【完結】誕生日に最低なフラれ方をしたので神様に溺愛してくれるイケメンを所望してみた

灰銀猫

文字の大きさ
18 / 31

悲しむことの大切さ

しおりを挟む
 一輝と笠井さんがこの世界にいる事実は、私の心に重しのようにのしかかった。再開したせいか、忘れていたはずのあの日のことが思い出されて、昨夜は夢にまで出てきやがった。あんな奴に傷つけられたなんて認めたくなかったけど、私の心は思ったよりも柔らかかったらしい。

「シャナ? どうしました?」
「え?」
「王都から戻ってからというもの、何だか沈みがちなので」
「そ、そうでしょうか。そんなことないんですけど」

 笑って誤魔化したけれど、図星中の図星だった。王都から戻ってからと言うもの、私の心は沈みがちだった。吹っ切れたように思っていたけれど、一輝にフラれたことは棘のように私の心に痛みをもたらした。

 気にならなかったのは、いきなり知らない世界に飛ばされたのと、ラーシュさんとの生活が快適過ぎたからだろう。あんな風に大事に扱われたことがなかったのも大きい。
 一輝はノリはいいけど空気が読めない奴だった。私が風邪をひいても「無理するな」「ちゃんと休めよ」とは言っても、様子を見に来てくれたことは一度もなかった。正に口だけ男だったな、と今は思う。
 それに対してラーシュさんは、やり過ぎなくらいに私の世話を甲斐甲斐しくしてくれた。そりゃあもう、幼児じゃないのにと思うくらいにまめまめしくだ。あんな風に優しくされたから、一輝のこともどうでもいいと思っていたけれど……やっぱりショックを受けていたらしい。

「シャナ、彼のことが気になりますか?」
「え?」

 正にその事を考えていたせいで、思わず声が裏返ってしまった。ラーシュさんが悲しそうな表情を向けてきて、勘違いしそうになってしまう。

「気にならないと言えば、嘘になります」
「そうですか……」
「正直、彼のことはもうどうでもいいんです。でも、裏切られてショックだったんだなぁって、今になって思うようになって……」

 本当は好きだったからショックだったりもする。でも、それ以上に裏切った彼を許せなかった。あの時は悲しみよりも怒りの方が強かったのに、今になって悲しみが増しているような気がした。

「ちゃんと、悲しめなかったんですね」
「え?」
「悲しい時にしっかり悲しめないと、ずっと残るのですよ」
「そう、なんでしょうか」
「ええ。私も、そうでしたから……」
「え?」

 それは酷く実感が籠った言葉に聞こえた。ラーシュさんの過去に何かあったのだろうか。いや、もう二十八歳だと言っていたから、それなりに色々あっただろうけど。

「昔話を、聞いてくれますか?」

 そう言って語られたラーシュさんの過去は、思っていた以上に厳しいものだった。
 
 ラーシュさんが生まれたのは、普通の家庭だったという。特別裕福ではないが、それなりに余裕のある家庭で、両親と兄が一人いて、その次男として生まれた。
 そんなラーシュさんは、生まれて間もなく大量の魔力がある事が判明した。赤ちゃんだから仕方ないのだけど、機嫌が悪いと魔力を放出して周りを悩ませたのだ。お陰で両親、特に母親は魔力酔いを起こして体調不良に常に悩まされた。
 そんな生活で母親と兄が繰り返し体調を崩したため、ラーシュさんは魔術師に引き取られることになったという。魔力量の多い子どもの扱いはとても難しく、専用の乳母や世話人が必要だったからだ。
 そこでの生活は酷く侘しいものだった。乳母も世話人も魔力に耐性がある者か、全く魔力がないラウロフェルの民が採用されたが、特に魔力量が多いラーシュさんは腫物のような扱いを受けて育った。

