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プロローグ
1.思い出した前世
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県立南高校。
武道館に気合のこもった掛声が響く。右側で、汗を流す少女。
女子剣道部主将 広井アリス18歳。
高校3年の最後の大会に向け、猛特訓の最中だった。
「よーし、そこまで!」
顧問の先生、ハゲ山と呼ばれる景山が練習を止める。渾名の通り、毛髪は後頭部に気持ち有るだけ。本人は諦めず気にしているので、部員の生徒達も面と向かっては言わないようにしていた。
「時間だ。全員向かい合って礼! 正面に礼!」
「ありがとうございました!」
ハゲ山はそのまま、左側の男子部員の指導に入った。男女別の部活なのに顧問は兼任。指導も細かくは出来ない、そんな部活レベル。
勿論ハゲ山は剣道有段者である。未経験者が顧問、というより部長の薙刀部よりは遥かにマシだ。
マシなのだが、『万年最下位』と呼ばれる南高校剣道部の主将としては、やはり細かな熱血指導が欲しかったのだった。
更衣室で汗を拭きながら着替える部員達。
「ね、この後カラオケ行く?」
「あたしパス! 今日はコミックの発売日!」
「スマホで見ないの?」
「見てて面白かったから、コミック買う事にした」
「じゃあ、カラオケ行くのは?」
数人が手を挙げる。
「は?アリスは? まさかまたゲーム?」
「違う! バイト!! あのゲーム、終わったから」
アリスの言葉に皆が突っ込む。
「終わった?」
「あのゲーム? 今時珍しいあの『成長RPG』?『恋愛』物じゃなくて」
『プリンセス活動』。
『プリ活』と呼ばれるスマホゲーム。平民の女性が実は伯爵令嬢で、上手く育てて王子の婚約者にする成長系RPG。同じ設定で複数の婚約者候補のイケメンと付き合う恋愛系が多い中、今時珍しい、昔懐かしの王道RPGだった。
なので、やってた女子も少なくて、剣道部ではアリス一人しかいなかった。学校全体でも少数派だろう。
「よく終わりまでいったわ? あれ、思ったより難しかったし」
育成メインではあるものの、ファンタジー世界の王道RPG。王国の危機を救い王子と結ばれるストーリー展開の為、悪い魔導師やライバル視する悪役令嬢と戦う事になっていて、この戦闘場面が兎に角本格的。難易度が高く、戦闘だけ彼氏や兄弟にやってもらう女子も多かった。
「流石、剣と魔法の大好き少女。よくやるわー」
「てか、ゲームなんかやらなそうな体育会系なのに」
「うんうん、熱血美少女剣士! 凛としていて男子の人気も高いのにさ」
だから、ゲームやらないっていうのは極端な気もするけど? アリスは不思議でならなかった。
「それじゃお先に!」
そう言って飛び出すのを見たのが、最後の姿だった。
居眠り運転のトラックに轢かれて、アリスは亡くなった。
迫り来るトラック!
横断歩道を歩いてて、トラックが来るのは分かっていた。ノーブレーキで突っ込んでくるとは思わなかった。気付いた時は遅く、運転手が寝てるのが見えた途端、身体全体に衝撃を受けた。
「痛い!」
思う隙もなく即死のハズだった。
「え? ベッドの上? 私、生きてるの?」
「お嬢様? 気が付かれましたか? 旦那様! 奥様! お嬢様が目覚められました!!」
「お嬢様? 誰?…ああっ!」
アリスは飛び起きた!
が、目眩がしてすぐ倒れた。
「お嬢様! まだご無理をなさっては?」
目が回ってはいたが、頭はハッキリしていた。
今の自分が、公爵令嬢アリス=ガーランドだということを。
「これ、『プリ活』の悪役令嬢? ヒロインの邪魔をしまくるウザイお嬢様? そんな……」
急激に目眩が酷くなり、アリスは再び意識を失った。
再び目覚めたのは翌朝。
馬車の事故に巻き込まれ、5日程意識を失っていたらしい。
公爵令嬢にケガをさせた馬車の馭者は即死刑になった。勿論アリスは知らない事だった。
鏡を見て、アリスはタメ息をついた。
そこに写っているのは、ゲームの中でヒロインを虐める悪役令嬢の幼い頃の姿。金髪碧眼の、成長するにつれ絶世の美女になるであろう幼女の姿だった。
「でも、まだ5歳。あのゲームのストーリー展開もイベントも全部覚えてる。私にやり直せって事? 私の運命が強いか、ゲームの強制力が強いか? いいわ、やってやる!」
ガーランド公爵家は、舞台であるマールディア王国のなかでも有数の大貴族だ。
当主のバルト=ガーランドは王国宰相を努め、母親のミリア=ガーランドは鎮南将軍ゴール=トラン伯爵の娘であり、その母親、つまりアリスの祖母は西の大国クロイス王国国王の従姉だった。
アリスは隣国王家の血を引いていることになる。
「ゲームの設定で、さる高貴な血筋ってこの事。知らない裏設定まで再現されているんだ」
ケガが治った後、アリスは自室でちょっと剣道の型をとってみた。
「とれた。全部覚えてる、私、戦えるんだ」
考えてみればラスボスに近いアリス=ガーランドは、戦闘場面でも難儀な中ボスだった。
「やっぱりスペック高いな~! 流石アリス」
さて、イベント通りなら、もうすぐ太陽感謝祭がある。この祭りで、アリスは、ヒロインの少女と邂逅を果たす。お互いの立場を知らず、再会を夢見て別れた二人。この後の数奇な運命を際立たせる、幼い日の仲良しイベント。
