備忘録

ヰ野瀬

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会える日

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 僕は家族と会える日を指折り数えていた。
 あと五日で会える。そう思ったら嫌なことも忘れられるし、頑張れた。
 あと五日。あと五日で会える。そっと机の下で指を折った。

「なにしてんの? 花咲くん」

「何もしてない」

 同じクラスの鶯谷はいつも声をかけてくる。指折り数えてニヤついている、1番人に見られたくない様子のときに狙ったようにやってくる。


「いつも数えてるでしょ? 今何回目くらい?」

「残り5回……あ」

 いつもは乗せられないのに今日に限って口が滑ってしまった。

「0になったらなにかあるの?」

 ここまで答えてしまったらあとは面倒になり、大きなため息をついて鶯谷の質問に答えた。

「まあいいや。そうだよ。会えんの」

「誰に?」

「家族」

「一緒に住んでないの?」

「そう。今遠くに住んでて。これから会えるんだ」

 言葉にすると嬉しくて口角が上がるのが自分でもわかる。周りから見た自分はきっと怪しい変人だろう。

「良かったね」

「……まあ」

「会ったあと話聞かせてね」

「……うん」

 自分を気味悪どころか、嫌な顔ひとつ見せないなんて。クラス一優しいと言われているだけある。僕みたいなのと絡むなんて、周りになんて言われるか。常にぼっちな僕に知り合いができたみたいだ。

 とうとう今日会える。
 思ったよりも早く時間が過ぎたし、にやにやが増した顔は小さな子供から大人、年寄りにまで気味悪がられては傷ついた心を会えることを考えては癒していた。

 一人暮らしはそれほど悪くはない。
 ただ、いつも食卓にいたはずの母さんと父さんがいないってだけ。
 寂しかったわけではなかったが、会えれば嬉しかった。
 褒められるわけじゃないし、声をかけられるわけじゃない、罵られるわけもないし、笑いかけられることがない。それだけ。

 ただ一緒にいただけの家族。

 やっと会える。会いに行く。会える。
 そう思ったら。腰にまである手摺に手をかけて前にでる。
 学校の屋上はこんなに高かったのかと驚いた。ここから落ちれば会える。そう思ったら居てもたってもいられず、飛ぶように落ちた。

 落下していく瞬間。
 あまりにゆっくり落ちていくものだから、走馬灯が走った。
 頭から落ち、何かが潰れた音がした。

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