 転機は十五歳の時に訪れた。ラウロフェルの民が新たに使用人に加わったのだ。その人は心優しく穏やかで、ラーシュさんの世話も愛情をこめてやってくれたという。
 それでも思春期と反抗期真っ最中だったラーシュさんは、素直にその人を受け入れられなかった。今まで冷遇とは言わないまでも、事務的にしか接して来なかった世話人が、急に優しくなって戸惑ったのもある。ラーシュさんはそんな彼女に苛立ちを覚え、何を言われても無視していたという。それでも彼女はラーシュさんに優しく接してきた。

 そんな彼女との別れは突然だった。子どもの一人が魔力暴走を起こし、彼女はそれに巻き込まれて亡くなってしまったのだ。それまで日に何度も声をかけてきた彼女がいなくなって、ラーシュさんはホッとしたという。これで元の静かな生活が戻って来ると。

「だけど……時間が経つにつれて、彼女からの声掛けがないことが堪え難いほど寂しく、悲しくなったのです」

 それは初めて感じた喪失感だったという。それに気付いた時、ラーシュさんは生まれて初めて泣きながら一夜を明かしたという。これまで泣くことがなかっただけに、涙が出ることもショックだったのだとも。

「悲しいと自覚出来ないのは苦しいことです。シャナは裏切られた直後にここに飛ばされてしまったせいで、ちゃんと悲しめなかったのでしょう」
「悲しめ、なかった……」

 その言葉がびっくりするくらい腑に落ちた。

(そっか、私、悲しかったんだ……)

 怒りで誤魔化していたけれど、フラれた自分が情けなく、それ以上に彼が私を捨てられたことが悲しかった。

「悲しい時には、泣いていいのですよ」

 そう言ってラーシュさんがふわりと抱きしめてくれた。その仕草が古い記憶に眠っていたお祖母ちゃんのそれとあまりにも似ていたものだから、私はその日、ラーシュさんに思っていることを吐き出しながら気が済むまで泣いた。




- - - - -
ストックが切れたので、明日からは一日一回19時更新になります。

しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

お姉さまに婚約者を奪われたけど、私は辺境伯と結ばれた~無知なお姉さまは辺境伯の地位の高さを知らない~

マルローネ
恋愛
サイドル王国の子爵家の次女であるテレーズは、長女のマリアに婚約者のラゴウ伯爵を奪われた。 その後、テレーズは辺境伯カインとの婚約が成立するが、マリアやラゴウは所詮は地方領主だとしてバカにし続ける。 しかし、無知な彼らは知らなかったのだ。西の国境線を領地としている辺境伯カインの地位の高さを……。 貴族としての基本的な知識が不足している二人にテレーズは失笑するのだった。 そしてその無知さは取り返しのつかない事態を招くことになる──。

恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました

あい
恋愛
両親を失ったあの日、 赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。 それが、アリア。 世間からは「若い母」と呼ばれながらも、 彼女は否定しなかった。 十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。 恋も未来も、すべて後回し。 けれど弟は成長し、ついに巣立つ。 「今度は、自分の人生を生きて」 その一言が、 止まっていた時間を動かした。 役目を終えた夜。 アリアは初めて、自分のために扉を開く。 向かった先は、婚姻仲介所。 愛を求めたわけではない。 ただ、このまま立ち止まりたくなかった。 ――けれどその名前は、 結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。 これは、 十六年“母”だった女性が、 もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。

裏切られた令嬢は冷たい公爵様に拾われて、最愛の奥方として満たされる〜婚約破棄された夜、隣国で見つけた真実の幸福〜

sika
恋愛
名門家の令嬢アリアは、舞踏会の夜に婚約者である王太子から婚約破棄を言い渡される。政治の道具にされた彼女は、すべてを失い、隣国へと逃れる。 だがその先で出会ったのは、冷徹と噂される公爵――レオンハルト。 「お前はもう、誰にも傷つけさせない」 無表情なその人の腕の中で、アリアは本当の愛と生まれ変わるような幸福を知っていく。 けれど、過去の因縁は二人を追い詰め、やがて彼女を見捨てた者たちに再会する時が訪れる。 「ざまぁ」はまだこれから――。 痛快な復讐と、甘く激しい溺愛が交錯する王道ロマンス。

