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3回目の人生
3回目の人生は「今度こそ…」
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「我が愛しき娘、セシリア。お前に命じる。勇者と共に、魔王を倒す旅に出なさい。魔王を倒して、この世界に平和をもたらすのだ」
重々しい口調で告げるお父様。
「初めまして、セシリア王女。俺は勇者、グレンだ! 一緒に頑張ろうなっ!」
世界の平和という、重い役目を背負わされているというのに、どこか楽しそうな勇者様。
「貴様っ! 王女殿下に対して、なんて口の利き方を!!」
騎士団長様が怒るところまで、まったく同じ。
「……また、戻ってきたのですね」
「戻って来ることができた」と言ったほうが良いのでしょうか?
前回の人生で私は、魔王を倒すことができませんでしたから。
また時間が巻き戻った。
……いいえ、戻って来ることができた。
それはつまり、魔王を倒すチャンスを、もう一度貰えたということ。
喜ばしいこと。なのに……
「魔王を倒してもダメ。魔王に倒されてもダメなんて……もう、どうすれば……」
……私の心は、絶望感でいっぱいでした。
魔王を倒す?
倒しても、またやり直しになってしまうのに?
それともまた、殺されてしまうのでしょうか?
お腹を貫かれて、苦しいほどの痛みと無力感を突き付けられるのでしょうか?
「もう、やだ……」
「セシリア王女?」
私の異変に最初に気が付いたのは勇者様でした。
「どうした? ……震えてるのか?」
ガタガタと震える私の元までやって来て、勇者様が声を掛けてくれます。
「怖いんだな。でも大丈夫だぞ。セシリア王女のことは、俺が絶対に守るからな」
「……勇者様が、守ってくれるのですか?」
「ああ! 魔王も必ず俺が倒す! だから、そんなに怖がらなくて大丈夫だ!」
「魔物との戦いも、魔王との戦いも、私が一人でやらなくても良いのですか?」
「もちろん。俺に任せてくれ! セシリア王女は、その手助けを出来る範囲でして欲しい。魔物が怖かったら戦わなくて大丈夫だし、離れた場所から回復をしてくれるだけでも十分だ」
勇者様はニッと力強い笑みを浮かべて、それからドンと胸を叩きました。
その様子が、なんだか今までの人生とは違って頼もしく見えます。
「……分かりました。勇者様、これからよろしくお願いしますね」
「うん、絶対に誰にもセシリア王女を傷つけさせないからな!」
「ふふ、頼りにしています」
「う、うん!」
もしかしたら、今回の勇者様は、今までの勇者様とは少し違うのかもしれません。
そんな期待を抱きながら、勇者様に微笑んだのですが……
なぜか勇者様の顔が真っ赤になりました??
「……笑うとすごく可愛い」
真っ赤な顔のまま、勇者様はぼそりと何かを呟いています。
小さな声だったので、何を言っていたのか聞こえなかったのですが、どうしたのでしょうか?
「勇者様?」
「な、なんでもない!」
まさか体調がどこか悪いのでしょうか?
困りましたね。まだ旅にも出ていないというのに。
これから先、大丈夫でしょうか?
……なんてことを、ぼんやりと考えていますと……
「セシリア? 勇者と共に、魔王を倒す旅に出てくれるということで良いのか?」
私と勇者様の会話で、置いてけぼりを食らっていたお父様が、少し困ったような表情で私に問いかけてきます。
慌てて私はドレスの裾を摘まんで、お父様に向かって頭を下げました。
「はい、お父様。お役目を頂けたこと、嬉しく思います。ルルパージュの名に誓って、世界に平和をもたらすことを誓います」
「うむ。勇者よ、我が娘を頼むぞ」
「はい!」
私の回答に、お父様は満足気に笑いました。
勇者様はお父様の言葉に、大きな返事をします。
お父様が勇者様に「娘を頼む」なんて言うのは初めてです。
前回も、前々回も言いませんでした。
やっぱり今回は何かが違うのでしょうか?
「行こう、セシリア王女」
「え? あ、はい!」
考え込んでいた私の手を取って勇者様が歩き出すものですから、私は転びそうになりながら慌てて歩き出しました。
「セシリア王女はちょっと抜けているのかな?」
謁見室を出た勇者様が、悪戯気な笑みを浮かべて私に言いました。
転びかけていた姿を見られてしまっていたのでしょう。
「そう言われたことは初めてですが、そうなのでしょうか?」
「怖がりでドジっ子なんて、女の子って感じで可愛いなぁ」
勇者様がニコニコしているのは良いことなのですが……握った手は、いつまでこのままなのでしょうか……?
お城の廊下を歩き続ける勇者様に、困惑しながら「あの、どうして手を握っているのでしょうか?」と聞いてみました。
「あ、嫌だった?」
返ってきた答えは、答えになっていません。
こんなこと、三回目の人生でも初めてです。
今までの勇者様なら、多少の距離感はあったはずなんですが……
「い、いえ。誰かと手を握るなんて、子供のころ以来なので……」
「俺も。誰かの手を握るなんて久しぶりかも。でもセシリア王女……いや、セシリアがずっと不安そうな顔をしてるからさ、ちょっとは気がまぎれるだろ?」
「そう、ですね……?」
勇者様が振り返って、私に笑いかけます。
今までの勇者様よりも、ずっと距離感が近いです。
今までの勇者様とは違って、自分から「セシリア」と呼び方を変えています。
それに、今まで見てきた勇者様の、どんな表情よりも優しく笑うのは、なぜでしょうか?
