暗黒図書館【R18】

ヒルナギ

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第十一話

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 わたしは思わず呟く。

――ここが暗黒図書館なのね。

――そうだよ。

 父はちらりと時計を見て言った。

――ああ、メールを送る時間だが、ここでは送れないな。見るかい、月子の作った物語の最終話を。

 父は、携帯電話を取り出す。それに見覚えがあった。姉が使っていたものだ。

――メールは父さんが送っていたの?

――そうだ。みるがいい。

 わたしは父に手渡された携帯電話の画面を見る。そこには、物語の最終話が書かれていた。

>11番目のメール
 少女は盗賊たちのアジトである古城の塔へ、つきました。塔の最上階に頭領の部屋があり、少女はその部屋で頭領と二人きりになります。少女はその部屋の壁を見て、びっくりしました。なぜならその部屋の壁に大きな書棚があり、そこには本がびっしりとつめ込まれていたからです。そう、そこはあの禍神のいたところとそっくりでした。

(おれは読みたい、おまえは何をよませてくれる)

 頭領がそう言ったとき、少女はどきりとしました。胸の中から熱いものがこみあげ、それが口から飛び出しました。それはあの一つ目の禍神です。そして、頭領の口からも同じように、一つ目の神が飛び出しました。二つの神は惹かれあい、溶け合い、一つずつだった目は一つの顔の二つの目になります。
 気がつくと、少女の前に立っていたのは銀色の羽を持つ天使でした。天使は少女と頭領である少年に語りかけます。

(わたしは魔法で二つに分割され、邪悪な存在になっていました。でも、今ひとつの全き存在に戻りました。ありがとう)

 そして世界は眩い光につつまれたのです。

――父さん、どういうことなのか説明してください。

――まあまて。

 父は、部屋の奥を指差す。

――まず、月子に会ってはどうだい。

 部屋の奥には扉があった。父はその扉を開く。わたしは父と共に、その扉の奥へと入った。そこは暗黒図書館と同じくらいの広さの部屋だ。わたしは部屋に入ったのと同時に、何か酷く寒気を感じる。
 父はその部屋の床を、懐中電灯で照らす。わたしは思わず、驚きの声をあげていた。

――父さん、これは一体。

 そこには死体が並べられていた。そして、一番手前にある死体は姉のものだ。

――ひと喰いの本に、喰われた人たちだ。

――ひと喰いの本ですって。

 わたしは膝をつき、姉の死体を見る。とても死体には見えなかった。死んだとすれば、ほんの数時間前のできごとだろう。そんなことはありえない。

――姉さんは、本当に死んでるの。

――おいおい、死んだとはいっていないだろう。喰われたんだ。

――それはどういうことなの?

 父はわたしの腕をとり、立たせる。

――向こうで説明しよう。

 わたしたちは暗黒図書館に戻った。父は、書棚から一冊の本を取り出す。その表紙には父がライブ告知のフライヤーに描いていたのと同じような絵がある。獣頭蛇身の神。ただフライヤーと違うのは、獣の口に人が咥えられておりその手に槍のかわりに本が持たれているということだ。
 父は言った。

――これがひと喰いの本だ。

――本が人を喰うというのは、どういうことなの?

 父は顎に手を当て、物思いにふけるような顔になる。

――さて、何から説明したものかな。

 父は目をあげ真っ直ぐわたしを見詰めると説明を始める。

――まず、人の記憶とは何かということから説明しよう。記憶とは意識から独立して脳の外になければ色々なことが説明つかないんだ。
 脳のシノプシスが蓄積する容量は、全ての記憶を保持できるほど巨大ではない。

――どういうこと。

 わたしは父のはじめた不思議な話にとまどう。

――最近の量子力学と脳の研究が融合することで判ってきたことだよ。つまり、脳の中で意識は生まれているようだが、記憶はそれから独立したものだ。意識がそのまま記憶になるのではなく、意識から独立したものとして記憶は存在する。

――ええ。

――では、どこにということだが。人間の身体の様々な場所に記憶は蓄積されている

――それっておかしい。

 わたしは父の言葉に異をとなえる。

――それじゃあ、身体のどこかが欠損すると思い出せない事が出る、ということなの?

――いわゆる量子コンピュータと同じような仕組みで、身体は記憶を保持してるんだ。
 つまり、自律分散型であり部分は曖昧化した全体像を保持している。
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