幸せの賞味期限――妹が奪った夫は、甘く腐る

柴田はつみ
恋愛
幸せには「賞味期限」がある。 守る実力のない女から、甘い果実は腐っていく 甘いだけのダメンズ夫と、計算高い妹。 善意という名の「無能」を捨てたとき、リリアの前に現れたのは 氷の如き冷徹さと圧倒的な財力を持つ、本物の「男」だった――。 「お姉様のその『おっとり』、もう賞味期限切れよ。カイル様も飽き飽きしてるわ」 伯爵家の長女・リリアは、自分が作り上げた平穏な家庭が、音を立てて崩れるのをただ見つめるしかなかった。 信じていた妹・エレナの狡猾な指先が、夫・カイルの心の隙間に滑り込んでいく。 カイルは、優しくて美貌だが、自分の足で立つことのできない「甘い」男。彼はエレナの露骨な賞賛と刺激に溺れ、長年尽くしてきたリリアを「味のないスープ」と切り捨て、家から追い出してしまう

「優秀な妹の相手は疲れるので平凡な姉で妥協したい」なんて言われて、受け入れると思っているんですか?

木山楽斗
恋愛
子爵令嬢であるラルーナは、平凡な令嬢であった。 ただ彼女には一つだけ普通ではない点がある。それは優秀な妹の存在だ。 魔法学園においても入学以来首位を独占している妹は、多くの貴族令息から注目されており、学園内で何度も求婚されていた。 そんな妹が求婚を受け入れたという噂を聞いて、ラルーナは驚いた。 ずっと求婚され続けても断っていた妹を射止めたのか誰なのか、彼女は気になった。そこでラルーナは、自分にも無関係ではないため、その婚約者の元を訪ねてみることにした。 妹の婚約者だと噂される人物と顔を合わせたラルーナは、ひどく不快な気持ちになった。 侯爵家の令息であるその男は、嫌味な人であったからだ。そんな人を婚約者に選ぶなんて信じられない。ラルーナはそう思っていた。 しかし彼女は、すぐに知ることとなった。自分の周りで、不可解なことが起きているということを。

〖完結〗愛しているから、あなたを愛していないフリをします。

藍川みいな
恋愛
ずっと大好きだった幼なじみの侯爵令息、ウォルシュ様。そんなウォルシュ様から、結婚をして欲しいと言われました。 但し、条件付きで。 「子を産めれば誰でもよかったのだが、やっぱり俺の事を分かってくれている君に頼みたい。愛のない結婚をしてくれ。」 彼は、私の気持ちを知りません。もしも、私が彼を愛している事を知られてしまったら捨てられてしまう。 だから、私は全力であなたを愛していないフリをします。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全7話で完結になります。

わたくしが社交界を騒がす『毒女』です~旦那様、この結婚は離婚約だったはずですが?

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
※完結しました。 離婚約――それは離婚を約束した結婚のこと。 王太子アルバートの婚約披露パーティーで目にあまる行動をした、社交界でも噂の毒女クラリスは、辺境伯ユージーンと結婚するようにと国王から命じられる。 アルバートの側にいたかったクラリスであるが、国王からの命令である以上、この結婚は断れない。 断れないのはユージーンも同じだったようで、二人は二年後の離婚を前提として結婚を受け入れた――はずなのだが。 毒女令嬢クラリスと女に縁のない辺境伯ユージーンの、離婚前提の結婚による空回り恋愛物語。 ※以前、短編で書いたものを長編にしたものです。 ※蛇が出てきますので、苦手な方はお気をつけください。

契約妻に「愛さない」と言い放った冷酷騎士、一分後に彼女の健気さが性癖に刺さって理性が崩壊した件

水月
恋愛
冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件の旦那様視点短編となります。 「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。

処理中です...