冤罪で異界に流刑されたのでスローライフを目指してみた

灰銀猫

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半壊の小屋と倒れていた男

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「ごめんくださぁい! 誰かいませんかー?」

 とりあえず、正面から突撃してみた。人違いの可能性が否めないし、当たりだったとしても中身は俺じゃない誰かだ。大人しく身体を返してくれるかも不明だし、そもそも戻れるかもわからない。いや、俺の身体を奪ったと逆上される可能性もある。色んな可能性があったけれど、とにかく会わないことには話が進まないのだ。入口と思われるところから声をかけているのだけど……

(反応がない。もしかして出かけている、とか?)

 既に十回は呼びかけた。さすがにこれ以上は不要だろう。となれば不在なのか、頑として出てくる気がないのか。まさか寝ていて気付かないとは思えないんだが……

(しゃーない。ドアを開けてみるか)

 何が出てくるかわからないけど、これだけ呼んでも誰も出てこないなら不在の可能性が高いだろう。空き家だと思われても仕方ないボロさだ。

「すみませーん! 開けますよ―! 誰かいませんかー!」

 声をかけながらドアを開けた。ギギギ……と嫌な音を立ててドアが開いていく。中は予想通り薄暗かった。多少なりとも陽は入っているらしいが、それでも暗い。夜目が利くのが幸いだった。暗くても中は見えた。見えたんだけど……

「な! ちょ! おい! 大丈夫か?!」

 飛び込んできたのは、うつぶせに倒れている男の姿だった。慌てて駆け寄って抱き起こして、息を呑んだ。

(こ、これって……俺、か?!)

 青緑の髪は薄汚れてボサボサで伸び放題、髭も同様だ。そして……顔の左半分には、焼きただれたような傷が広がっていた。それでも右半分には見慣れた俺の顔があった。

「おい! 大丈夫か!」

 声をかけるが返事がない。それでも微かな呼吸はしているし、脈もある。死んでいるわけではない。ないが、今にも死にそうなのは一目瞭然だった。

(ここで死なせるかよ!)

 やっと見つけた俺の身体だ。こんなところで死なせるわけにはいかない。俺は懐からあるものを取り出した。手のひらに載るほどのサイズの瓶に入っているのは、デルが作ったあの凶悪な薬湯の濃縮版だ。この瓶はデルが魔術で中身が劣化しないよう特殊な術を掛けたものだから、品質は問題ないだろう。自分にこれを飲ませるのは、非常に不本意ではあるが。しかもあれの濃縮版。もしかしたらショックで死んでしまうかもしれないが、治癒魔法が十分にかけられない俺ではこれが最善だ。

(頼むから、ショック死しないでくれよ)

 どこの神に願えばいいのかわからないが、とにかく祈りながら俺は俺にあの薬湯を飲ませた。口に注ぎ込んだ瞬間、僅かに眉を顰めたようにも見えた。意識がなくても拒否反応が出たのかもしれないが、今は意識がなかった事を喜んで欲しい。全てを注ぎ込んだ後は、水を飲ませた。あれが口や喉に残っているのは気の毒だったからだ。
 無事に飲み終え、少し待ったけれど心臓が止まる気配はなかった。ショック死は免れたらしい。よく頑張った、俺の身体。思いっきり褒めてやりたかった。

 周囲を見渡す。薄暗い小屋の中はガランとしていた。ベッドとテーブルにイスが一つ、キッチンやトイレといったものはなにもない。何かの作業用の小屋みたいなところに無理やりベッドを置いているような感じだ。そのベッドも藁が乗っているだけでシーツもない。これ、ベッドでいいんだろうな。他に寝かせる場所もなかったから、俺は俺の身体をそこに寝かせた。

 どれくらい経っただろうか。外が少しずつ暗くなってくるのを感じながら、俺は俺が目覚めるのを待っていた。そこに足音が近づいているのを感じた。

(誰だ? 同居人、か?)

 軽めの足跡は男よりも女、大人よりも子供のように思えた。真っすぐにこちらに向かってくるから、やはり目的はこの小屋だろうか。聞き耳を立てていると、すぐ側で足音がいったん止まった。

「ガルア! ただいま! ちゃんと寝ていた?」

 入ってきたのは、銀色の長い髪を一つに結び、籠を手にした若い娘だった。年は十五、六くらいだろうか。整った顔立ちをしていて、凄く可愛い部類に入るだろう。薄汚れた男物の服を着ていたが、それでも楚々とした印象を受けた。その娘は俺の姿に気付くと、水色の目をめいっぱい開いて俺を見つめた。






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