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そして…婚約
19.
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それを聞いた時、私は笑いが込み上げて来た。
あの渦中のテイマーが騎士ブヌア家の息女に婚約を申し出た、と?
ブヌア家と言えば、まさにルシアン直属だ。ファブリは腹心だし夫人のアンリエットはルシアンの乳母を勤めていたな。
「その上で皇太子寄りにいて欲しいんだ」
私の希望を汲んでくれたんだね、クロノ准男爵。
「宮中もですが、ガスター侯爵始め殿下派が大騒ぎですよ」
私の副官、ジムボール=カロン・ルード伯爵子息が呆れた感で報告してくる。私の無二の親友でもある彼は私とルシアンの本心を熟知している。皇位争いをしている様にみせて、兄弟2人で国政を回す算段をしている事を…。
「ガスター侯爵が?また厄介な御仁が…」
「彼の方の情熱は殿下を皇位に就ける事に注がれておりますから」
随分とマイルドな物言いだ。
彼の御仁のは狂信的と言っても過言ではないと思うがね。
「で、向こうの派閥は?」
「祝福モード全開ですね。何せフェンリルとグリフォンを従える英雄級のテイマーですから」
「彼はまだランクBだよ。確かに級レベルは英雄級だが」
パワーバランスは崩れた。
この天秤の傾きは簡単には取り戻せない。多分そのまま水の如く向こうへ流れ出るだろうな。だが、それを頼んだのは私だ。
動かない水は澱んでいく。流れを作らなくてはならない。その意味でも実に理想的だ。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
カミーユとは兎も角、オレはブヌア家と何の接点もない。なので皇女殿下を通じて皇太子殿下の了承を取り付けた上で2人に口裏を合わせてもらった。
リスティア皇女もルシアン皇太子も愉しげに二つ返事で了承してくれたんだ。
これで表向きは皇太子殿下の意向だ。
己の派閥に取り込む為の婚姻工作。
ルキアル皇子派にとっては露骨な派閥工作。でもまさか皇太子の意向に面と向かって異を唱える者等居よう筈もないから。
それにオレは権力的には何の力もない准男爵だ。下位貴族の婚姻等権力争いに明け暮れる上位貴族にとっては取るに足らない世情で、その意味でもオレの婚約等口を出す事はプライドが許さない。
なので何の障害も無く皇帝陛下の裁可も下り、オレとカミーユはすんなり婚約者同士になった。
やったね。
厄介事は増えた気がするけど…。
何せオレの様な下々の貴族でもルキアル殿下派のガスター侯爵が怒り狂っている事が聞こえてくる。
ガスター侯爵がルキアル皇子に肩入れするのは訳がある。元々『神たる皇帝は絶対的強者』と言う持論で、その点でルシアン皇太子を認めていない。
皇太子にそう強気で言えるのは、ガスター侯爵が現皇帝ルーファス1世陛下の従兄弟に当たるからだ。つまり皇太后ティオーリアの姉がガスター侯爵の生母であり、三公に入らなかったとは言え発言力は大きい。
三公って国務大臣のミズル公爵家。
軍務大臣のポーリッチ公爵家。
そして法皇クロノ公爵家。
つまりは政・軍・信仰の3つの権力。
勿論この上が絶対的権力者たる皇帝陛下だけど。
で、オレって公爵家と同じ家名なんだよね。末席傍流の騎士爵位とは言え、この家名を決める時に官僚が大騒ぎしたのがわかる。法皇様の意向と言うよりゴリ押しに近かったらしい。公爵家の方々も『滅びの魔女』がヘソを曲げる事を避けたかった様だし。
考えてみれば、オレに対して上位貴族のゴリ押しがなかったのは、この家名のお陰なんだよね。門での待ち伏せ等で会って説得しようとしたのは。
普通准男爵程度なら呼びつけられて終わり。
上位貴族に対しオレは、反抗の手段は本来なら持てない。でも持ててるのは従魔の存在と家名。
三公の末席傍流家ってちょいチートだから。
現法皇のキティアラさんはエフェメラさんの玄孫。母さんとエフェメラさんは本来同世代だから、いかに母さんの寿命が規格外のかがわかる。
で、帝都に来た時、陛下への拝謁前に挨拶と思って一応法皇家の門扉を潜ったんだ。
「今は2人っきりです。歳の近い親戚の態度で構いませんよ?」
そう笑い掛ける法皇様は16歳の少女、と言う雰囲気しか出していない。
「あ、でも…」
「私の息抜きに付き合え、って言ってんの」
うわぁ、態度迄変わった。
悪戯っぽく微笑むと慣れた手付きでお茶を淹れ出す。
「あの、法皇様」
「キティで。そうね?オネェちゃんでも良いわよ?」
とうとう弟呼ばわりだよ。
国教を司る法皇の権力は皇帝の次になる。
何故なら『帝国正教会』は皇帝を神と定義し崇め奉る宗教だ。
オレ達をこの世界に送り込んだあの野太い声の存在。あれがこの世界の創造神だと思う。
でもこの世界は、一般的には救世の母神を信仰するエルサー教が主流だ。帝国も基本的にはこのエルサー教の一派。でエルシェアの代理として君臨統治する現人神が皇帝陛下というのが『正教会』なんだ。
あはは、話逸れたね。
なんだかんだ言いつつ、オレの存在は現法皇にも末席傍流の一族として好意的に受け入れられたんだ。
これは大きい。
ブヌア家が、オレとの婚約を両手を挙げて歓迎してくれたのはこの事も大いに関係してる。一介の騎士家が三公の末席傍流家と婚姻を結べる訳だから。
色んな人の思惑が上手く乗っかったのがカミーユとの婚約だった。
ね。厄介事が増えたってわかってもらえた?
