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会いたくない人たち

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 家に帰ろうと移転した部屋に向かっていた私たちは、あと少しというところで呼び止められた。振り向いた先にいたのは、金色の髪が目につく、赤紫色の瞳を持つ美少年だった。先日我が家に侵入してきたトーレだ。

「何だ?」
「連れないなぁ、君と僕の仲じゃないか」
「お前との間に仲と言われるものなどない」

 本当に彼のことが嫌いなのか、ラーシュさんはこの前以上に素っ気なかった。一方のトーレはにこにこしているのに感じが悪く見えた。これはラーシュさんで遊んでいるのだろう。

「せっかく王都に来たんだからゆっくりしていけば?」
「断る」
「ええ~でも、君に会いたがっている人はたくさんいるんだよ。ほら、あそこにも……」

 トーレが視線を向けた先には、着飾った女性陣の人だかりがあった。皆熱心にこちらを凝視しているから、ラーシュさんがお目当てなのだろう。そのラーシュさんは興味はないと一蹴した。

「それに、僕も確かめたいことがあってね。これから始まる選考会のことだよ。もう一人の候補のこと、聞いてる?」
「もう一人だと?」
「そう。君だって無関係じゃないでしょ?」
「…………わかった。手短に頼む」
「あ~はいはい」

 長い沈黙は気の進まなさを表していたけれど、ラーシュさんも無視出来ない内容らしい。渋々といった体で彼の要求に答えることにしたらしい。

「シャナ、暫くその庭のベンチで待って居て頂けますか?」
「は、はい……」

 そう言ってラーシュさんが示したのは、廊下のすぐ外にある庭のベンチだった。今まで緊張していて気が付かなかったけれど、庭には花が咲き乱れて、その中の木陰にいい感じで三人はかけられそうなベンチがあった。

「ああ、これを付けておきます。何かあったら直ぐに私に伝わりますから」
「アクア?」

 どこから出してきたのか、ラーシュさんの腕の中にはアクアがいて、嬉しそうに私に尻尾を振っていた。そう言えばこのまえトーレに対しても果敢に立ち向かってくれたっけ。確かにあの姿は番犬だし、想像以上に強かった。

「直ぐに戻りますし、姿が見える場所からは離れませんから」

 そう言うとラーシュさんはベンチにそっと私を下ろし、少し離れた場所へトーレさんと移動した。確かに姿が見えるから大丈夫そうだ。私は膝に乗せたアクアを撫でながら立派な庭を眺めた。

(ほんと、凄く、綺麗……)

 ラーシュさんの家の庭は素朴な花々が多かったけれど、ここには品種改良されているらしい立派な花がたくさん咲いていた。これはこれで見応えがある。
 風は心地いいし、暑くもなく寒くもなく、いい気候だなと思う。ここでお茶したら気持ちいいだろうなと思って、さっきは王様が一緒だったのもあってお茶もろくに飲めなかったのを思い出した。うん、帰ったらラーシュさんが淹れてくれるお茶が飲みたい。
 そのラーシュさんはさっきの位置でトーレと話をしていた。花越しに見るラーシュさんも絵になる。美形尊い。そう言えば、さっきの王様との話はどういう意味だったのだろう……大事にするつもりって……そんな風に言われると勘違いしちゃいそうなんだけど……

「あれ? 佐那?」
「え? せ、先輩?」
(……え?)

 この世界では馴染まない私の名を呼んだ声に、心臓がドキリとした。声の方を向くと、そこにいたのは……

(うそっ?! 一輝と……笠井さん?)

 少し先に立っていたのは、あの日一緒にいた元恋人と略奪女だった。二人ともこちら風の衣装を着ていて印象が違うけれど、間違いない。笠井さんは髪の根元が黒くなっていて、何だかプリンっぽく見える。この世界ではさぞかし斬新に見えるだろう。

(じゃ……あの二人も、こっちに?)

 その可能性をうっすらと考えてはいたけれど、こうして実際会う事になるなんて……二人がこっちに向かってくるのが見えた。

「やっぱりお前もこっちに来てたのかよ。よかったよ、無事で。お前今までどうしてたんだよ?」
「先輩、一人ですか? いったい今までどこに? それに……」

 二人が一斉に話しかけてきた。やけに馴れ馴れしいというかフレンドリーで不愉快極まりない。自分たちがしたこと、もう忘れてしまったのだろうか?

「がるるるる……!」
「え?」
「きゃ! 何なのよ、この犬?」

 彼らがあと数歩というところで、アクアが私の膝から飛び降りて、私たちの間に立って二人を威嚇した。私の気持ちを察してくれたのだろうか?

「お、おい。この犬、お前のかよ?」

 牙を剥き出したアクアに、一輝がちょっと怯えた表情を見せた。そう言えば犬嫌いで、犬好きじゃないのかがっかりしたっけ。あの時に付き合わなきゃよかったな、と今になって思った。

「お、おい、この犬何とかしろよ?」
「やだ、敵意剥き出しだなんて~先輩ったら、躾なってませんよ?」

 二人が揃って抗議してきた。特に笠井は馬鹿にしたような物言いにイラっとした。泥棒猫に躾云々言われたくなかった。アクアは可愛くて忠実な立派な番犬なんだから。

「何をしているのです?」

 地の這うような声が逆方向から聞こえた。声の主は振り向かなくてもわかった。



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