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水面下で進行中です
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副侍女頭に指示を出した私は、再び夜会の会場に戻りました。休憩が休憩ではなくなってしまいましたが、今はそれどころではありません。国のためにもお兄様のためにも、火種の方々には退場して頂かなければなりませんから。
会場に戻ると、まだ多くの貴族たちが残っていて、渦中にある方々の姿が見えました。アドリエンヌ様はエルネスト様から離れ、今は王妃様達と談笑中です。時々お兄様の様子を窺っていますが、お兄様はセレスティーヌ様の側を離れないので手が出せないのか、表情が冴えないようにも見えます。
そしてエルネスト様は…仲のいいご友人たちと共にお酒を飲んでいらっしゃいますわね。随分と機嫌がよろしいようで、最近では見られなかった笑顔を浮かべています。アネット様を切り捨てて、もう心情的にはセレスティーヌ様の夫に、いえ、国王になったつもりなのかもしれません。そんなに簡単な話ではないのですが…単純なところは変わりませんわね。
そしてセレスティーヌ様は、今は我が国の王太子殿下ご夫妻と談笑中です。王太子殿下としても交流が増えれば国益に繋がりますし、何としてもここで好印象を…とお考えなのでしょう。まさか実弟と義母が全て台無しにするような事を考えているとは想像も出来ないでしょうが…
私はリシャール様と一緒に、お兄様の元に向かいました。
「レティ!」
近くまで行くと、お兄様が私を見つけて声をかけてくれました。セレスティーヌ様と王太子殿下ご夫妻も声をかけて下さって、暫く談笑していると王太子殿下ご夫妻がまた後で…と離れていかれました。
「お兄様、後でちょっと…」
私が小声で囁くと、お兄様は一瞬不審そうな視線を私に向けましたが、直ぐにいつもの穏やかな笑みを浮かべて、ああ、と一言答えられました。夜会の後で時間を頂ければ…と思ったのですが、伝わっているでしょうか。話す機会があればなんとかなりそうですし、私に会いに来る事でアドリエンヌ様から引き離せればいいのですが。ここでは何も言えなくてもどかしいですが、お兄様は何かを察して下さると信じるしかありませんわね。
それから程なくして、私はリシャール様と両親と一緒に夜会を後にしました。今夜は王宮に賜った我が家の部屋に泊まる予定ですが、お兄様は来て下さるでしょうか…
「遅くなってすみません」
部屋に戻って半刻ほどして、ようやくお兄様がやってきました。どうしたのかと尋ねると、お酒を飲み過ぎたエルネスト様を介抱していたそうです。しかもお兄様、エルネスト様をご自分の控室に運んだそうです。
「ええっ?お兄様の控室へ?」
「ああ。どうせアドリエンヌ様が何か企んでいるのだろう?」
「え、ええ。でも…」
「だったら私はあの部屋にいない方がいいと思ってね。殿下も随分酔っていたから、水を飲ませて寝かせてきたよ」
「そ、それって…」
その水って…あの媚薬入りのでしょうか。お兄様のあまりにもクリティカルな動きに、私はこれも天の采配かと思ってしまいました。両親とお兄様にあのお二人の計画を話すと、みんな一様に驚いていましたが、これで計画は一歩成功に近づいた気がします。
「王太子殿下は大丈夫でしょうか?」
「そこは心配ないよ。お部屋までは私がお送りしたし、殿下の側近の一人は女性なんだ。この国に来てからはずっと一緒に寝ていると言っていたし、側を離れる事はないよ」
「そうですか」
セレスティーヌ様の方でも警戒して下さっていたようで安心しましたわ。その女性は護衛も兼ねていて、エルネスト様程度なら簡単に撃退してしまえるほどお強いそうです。それ以外でも殿下の恋人という護衛騎士やモラン様もご一緒なので、心配する必要はないとお兄様に言われました。
(あとはあのお二人がどうなるかですわね…)