エラムに帰ってきて、陞爵と婚約の報告をエラム領主アンバー辺境伯とギルマス・ドルフさん、それに姉的存在のリリアさんにした時、何て言うか呆れられてしまったりして…。
あ、勿論同時に報告してないからね。
辺境伯に報告後、ギルドでギルマスとリリアさんに報告してるから。
「確かに…。褒賞授与で帝都に赴いたと聞いていたがね。嫁まで見つけてくるとはね。が、これで皇女派と言うより皇太子派と目される訳だが」
「それもルキアル殿下の御意志の方が強いんです。その…極秘ですよ」
「わかってるよ、それ位は」
ギルマスも貴族の端くれ。権力のゴタゴタに無関心な訳では決して無いから。
「で、その上でお前さんはこのギルド所属の冒険者で居るつもりなんだな」
「実際結婚するにしても成人後の話です。後2年もあるし」
「ホントに厄介事増やしてくれたな。その分、コッチも厄介な依頼を振るからな、覚悟しておけよ。そもそもランクBの冒険者なんだからな」
これも仕方ないか。もう、ドラゴン退治だろうが、ドンと来い!
あの渦中のテイマーが騎士ブヌア家の息女に婚約を申し出た、と?
ブヌア家と言えば、まさにルシアン直属だ。ファブリは腹心だし夫人のアンリエットはルシアンの乳母を勤めていたな。
「その上で皇太子寄りにいて欲しいんだ」
私の希望を汲んでくれたんだね、クロノ准男爵。
「宮中もですが、ガスター侯爵始め殿下派が大騒ぎですよ」
私の副官、ジムボール=カロン・ルード伯爵子息が呆れた感で報告してくる。私の無二の親友でもある彼は私とルシアンの本心を熟知している。皇位争いをしている様にみせて、兄弟2人で国政を回す算段をしている事を…。
「ガスター侯爵が?また厄介な御仁が…」
「彼の方の情熱は殿下を皇位に就ける事に注がれておりますから」
随分とマイルドな物言いだ。
彼の御仁のは狂信的と言っても過言ではないと思うがね。
「で、向こうの派閥は?」
「祝福モード全開ですね。何せフェンリルとグリフォンを従える英雄級のテイマーですから」
「彼はまだランクBだよ。確かに級レベルは英雄級だが」
パワーバランスは崩れた。
この天秤の傾きは簡単には取り戻せない。多分そのまま水の如く向こうへ流れ出るだろうな。だが、それを頼んだのは私だ。
動かない水は澱んでいく。流れを作らなくてはならない。その意味でも実に理想的だ。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
カミーユとは兎も角、オレはブヌア家と何の接点もない。なので皇女殿下を通じて皇太子殿下の了承を取り付けた上で2人に口裏を合わせてもらった。
リスティア皇女もルシアン皇太子も愉しげに二つ返事で了承してくれたんだ。
これで表向きは皇太子殿下の意向だ。
己の派閥に取り込む為の婚姻工作。
ルキアル皇子派にとっては露骨な派閥工作。でもまさか皇太子の意向に面と向かって異を唱える者等居よう筈もないから。
それにオレは権力的には何の力もない准男爵だ。下位貴族の婚姻等権力争いに明け暮れる上位貴族にとっては取るに足らない世情で、その意味でもオレの婚約等口を出す事はプライドが許さない。
なので何の障害も無く皇帝陛下の裁可も下り、オレとカミーユはすんなり婚約者同士になった。
やったね。
厄介事は増えた気がするけど…。
何せオレの様な下々の貴族でもルキアル殿下派のガスター侯爵が怒り狂っている事が聞こえてくる。
ガスター侯爵がルキアル皇子に肩入れするのは訳がある。元々『神たる皇帝は絶対的強者』と言う持論で、その点でルシアン皇太子を認めていない。