これが、転生したアリスにとっても運命の別れ道だった。
武道館に気合のこもった掛声が響く。右側で、汗を流す少女。
女子剣道部主将 広井アリス18歳。
高校3年の最後の大会に向け、猛特訓の最中だった。
「よーし、そこまで!」
顧問の先生、ハゲ山と呼ばれる景山が練習を止める。渾名の通り、毛髪は後頭部に気持ち有るだけ。本人は諦めず気にしているので、部員の生徒達も面と向かっては言わないようにしていた。
「時間だ。全員向かい合って礼! 正面に礼!」
「ありがとうございました!」
ハゲ山はそのまま、左側の男子部員の指導に入った。男女別の部活なのに顧問は兼任。指導も細かくは出来ない、そんな部活レベル。
勿論ハゲ山は剣道有段者である。未経験者が顧問、というより部長の薙刀部よりは遥かにマシだ。
マシなのだが、『万年最下位』と呼ばれる南高校剣道部の主将としては、やはり細かな熱血指導が欲しかったのだった。
更衣室で汗を拭きながら着替える部員達。
「ね、この後カラオケ行く?」
「あたしパス! 今日はコミックの発売日!」
「スマホで見ないの?」
「見てて面白かったから、コミック買う事にした」
「じゃあ、カラオケ行くのは?」
数人が手を挙げる。
「は?アリスは? まさかまたゲーム?」
「違う! バイト!! あのゲーム、終わったから」
アリスの言葉に皆が突っ込む。
「終わった?」
「あのゲーム? 今時珍しいあの『成長RPG』?『恋愛』物じゃなくて」
『プリンセス活動』。
『プリ活』と呼ばれるスマホゲーム。平民の女性が実は伯爵令嬢で、上手く育てて王子の婚約者にする成長系RPG。同じ設定で複数の婚約者候補のイケメンと付き合う恋愛系が多い中、今時珍しい、昔懐かしの王道RPGだった。
なので、やってた女子も少なくて、剣道部ではアリス一人しかいなかった。学校全体でも少数派だろう。
「よく終わりまでいったわ? あれ、思ったより難しかったし」
育成メインではあるものの、ファンタジー世界の王道RPG。王国の危機を救い王子と結ばれるストーリー展開の為、悪い魔導師やライバル視する悪役令嬢と戦う事になっていて、この戦闘場面が兎に角本格的。難易度が高く、戦闘だけ彼氏や兄弟にやってもらう女子も多かった。
「流石、剣と魔法の大好き少女。よくやるわー」
「てか、ゲームなんかやらなそうな体育会系なのに」
「うんうん、熱血美少女剣士! 凛としていて男子の人気も高いのにさ」
だから、ゲームやらないっていうのは極端な気もするけど? アリスは不思議でならなかった。
「それじゃお先に!」
そう言って飛び出すのを見たのが、最後の姿だった。
居眠り運転のトラックに轢かれて、アリスは亡くなった。
迫り来るトラック!
横断歩道を歩いてて、トラックが来るのは分かっていた。ノーブレーキで突っ込んでくるとは思わなかった。気付いた時は遅く、運転手が寝てるのが見えた途端、身体全体に衝撃を受けた。
「痛い!」
思う隙もなく即死のハズだった。
「え? ベッドの上? 私、生きてるの?」
「お嬢様? 気が付かれましたか? 旦那様! 奥様! お嬢様が目覚められました!!」
「お嬢様? 誰?…ああっ!」
アリスは飛び起きた!
が、目眩がしてすぐ倒れた。
「お嬢様! まだご無理をなさっては?」
目が回ってはいたが、頭はハッキリしていた。
今の自分が、公爵令嬢アリス=ガーランドだということを。
「これ、『プリ活』の悪役令嬢? ヒロインの邪魔をしまくるウザイお嬢様? そんな……」
急激に目眩が酷くなり、アリスは再び意識を失った。
再び目覚めたのは翌朝。
馬車の事故に巻き込まれ、5日程意識を失っていたらしい。
公爵令嬢にケガをさせた馬車の馭者は即死刑になった。勿論アリスは知らない事だった。
鏡を見て、アリスはタメ息をついた。
そこに写っているのは、ゲームの中でヒロインを虐める悪役令嬢の幼い頃の姿。金髪碧眼の、成長するにつれ絶世の美女になるであろう幼女の姿だった。
「でも、まだ5歳。あのゲームのストーリー展開もイベントも全部覚えてる。私にやり直せって事? 私の運命が強いか、ゲームの強制力が強いか? いいわ、やってやる!」
ガーランド公爵家は、舞台であるマールディア王国のなかでも有数の大貴族だ。
当主のバルト=ガーランドは王国宰相を努め、母親のミリア=ガーランドは鎮南将軍ゴール=トラン伯爵の娘であり、その母親、つまりアリスの祖母は西の大国クロイス王国国王の従姉だった。
アリスは隣国王家の血を引いていることになる。
「ゲームの設定で、さる高貴な血筋ってこの事。知らない裏設定まで再現されているんだ」
ケガが治った後、アリスは自室でちょっと剣道の型をとってみた。
「とれた。全部覚えてる、私、戦えるんだ」
考えてみればラスボスに近いアリス=ガーランドは、戦闘場面でも難儀な中ボスだった。
「やっぱりスペック高いな~! 流石アリス」
さて、イベント通りなら、もうすぐ太陽感謝祭がある。この祭りで、アリスは、ヒロインの少女と邂逅を果たす。お互いの立場を知らず、再会を夢見て別れた二人。この後の数奇な運命を際立たせる、幼い日の仲良しイベント。
これが、転生したアリスにとっても運命の別れ道だった。
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