罠にはめる様な事になって少しだけ良心が痛みましたが、こうなったのも彼らが馬鹿な事を計画したからです。とにかく戦争になるのだけは避けたいところです。その夜は思うように事が進んでいるのかが気になって、中々寝付けませんでした。
会場に戻ると、まだ多くの貴族たちが残っていて、渦中にある方々の姿が見えました。アドリエンヌ様はエルネスト様から離れ、今は王妃様達と談笑中です。時々お兄様の様子を窺っていますが、お兄様はセレスティーヌ様の側を離れないので手が出せないのか、表情が冴えないようにも見えます。
そしてエルネスト様は…仲のいいご友人たちと共にお酒を飲んでいらっしゃいますわね。随分と機嫌がよろしいようで、最近では見られなかった笑顔を浮かべています。アネット様を切り捨てて、もう心情的にはセレスティーヌ様の夫に、いえ、国王になったつもりなのかもしれません。そんなに簡単な話ではないのですが…単純なところは変わりませんわね。
そしてセレスティーヌ様は、今は我が国の王太子殿下ご夫妻と談笑中です。王太子殿下としても交流が増えれば国益に繋がりますし、何としてもここで好印象を…とお考えなのでしょう。まさか実弟と義母が全て台無しにするような事を考えているとは想像も出来ないでしょうが…
私はリシャール様と一緒に、お兄様の元に向かいました。
「レティ!」
近くまで行くと、お兄様が私を見つけて声をかけてくれました。セレスティーヌ様と王太子殿下ご夫妻も声をかけて下さって、暫く談笑していると王太子殿下ご夫妻がまた後で…と離れていかれました。
「お兄様、後でちょっと…」
私が小声で囁くと、お兄様は一瞬不審そうな視線を私に向けましたが、直ぐにいつもの穏やかな笑みを浮かべて、ああ、と一言答えられました。夜会の後で時間を頂ければ…と思ったのですが、伝わっているでしょうか。話す機会があればなんとかなりそうですし、私に会いに来る事でアドリエンヌ様から引き離せればいいのですが。ここでは何も言えなくてもどかしいですが、お兄様は何かを察して下さると信じるしかありませんわね。
それから程なくして、私はリシャール様と両親と一緒に夜会を後にしました。今夜は王宮に賜った我が家の部屋に泊まる予定ですが、お兄様は来て下さるでしょうか…
「遅くなってすみません」
部屋に戻って半刻ほどして、ようやくお兄様がやってきました。どうしたのかと尋ねると、お酒を飲み過ぎたエルネスト様を介抱していたそうです。しかもお兄様、エルネスト様をご自分の控室に運んだそうです。
「ええっ?お兄様の控室へ?」
「ああ。どうせアドリエンヌ様が何か企んでいるのだろう?」
「え、ええ。でも…」
「だったら私はあの部屋にいない方がいいと思ってね。殿下も随分酔っていたから、水を飲ませて寝かせてきたよ」
「そ、それって…」
その水って…あの媚薬入りのでしょうか。お兄様のあまりにもクリティカルな動きに、私はこれも天の采配かと思ってしまいました。両親とお兄様にあのお二人の計画を話すと、みんな一様に驚いていましたが、これで計画は一歩成功に近づいた気がします。
「王太子殿下は大丈夫でしょうか?」
「そこは心配ないよ。お部屋までは私がお送りしたし、殿下の側近の一人は女性なんだ。この国に来てからはずっと一緒に寝ていると言っていたし、側を離れる事はないよ」
「そうですか」
セレスティーヌ様の方でも警戒して下さっていたようで安心しましたわ。その女性は護衛も兼ねていて、エルネスト様程度なら簡単に撃退してしまえるほどお強いそうです。それ以外でも殿下の恋人という護衛騎士やモラン様もご一緒なので、心配する必要はないとお兄様に言われました。
(あとはあのお二人がどうなるかですわね…)
罠にはめる様な事になって少しだけ良心が痛みましたが、こうなったのも彼らが馬鹿な事を計画したからです。とにかく戦争になるのだけは避けたいところです。その夜は思うように事が進んでいるのかが気になって、中々寝付けませんでした。
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