「セシリア、大丈夫だよ。俺が絶対に魔王を倒すから」
勇者様の言葉は頼もしいのに、どうしてか、不安は消えてくれませんでした。
重々しい口調で告げるお父様。
「初めまして、セシリア王女。俺は勇者、グレンだ! 一緒に頑張ろうなっ!」
世界の平和という、重い役目を背負わされているというのに、どこか楽しそうな勇者様。
「貴様っ! 王女殿下に対して、なんて口の利き方を!!」
騎士団長様が怒るところまで、まったく同じ。
「……また、戻ってきたのですね」
「戻って来ることができた」と言ったほうが良いのでしょうか?
前回の人生で私は、魔王を倒すことができませんでしたから。
また時間が巻き戻った。
……いいえ、戻って来ることができた。
それはつまり、魔王を倒すチャンスを、もう一度貰えたということ。
喜ばしいこと。なのに……
「魔王を倒してもダメ。魔王に倒されてもダメなんて……もう、どうすれば……」
……私の心は、絶望感でいっぱいでした。
魔王を倒す?
倒しても、またやり直しになってしまうのに?
それともまた、殺されてしまうのでしょうか?
お腹を貫かれて、苦しいほどの痛みと無力感を突き付けられるのでしょうか?
「もう、やだ……」
「セシリア王女?」
私の異変に最初に気が付いたのは勇者様でした。
「どうした? ……震えてるのか?」
ガタガタと震える私の元までやって来て、勇者様が声を掛けてくれます。
「怖いんだな。でも大丈夫だぞ。セシリア王女のことは、俺が絶対に守るからな」
「……勇者様が、守ってくれるのですか?」
「ああ! 魔王も必ず俺が倒す! だから、そんなに怖がらなくて大丈夫だ!」
「魔物との戦いも、魔王との戦いも、私が一人でやらなくても良いのですか?」
「もちろん。俺に任せてくれ! セシリア王女は、その手助けを出来る範囲でして欲しい。魔物が怖かったら戦わなくて大丈夫だし、離れた場所から回復をしてくれるだけでも十分だ」
勇者様はニッと力強い笑みを浮かべて、それからドンと胸を叩きました。
その様子が、なんだか今までの人生とは違って頼もしく見えます。
「……分かりました。勇者様、これからよろしくお願いしますね」
「うん、絶対に誰にもセシリア王女を傷つけさせないからな!」
「ふふ、頼りにしています」
「う、うん!」
もしかしたら、今回の勇者様は、今までの勇者様とは少し違うのかもしれません。
そんな期待を抱きながら、勇者様に微笑んだのですが……
なぜか勇者様の顔が真っ赤になりました??
「……笑うとすごく可愛い」
真っ赤な顔のまま、勇者様はぼそりと何かを呟いています。
小さな声だったので、何を言っていたのか聞こえなかったのですが、どうしたのでしょうか?
「勇者様?」
「な、なんでもない!」
まさか体調がどこか悪いのでしょうか?
困りましたね。まだ旅にも出ていないというのに。
これから先、大丈夫でしょうか?
……なんてことを、ぼんやりと考えていますと……
「セシリア? 勇者と共に、魔王を倒す旅に出てくれるということで良いのか?」
私と勇者様の会話で、置いてけぼりを食らっていたお父様が、少し困ったような表情で私に問いかけてきます。
慌てて私はドレスの裾を摘まんで、お父様に向かって頭を下げました。
「はい、お父様。お役目を頂けたこと、嬉しく思います。ルルパージュの名に誓って、世界に平和をもたらすことを誓います」
「うむ。勇者よ、我が娘を頼むぞ」
「はい!」
私の回答に、お父様は満足気に笑いました。
勇者様はお父様の言葉に、大きな返事をします。
お父様が勇者様に「娘を頼む」なんて言うのは初めてです。
前回も、前々回も言いませんでした。
やっぱり今回は何かが違うのでしょうか?
「行こう、セシリア王女」
「え? あ、はい!」
考え込んでいた私の手を取って勇者様が歩き出すものですから、私は転びそうになりながら慌てて歩き出しました。
「セシリア王女はちょっと抜けているのかな?」
謁見室を出た勇者様が、悪戯気な笑みを浮かべて私に言いました。
転びかけていた姿を見られてしまっていたのでしょう。
「そう言われたことは初めてですが、そうなのでしょうか?」
「怖がりでドジっ子なんて、女の子って感じで可愛いなぁ」
勇者様がニコニコしているのは良いことなのですが……握った手は、いつまでこのままなのでしょうか……?
お城の廊下を歩き続ける勇者様に、困惑しながら「あの、どうして手を握っているのでしょうか?」と聞いてみました。
「あ、嫌だった?」
返ってきた答えは、答えになっていません。
こんなこと、三回目の人生でも初めてです。
今までの勇者様なら、多少の距離感はあったはずなんですが……
「い、いえ。誰かと手を握るなんて、子供のころ以来なので……」
「俺も。誰かの手を握るなんて久しぶりかも。でもセシリア王女……いや、セシリアがずっと不安そうな顔をしてるからさ、ちょっとは気がまぎれるだろ?」
「そう、ですね……?」
勇者様が振り返って、私に笑いかけます。
今までの勇者様よりも、ずっと距離感が近いです。
今までの勇者様とは違って、自分から「セシリア」と呼び方を変えています。
それに、今まで見てきた勇者様の、どんな表情よりも優しく笑うのは、なぜでしょうか?
「セシリア、大丈夫だよ。俺が絶対に魔王を倒すから」
勇者様の言葉は頼もしいのに、どうしてか、不安は消えてくれませんでした。
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