上 下
23 / 238

子爵家の答え

しおりを挟む
 侍女がお茶とお菓子をテーブルに並べて出ていくと、室内には私と両親、マルロー子爵夫妻とリシャール様の六人になりました。軽口を交わすような雰囲気もなく、いつもよりも空気が重いです。

「さて、マルロー子爵、今日はどのようなご用件で?」

 何の話かはわかっていますが、形式的にお父様がそう尋ねました。うう、胃、胃が痛くなりそうです…殿下や王妃様との交流でもここまで緊張した事はありませんわね…

「はい、先日頂きましたお嬢様と愚息の婚約ですが…大変光栄とは存じますが、このお話はなかった事に…」

 やはりそうなりますよね。わかっていましたが…直接言われると思っていた以上にくるものがあります。

「そう、ですか…理由を伺っても?」
「はい。まずは身分の差、でございましょうか。お嬢様は筆頭侯爵家の大切な唯一のお嬢様です。一方愚息はしがない子爵家の、それも三男でございます。継ぐ爵位もなく、騎士爵を得る可能性も殆どございませんので、長男が家を継げば平民になる身でございます。そのような者が大切なお嬢様を幸せにする事は、現実的に考えて難しいかと」
「なるほど」
「世の中には真実の愛などと言って、身分差を無視する風潮もございますが…結婚とは先の長いもの。一時的な感情で無視するにはあまりにも大きなものでございます」

 子爵の仰った理由はとても現実的で、最近の真実の愛と呼ばれる流行を利用して私の恋心を一時的な感情として釘を刺し、先の長い人生を見つめるように諭すものでした。きっと子爵の言葉はリシャール様の本音でもあるのでしょうね。確かに身分差もあり過ぎますし、一般的に考えれば私の求婚は無謀と言えるでしょう。

「お嬢様、お気持ちは大変光栄で嬉しく思います。しかし、リシャールはいずれ平民になる身でございます。自身の商会を立ち上げはしましたが、まだ自身の店を持ったばかりで商会と言うにはまだまだ規模が足りません。商売とは水物です。いい時もありますが悪い時もあり、時には食うに困る生活を送るやもしれません。これまで侯爵令嬢としてお暮しになったお嬢様がそのようなところに嫁がれて、する必要のない苦労をなさる事はございません」

 静かに語られる言葉は突き放したような感じはなく、親しい人に諭すような響きが感じられました。多分子爵は私が苦労すると、望むような生活は出来ない事を教えてくれているのでしょう。それは誠実をモットーとする子爵のお人柄そのもののように感じられました。

「…だそうだ、レティシア。どうするかね?」

 子爵の言葉を受けて、お父様が私に話を振りました。ここは私が決めていいという意味なのでしょう。

「子爵のお言葉、仰る通りだと思います」
「嘘偽りはございませぬ」
「…ですが、子爵様は思い違いをされていらっしゃいますわ」
「思い違い、ですか?」
「ええ。私、侯爵家での生活をリシャール様との婚姻で望んではおりません」
「しかし…」
「平民になる事も覚悟の上ですわ」

 私がきっぱりとそう告げると、子爵家の皆様は困惑した表情を浮かべられました。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,885pt お気に入り:143

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,172pt お気に入り:309

異世界迷宮のスナイパー《転生弓士》アルファ版

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:518pt お気に入り:584

女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

恋愛 / 完結 24h.ポイント:667pt お気に入り:686

処理中です...