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第一章『それは、新しい日常』

第九話「魔族」

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チュンチュン





















チュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュンチュン



「うるさい...」



 私はあまりにもうるさい朝チュンによって目が覚めた。



 これがあの有名な朝チュンだと言うのか。そんなまさか。だとしたら期待していたものと大きく離れすぎている。

 1羽いたら10羽いる。奴らはGの遺伝子でも受け継いでいるのか。現実は残酷だった。



「今ので起きないんだ...」



 隣を見るとユウキはまだ寝ていた。昨日、邪龍と戦っていた時のキリッとした表情は消え失せ、どこか柔らかい印象を与えてくる。

 私が言うのもなんだがやはりまだ子どもっぽい。



 ユウキのサラサラした髪に指をさしいれ、梳かしていく。



 昨日はびっくりしたなー。まさか私の封印結界を解ける人がいるなんて。それに邪龍を倒すなんて。

 あそこに篭って数年ほとんど寝ているような生活だった。いや、生活と言えるものではないか。



「ん... あ?」



 昨日のことを思い出しているとユウキが起きたみたいだ。



「おはよ... もう朝...」



「あー、そうか」



 ユウキが目を擦りながら起き上がる。寝起きのせいか声がいつもより若干低い。



 まだ眠いのかな?



「もう少し寝る...?」



「いや、起きよう。あの二人はもう起きてるだろうし」



「ん... わかった...」



 ベッドから抜け出しクローゼットの前へ移動する。衣服を取り出し、互いに反対側を向きながら、それぞれの服を手に着替え始める。



 さすがに見る勇気はまだない。はずかしいし、やっぱり嫌われたくない。



 しばらく無言のまま、黙々と着替えを進めていく。



 服は昨日リリィーから借りたもの。私に合うものを見繕ってくれた。白いドレス?みたいなもので可愛らしいデザインになっている。

 そういえばその時にユウキがリリィーに耳打ちしていたけどなんだったんだろう。



「イブ、着替えたか?」



「うん...」



 後ろを振り向くと昨日出会った時と同じ格好をしたユウキがいた。邪龍の鉤爪で空いたコートの穴も元どおりになっている。

 あれ?と思い《鑑定》して見ると、自動回復という中々レアな効果がついていた。

 なるほど確かにこれなら次の日になればよほどのことでない限り元に戻るだろう。



「おー、やっぱりイブは白が似合うな」

「リリィーに頼んで正解だった」 ボソッ



 ユウキがイブへ服の感想をもらす。その後何か呟いたようだがイブの耳には入らない。



 ?

 今なんて言ったんだろ?



