大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ

鮭とば

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本編

侵入と逃走

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軽く咳き込みながら土煙と共に都市に侵入。
辺りを見渡し、一言呟く。
「どこだここ…」
俺の記憶とは少々見た目が異なる空間。
以前は見たことも無い鉱石が薄青に輝いていたのだが、それがどうもくすんでおり、以前のような輝きはない。
とはいえ造りなどは同じのようで、恐らく似たような空間がいくつもあるのだろう。これなら割と簡単に上に出られそうだ。
「アーネ、大丈夫か?」
「えぇ、なんとか…ここが空中都市の中…ですの?」
「一応な」
ふとボゴボゴと変な音がしたので後ろを振り返れば、いつの間にか穴が塞がれている。流石魔族と言ったところか。
妙な感心を抱いていると、シャルが『来たぞ』と声を上げる。
『足音。直線距離ざっと二十で上。数は四つ以上』
「近い。逃げるぞ」
「逃げる?どこにだ。もう周りは魔族しか居ないだろう。なら先手を取る」
ざわざわと《勇者》の周りの空気がざわめく。戦闘態勢は整ったと言わんばかりに
「やるにしても後からだ!まずはここから離れる!ここは狭すぎる!」
「だからこそ魔族が同士討ちを嫌って魔法を撃ちにくくなるだろう?」
「俺達はまだ大丈夫だがアーネが不味いだろ!それにここで事を起こせばさらに警戒が高まる。先にこの空中都市の制御をしてる魔法陣の所へ行くべきだ」
『螺旋状なのか?随分と遠回りしてるが…かなり近い。あと一分とせずに来るぞ。早くしろ』
「それにな、大元の魔法陣がある場所はもう作戦書に書いてあって割り出されてる。俺も一度近くに行ったから心当たりもある。そんで合ってる場合、確実に戦闘が発生する。合ってなくてもそいつとは確実に戦わなくちゃならん」
「──《産獣師》か」
《勇者》の言葉に俺は頷く。
「力は温存しとけ。だが出し惜しむなよ。死んだら元も子も無いからな」
僅かに《勇者》が悩み、溜め息をついて、一言
「仕方ねぇな」
と言って引き下がる。
「決まりだな?」
時間が無い。確認の一言を言った後、即座に血界を発動。
第一血界に第三血界を繋いで第三血界のリーチを擬似的に拡張。天井を雑に切り崩し、穴を作る。幸い、直前に魔族が上を通ったので、空間があるとすぐ分かった。
そこに第一の鎖を引っ掛け、アーネを抱えて上に移動。下に行く魔族達の足音を無視し、全力で走りながらさらに上、空中の地上を目指す。ちなみにアーネは抱えたままだ。
「で!?どこなんだ?その大元の魔法陣ってのは!?」
「上に出りゃわかる。白いキノコみてぇな建物の下だ」
「上に出んのに結局下に潜るのか。クソ面倒くせぇ」
「魔法陣も滅茶苦茶複雑な代物らしくてな。アーネにはそれの制御を奪ってもらいたい。俺と《勇者》はその間敵を食い止める」
「わかりましたわ」
「もしもこの女が魔法陣の制御が出来なかったら?」
「その時は……俺が無理矢理この都市だけでも落とす」
最悪の場合は再び第七を使う。どれだけ魔族の技術を集めて作ったと言っても、《勇者》の切り札には流石に敵うまい。
でも、出来ることなら使いたくない。そう思ってしまった。
「大丈夫ですわ」
俺の表情を読み取ったのか、俺の方を見てアーネが答えた。
抱えられたまま、俺の二の腕辺りをぎゅっと握る。
「必ずやってみせますわ」
「…あぁ、頼んだぞ」
丁度そのタイミングで出口から地上へ出る。
「はぁい、再びようこそ。空中都市へ」
その瞬間、真正面から《産獣師》と遭遇した。
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