に落ちている。あれだけの魔法が炸裂したのだから当たり前と言えば当たり前だろうが、むしろ墜落しない方が驚きと言える。
『目標の空中都市までの距離、およそ百メートルです』
「「上等」」
俺と《勇者》の声が重なり、俺が思わず眉根を寄せる。
「ここからは、貴方達にお願いしますわよ」
そう言うアーネの声音には疲労が滲む。
当たり前だ。一時間以上も魔法陣の準備をし、常識では考えられないような超長距離を超火力の魔法で撃ち抜いたのだ。
間違いなく歴史に名が残るような大魔法、しかもそれが、ほぼ単独で行われたという偉業。英雄に比肩しうる能力であるのは疑いようもないが、消耗も非常に大きい。
まだまだこの先長いので、アーネには少しでも体力を温存、回復してもらいたい。
「あぁ、任された。さて、本格的に来るか」
最初に空中都市が放ってきた太い光の魔法。
あれが何本も飛んでくる。
「行くぞ《勇者》!」
「言われずとも」
そう言ってマキナを解除。空中に足場を展開し、血界を発動させる。
「第二、第六血界──起動」
「第六血界──超覚」
「捕まってろよ、アーネ!」
そう言ってアーネを抱き抱え、光が落ちるより先にこちらが駆け上がる。
『距離八十、七十、六十、五十──』
マキナが空中都市との距離をカウントしていく。
チラリと後ろを見れば、《勇者》も辛うじてだがついてきている。俺より血が濃いからだろう。血界ひとつでも俺と同等の速度が出せるのは羨ましい限りだ。
「どうだ?見つかったか?」
『ちょい待て、多分偽装がされてる』
シャルが探してるのは以前俺達が侵入した時に最初にいた場所。
具体的にどこ?って話だが、記憶があってればそれなりの地下だったはず。
つまりそれだけ底に近い。加えて転送系の魔法を送受信する機能があるという事は、そのための補助道具が空中都市の外側にあってもおかしくない。要は魔法的な目印だが、今回は物理的な目印にさせてもらう。
どういう事か。
『見つけた!』「見つけましたわ!」
「どこだ!?」
俺がそう言うと、アーネが真っ直ぐ指を指し、さらにそこから魔法を飛ばす。
遮る物の無い空を、小さな火がふわりと飛び、空中都市の底の方まで飛んで、パッと光った。
その光に僅かに反射する、宝石のように透き通った青の光。
「あれか!!」
足場にしていたマキナを蹴飛ばし、さらに接近。
『四十、三十──三十五』
「なん!?」
ここで空中都市が持ち直した。都市が上昇を開始したのだ。
やれるか?どうだ?
距離は四十メートル弱。しかし本気で飛べば一回だけ三十メートルまでまた持ち直せる。
なら、やれるかどうかではなく、この一瞬だけに賭けるしかない。
「跳ぶぞッ!!」
そう言った直後、マキナを両足で思い切り蹴飛ばした。
空中という不安定な場所なので万全の加速を得たとは言い難い。しかし今までの接近より何倍も早い跳躍。
そこから更に──
「第一血界《血鎖》起動!」
アーネを抱え直し、右腕から血鎖を発動。射程を限界まで伸ばせばおよそ五十メートル。その血の鎖が、《血呪》の腕力と《血瞬》の速度でもって思い切り振り抜かれた。
音を引き裂き、光を追い抜き、ただただ早く一直線に伸びた鎖は狙いを違わず、宝石のような青の輝きを放つそこをぶち抜いた。
「よっしゃ!っ!?」
直後、身体が思い切り引き上げられる。空中都市の上昇に引っ張られているのだとすぐに気づいた。
「っぐ!?」
身体を引っ張りあげたいのだが、相当距離を伸ばしているので、鎖の強度がかなり限界に近い。切れれば終わる。やはりもう少し近づければ。
「私が魔法で──」「いや、いい。ナイスだお兄ちゃん」
いつの間にか隣にいた《勇者》がそう言った。
その呼び方をやめろと言う前に、《勇者》が血鎖を放つ。
狙いは俺の血鎖が刺さった空中都市の底──ではなく。
俺の血鎖そのもの。
「《血海》」
そう言って《勇者》が俺の血鎖の主導権を奪い、俺をアーネごと片腕で抱き上げる。
「巻き上げる。落っこちるなよ」
「っ!」
直後に返事も聞かず、《勇者》は容易く血鎖を巻き上げ、都市に急接近する。
「後は任せたぜ。お兄ちゃん」
「その呼び方をっ!」
右腕に髪とマキナを集中。一撃必殺の杭打ち機を即座に形成し、さらに第二血界の腕力と急接近の勢いを上乗せ。
「やめんかッ!!」
振り抜いた拳が、都市の底に触れた瞬間に杭打ち機が作動。
空中都市の底に穴を空けてみせた。
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