「よし、じゃあ行くか」



 聞こえなかったのはしょうがない。私は頷きを一つ返し、ユウキのあとに続いた。







 ~~~~~~~~~~







「やあ、おはよう」



「おはよー」



 軽く手をあげるシオンと厨房から顔を覗かせるリリィー。扉を開けると昨日と全く同じ光景に出迎えられた。

 二人のあいさつに俺とイブも順にあいさつを返し、自分たちの席につく。



「イブはよく眠れたかい?」



 初めてここに泊まるイブを気遣うようにシオンが問う。



「うん... いい寝心地だった...」



 ...そんなこと言いながこっち見ないでくれませんかイブさん。



 大丈夫、俺は別に何もしてない。そもそも強引に一緒に寝ようとしたのはイブだ。バレても問題ないはず。

 あー、リリィーに知られたら、めんどくさいことになるだろうなー。



「ユウキは今日僕と一緒に人間界に行くんだよね?」



「ああ、そのつもりだ」



「イブはどうするつもりだい?」



 まずい、考えていなかった。どうしたものかと悩んでいるとイブ本人が答えてくれた。



「もちろんついてく...」



 そうだな、確かに連れていかない理由もないし... あれ、リリィーはどうするつもりなんだ?あいつ魔族だよな。入れるのか人間界。



「え?待って。イブが行くなら私も行きたい!」



 一人置いていかれるのかと思ったのか、リリィーが慌ててやってきた。



「なら、みんなで行こうか」



 シオンの言葉にリリィーが心底安心した表情を見せる。そんなに置いて行かれるのが嫌だったのか。



「でもリリィーって魔族なんだよな。大丈夫なのか?」



「それは問題ないと思うよ。リリィーは人型の魔族だし、外見だけじゃまずバレないと思う」



 それなら大丈夫そうか。







 ひとまず全員で行動することが決まり、ご飯が冷めないうちに食べようと言うことになった。

 もうでき上がってたんだな。昨日より遅く起きてきたし当然か。















「金問題は解決するとして人手はどうする?人間界に行くならそこで何人か連れてくるか?」



 俺は食べ終わったナイフとフォークを置き、お茶を飲みながらシオンに聞いてみた。



「そうだね。奴隷を何人か買おうか。あっ、もちろん奴隷はずくに解放するよ。酷い扱いなんてしない」



 奴隷と聞いて俺が眉を顰めたのがわかったのだろう。誤解しないようにシオンはすぐに訂正を入れた。

 でも、それだけで足りるのか?



「魔族の方からも出せると思うわよ。というかそろそろ来る思うわ」



 リリィーが俺の心を読んでいたかのような完璧なタイミングで応えてくれた。そろそろ来る?



「いつそんな連絡とったんだ?」



「呼びに行った者がいるのよ。シオンのおかげでね」



 どういうことだ? この城にはリリィー1人のぼっち暮らしだ。伝令を頼む人なんていないはず。







「あっ」



 ピーーーーー







 シオンが何かに気づくのと、笛のようなものがなったのはほぼ同時だった。



「噂をすれば来たみたいね」



 今のはチャイムみたいなものなのか? リリィーが警戒しないということは大丈夫なんだろう。リリィーの指示に従って俺たちはテレポートによって外に出た。

 この城、広すぎて歩って出るのには相手が待ちぼうけを食らってしまうのだ。







 一瞬で視界が切り替わり外に出たことがわかる。



 目の前には十数人の、まさに悪魔というような格好をした者たちが、20人ほど並んでいた。

 角や尻尾は当然のように生えており、肌は黒く人間の皮膚とは思えない。



「よかった魔王様、ご無事でしたか! そっ、その者たちはいったい!?」



「あいつです、ボルガー様! あの金髪が勇者だと名乗っていました!」



「そうです! 他の奴らもきっと仲間にちがいありませんっ!」



 後ろから出て来た二人が、シオンを指差しながら唾を飛ばす。



「やあ、えっと... 一昨日ぶり?」



 ここに来てようやく俺は思い出した。俺は会っていないが、こいつらはきっとシオンの話していた門番だ。

 気絶させられいたらしいが、起きた時点で応援を呼びに行っていたのだろう。魔王の安否を確認しないのか?と思ったが、自分たちが瞬殺された話だからな。確実な方法として魔王が殺されないことを信じ、戦力になりそうな者たちを連れて来たのだろう。



 しかし、まあご苦労なことだ。この世界じゃ遠方との連絡手段がないから、2日もかけて行き来したのだろう。



 俺は先ほど言っていた魔王の言葉思い出して溜息を吐いた。おそらくここから面倒くさいことになる。

 少なくとも俺やイブに飛び火しないことを祈ろう。



「大丈夫よ、あんたたち。此処にいるのはみんな敵じゃないわ。私の仲間よ」



「な、なるほど。流石です魔王様。まさか勇者を従わせてしまうなんて」



 ボルガーと呼ばれていたやつがホッとした顔をする。待てボルガー君、ホッとするのはたぶんまだ早いぞ。



「え? 仲間って対等なものでしょ? なんでそんな主従関係みたいな捉え方をするのよ」



「え!?」



 いやまあ、普通誰も魔王と勇者が仲間になるなんて思わんわな。



「何をバカなことを言っていらっしゃるのですか! それも勇者などと!」



「これは私が決めたことよ。あなたに否定される筋合いはないわ」



「そんなの納得できません! 魔族の中には人間に同胞殺された者が何人もいるんですよ!」



「なら私と勝負でもする気? 魔族唯一の掟、〔力のある者が正しい〕 私に勝てるの?」



 そんな掟があったのか。魔族らしいといえばらしいが... 力のある者が正しいってジャイ◯ンかよ...

 もうちょっと別の言い方は無かったのだろうか。



「そ、それは... 」



 彼はリリィーの言葉に狼狽え何も言い返せなくなってしまう。額には脂汗がいくつも浮かんでいた。



 それほどまでに力の差があるのか? 勇者に対抗するための増援だ。魔族の中でもトップクラスのやつなのかと思っていたが、そこらへんはどうなんだろうな。



「私では、あなたにまぐれで勝つことさえ出来ないでしょう... ですから私にそこいる勇者と戦わせてください」



「は? え? 何を言ってるのよあんた」



 リリィーが困惑した声を上げる。そりゃそうだ、魔王に勝てないからかわりに勇者などと

 呆れる以外他にない。



「彼が私より強いことがわかれば私も納得しましょう」



 こいつはバカなのだろうか。俺はちょっと呆れていた。このボルガーというやつがシオンに勝とうが負けようが一切関係ないのだ。リリィーは先ほど言っていた、力のある者が正しいと。

 その言葉の意味をこいつはわかっていない。今から行うことは強制力がまったくないのだ。ただのケンカといって差し支えない。



 リリィーも現状にイライラしてきたのか、握った手がプルプルと震えている。すると見兼ねたシオンが口を開いた。



「いいよ。場所は此処でいいのかな?」



 声の調子はいつものように軽く。何か気負っている風もない。あくまで自然に出てきた言葉のようだ。



「え!? で、でも...」



「大丈夫。後は自分でなんとかするよ。これは僕が原因みたいなものだからね」



 シオンはリリィーに大丈夫だと伝え一歩前に出た。それを見たボルガーが口元をニヤつかせる。



「いいのかよ勇者さんやー。俺は殺す気でいかせて貰うぜ。同胞たちの恨み今此処でぶつけさせて貰う!」



リリィーと喋っていた時とは雰囲気が一変し口調も砕けたもの変わっている。これが奴の素なのだろう。勇者へ向けて憎悪の目をたぎらせている。



「そっか。それじゃあ僕は殺さないように頑張るね」



「貴様ーーー!!」



 シオンの奴わざとなのか? あれほど綺麗に煽る勇者もなかなかいないぞ。



 それにしてもシオンが戦うのを見るのはこれが初めてか。

 リリィーは魔法をいくつか見せてもらったからすごいやつというの分かったが、シオンの力は一切見たことがない。せいぜい《鑑定》ぐらいか。

 ちょっと、楽しみだな。見せてもらおう。《勇者》の力を。



「リリィー合図してくれるかな」



「お願いします、魔王様」



 二人はもうすでに臨戦態勢に入っている。いつでも仕掛けられる格好だ。



「う、うんわかったわ」



 あれは絶対シオンに向かって返事をしたな。ボルガーかわいそー。



「それじゃあ、いくわよ。 3 2 1

 スタート!!」



 リリィーが勢いよく手を上げるのと二人が地面を蹴るのはほぼ同時だった。
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