善界の狗

煮卵

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鶯を炙る(翠嵐回想)

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目の見えない飯室の僧正にとって、季節の行事はそれほど楽しめるものではなかった。寺では桜の時期と紅葉の時期に庭で宴会を催すが、飯室の僧正はいつもの庵で書物をしていた。
翠嵐がその様子に心を痛めていたある日、説法を聞きにきた証人から耳で季節を感じられるものを買わないかと持ちかけられた。
半信半疑で庵にあげてみると、商人は背負子の中から小さな籠を取り出した。
ちちっ…ちちと灰緑の背を持つ小さな鳥がこちらを見上げていた。
「鶯ですよ。」
僧正の顔が少し明るくなった。
「可愛らしい声ですね」
「まだ雛ですが、練り餌を与えれば、春にはよく鳴きます」
「それはいい。だが、私は目が見えぬので…」
「私が世話をしますよ」
翠嵐が答える。
商人は練り餌の作り方や世話の仕方を一通り翠嵐に伝え、来年も説法を聞きに来ると約束して寺を去った。
寺には新春のおり、飼っている鳥同士の音色を競う鳴き合わせの行事もあった。
「参加できるのが楽しみですね」
と毎日鶯に練り餌を与えていると、飯室の僧正はさらに意外なことを言い募った
「今年からは紅葉狩りも桜狩りも出席することとしようか」
「良いのですか?」
「目で見えずとも、葉の擦れる音や匂いを感じることはできる…それに、翠嵐、籠ってばかりいてはお前が退屈だろう。
あの商人がいい呉服屋を知っていると言うから衣装を新しくしてともに出席しよう」




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