皇太子にそう強気で言えるのは、ガスター侯爵が現皇帝ルーファス1世陛下の従兄弟に当たるからだ。つまり皇太后ティオーリアの姉がガスター侯爵の生母であり、三公に入らなかったとは言え発言力は大きい。
三公って国務大臣のミズル公爵家。
軍務大臣のポーリッチ公爵家。
そして法皇クロノ公爵家。
つまりは政・軍・信仰の3つの権力。
勿論この上が絶対的権力者たる皇帝陛下だけど。
で、オレって公爵家と同じ家名なんだよね。末席傍流の騎士爵位とは言え、この家名を決める時に官僚が大騒ぎしたのがわかる。法皇様の意向と言うよりゴリ押しに近かったらしい。公爵家の方々も『滅びの魔女』がヘソを曲げる事を避けたかった様だし。
考えてみれば、オレに対して上位貴族のゴリ押しがなかったのは、この家名のお陰なんだよね。門での待ち伏せ等で会って説得しようとしたのは。
普通准男爵程度なら呼びつけられて終わり。
上位貴族に対しオレは、反抗の手段は本来なら持てない。でも持ててるのは従魔の存在と家名。
三公の末席傍流家ってちょいチートだから。
現法皇のキティアラさんはエフェメラさんの玄孫。母さんとエフェメラさんは本来同世代だから、いかに母さんの寿命が規格外のかがわかる。
で、帝都に来た時、陛下への拝謁前に挨拶と思って一応法皇家の門扉を潜ったんだ。
「今は2人っきりです。歳の近い親戚の態度で構いませんよ?」
そう笑い掛ける法皇様は16歳の少女、と言う雰囲気しか出していない。
「あ、でも…」
「私の息抜きに付き合え、って言ってんの」
うわぁ、態度迄変わった。
悪戯っぽく微笑むと慣れた手付きでお茶を淹れ出す。
「あの、法皇様」
「キティで。そうね?オネェちゃんでも良いわよ?」
とうとう弟呼ばわりだよ。
国教を司る法皇の権力は皇帝の次になる。
何故なら『帝国正教会』は皇帝を神と定義し崇め奉る宗教だ。
オレ達をこの世界に送り込んだあの野太い声の存在。あれがこの世界の創造神だと思う。
でもこの世界は、一般的には救世の母神を信仰するエルサー教が主流だ。帝国も基本的にはこのエルサー教の一派。でエルシェアの代理として君臨統治する現人神が皇帝陛下というのが『正教会』なんだ。
あはは、話逸れたね。
なんだかんだ言いつつ、オレの存在は現法皇にも末席傍流の一族として好意的に受け入れられたんだ。
これは大きい。
ブヌア家が、オレとの婚約を両手を挙げて歓迎してくれたのはこの事も大いに関係してる。一介の騎士家が三公の末席傍流家と婚姻を結べる訳だから。
色んな人の思惑が上手く乗っかったのがカミーユとの婚約だった。
ね。厄介事が増えたってわかってもらえた?
エラムに帰ってきて、陞爵と婚約の報告をエラム領主アンバー辺境伯とギルマス・ドルフさん、それに姉的存在のリリアさんにした時、何て言うか呆れられてしまったりして…。
あ、勿論同時に報告してないからね。
辺境伯に報告後、ギルドでギルマスとリリアさんに報告してるから。
「確かに…。褒賞授与で帝都に赴いたと聞いていたがね。嫁まで見つけてくるとはね。が、これで皇女派と言うより皇太子派と目される訳だが」
「それもルキアル殿下の御意志の方が強いんです。その…極秘ですよ」
「わかってるよ、それ位は」
ギルマスも貴族の端くれ。権力のゴタゴタに無関心な訳では決して無いから。
「で、その上でお前さんはこのギルド所属の冒険者で居るつもりなんだな」
「実際結婚するにしても成人後の話です。後2年もあるし」
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