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二人への怒り

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 ラーシュさんの家に着いたら、一気に気が抜けてしまった。王都に行くのは初めてだったし、王様に会うのも凄く緊張した。しかも止めはあの馬鹿男と略奪女だ。二度と会いたくないと思ったのに絡まれた上、笠井はラーシュさんに興味を持っちゃったし……

(あの女のことだから、絶対ラーシュさん狙ってきそう……)

 ラーシュさんが次期国王候補だって事も衝撃だったけれど、私の関心は笠井の存在に向かっていた。どうでもいいと思っていたけれど、彼女への怒りはまだ消えていなかったらしい。

 さっきの様子からして、あの二人は上手くいってなさそうに見えた。笠井は好みの男なら誰彼構わず手を出していると言われていた。一輝もまぁイケメンの部類に入っていたし、同期では二番手だったから食指が動いたのだろう。ちなみに一番手を狙わなかったのは、見た目が彼女の好みじゃなかったからだ。

 笠井のあの甘えた上目遣いの表情が思い出されて、気分がズシリと重くなった。あれで今までの男性も一輝も落としたのだろう。確かに同性の自分から見ても可愛いと思うし、放っておけないと思う気持ちは理解出来なくもない。
 それに比べて自分は……不細工とまでは言わないけれど、地味だし、あんな風に可愛らしく振舞う事も出来ない。性格もきついし甘えるのが苦手だし、これまで付き合った彼氏からも可愛げがないと言われたものだ。

(だったら……ラーシュさんも?)

 彼女も私と同じで、魔力の影響を受けない。しかも可愛いし若い。人との付き合いに慣れていないラーシュさんじゃ、彼女の手管にあっという間に取り込まれそうな気がした。ラーシュさんと二人きりになったら、私のある事ない事吹き込んで、自分に有利に持っていくことも。これまでも社内でそうしてきたように。

 そう、笠井はこれまでもカップルを破局させてきたトラブルメーカーだった。仕事面でも自分が請け負った仕事を周りに押し付け、いかにも自分がやった風を装うのも日常茶飯事。そんな彼女に女子一同で抗議したこともあった。だけど……それで株を下げたのは私たちの方だった。

「そんな……皆さん、酷いですぅ……」

 あざとさ全開でそう言って泣き出した彼女に、周囲の男どもは集団で虐めていると受け取ったのだ。嘘をついてカップルを破局させたことも、自分がやったと言っている仕事は私たちに押し付けていたものだと言っても、苛めをする奴の言うことなんか信じられるかと言われる始末。
 これが何度か続き、評価が下がり続ければ、私たちの間には諦めムードが漂っていった。
 そんな中、私たちを守り先頭に立って抗議してくれた先輩が、婚約をなかったことにされて傷心のまま退職してしまった。こうなると私たちは口を噤むしか出来なかった。先輩の婚約者は社長の甥で、笠井のシンパに陥っていたからだった。

「シャナ? どうしました?」
「……え?」

 すっかり笠井のことで考え込んでいたらしい。そう言えばラーシュさんとお茶をしていたところだった。慌てて見上げると心配そうに私を見つめていた。

「あ、ご、ごめんなさい。ぼ~っとしていました」
「……それは、あの二人のせいで?」

 それを指摘されて、心臓がドキリとした。正にその通りだったからだ。

「そう、ですね……まさかあんなところで会うとは思わなかったので……」
「そうでしたか。彼らはラウロフェルの民として保護されていた二人ですね」
「そうなんですか。あの……」
「はい?」
「あの二人が今どこにいるのか、ご存じですか?」

 もしかしたらラーシュさんは知っているんだろうか。ラウロフェルの民を保護するということは、どこかに預けるということだろうし。

「ええ、大抵は王宮の一角に部屋を与えられて、そこで暮らすことになります」
「王宮ですか?」
「ええ。彼らの持つ知識は貴重ですし、魔力がないのでこの世界で生活するのは大変です。だから王宮で保護するのです」
「保護……」

 確かに日本でも異世界人が現れたら同じ対応をするだろうなと思った。常識が違うだろうから一般人として暮らすのは難しいだろうし。余計なトラブルを防ぐためにも保護と監視は必要に思えた。

「じゃ、私もそうした方がいいんじゃ……」

 そう、今はラーシュさんの好意でここに置いて貰っているけれど、本来なら彼らと一緒に王宮で暮らすのがルールなのだろう。それに、いつかはラーシュさんも王になるかもしれない。そうなったら私を側に置くのはあまり良くないんじゃないだろうか……

「そこは大丈夫です。絶対に王宮で暮らさなければならない訳ではありませんから」
「そうなんですか?」
「ええ。後見人がいれば市井で暮らすことも可能ですよ。ラウロフェルの民と恋仲になって、伴侶として迎えたことも過去にはありましたから」
「伴侶に……」

 なるほど、結婚したら問題ないのか。ちゃんと生活出来るように面倒を見て、手綱を握っていれば大丈夫ということか。

「私は、シャナにはここにずっといて欲しいと思っています」
「そ、そうですか」
「ええ。ですから、シャナは何の心配もせずに、ここにいて下さい」
「あ、ありがとう、ございます」

 真剣な表情でそう言われると、プロポーズされているみたいで顔か火照ってきた。いやいや、勘違いしちゃだめだ。ラーシュさんはあくまでも保護した責任でそう言ってくれているのだ。もしかしたら怪我を治せなかったことも責任を感じているのかもしれないし。
 でも……例えラーシュさんのそれが同情であっても、あの二人がいるとわかった以上、王宮には絶対に戻りたくなかった。



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