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駄犬の相手は大変です
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「まぁ、あれはゲルスター公爵令嬢…」
「アルーシャ様と…リートミュラーのご次男かしら」
「王家から婚約の提案があったと聞いていましたけれど…」
「連れだって夜会に参加されるとは…」
私達が入場すると、会場内からひそひそと私達の事を話す声が聞こえてきました。まぁ、皆様も私達が参加するなんて思っていなかったでしょうから、驚いているでしょうね。それでも、北の守護神の我が家と東の守護神のリートミュラー辺境伯家を馬鹿にするような方はさすがにいらっしゃらないようです。まぁ、我が家とリートミュラー家は魔術に関して抜きんでているので、敵に回せば魔獣討伐の依頼を断られる可能性もあります。そうなれば死活問題なので無下には出来ないでしょうね。
ああでも、それをしたのがクラウス王子とマイヤー侯爵家ですが。両親は売られた喧嘩は倍の値で買ってやり返す派なので、今後のお二人の将来が心配です。でも…それくらいの覚悟はおありでしょう。
「ここにいたか!」
夜会が始まって暫くすると、早速あの二人がやってきました。お二人は鮮やかな青に金の差し色のお揃いの衣裳です。クラウス王子はまぁ、毎度の事で驚きませんが、マイヤー侯爵令嬢は随分とひらひらしたドレスですわね。彼女、確か私の一つ下の十九歳だった筈ですが、そのデザインはもっとお若い方向けのものでしょうに…そりゃあ、童顔で可愛らしいお顔でいらっしゃいますが、お背も高くて実年齢を思うと、さすがに若作り感が否めません。もう少しリボンやフリルを控えたらまだマシなのですが…どうやらこの方とは趣味が合いそうにありませんわ。
「これはクラウス王子とマイヤー侯爵令嬢、ご婚約おめでとうございます」
不良物件同士でくっついて下さったので、ここはお祝いしておきましょう。祝辞などいくら言ってもタダですし、こちらの懐も痛みませんからね。
「ああ、貴様との婚約を破棄して清々しているわ」
「左様でございますか」
「しかも貴様もその白豚と婚約したそうだな。今更お前のような可愛げもない年増など誰も相手にしないだろうからな!」
そう言って得意げに口元を歪めるクラウス王子ですが…我が家に来た釣書を是非お見せしたかったですわ。
「驕慢で行き遅れの年増に、愚鈍な白豚とはお似合いじゃないか」
「左様ですか」
「ああ。やはり私に相応しいのはリーゼのような可憐で健気な女性だ。決してお前ではない!」
「左様ですか」
確かにマイヤー侯爵令嬢は可憐ですが、さすがにそう言える年は過ぎていますし、健気な女性は自分の婚約者を裏切って他人の婚約者を略奪しませんわ。
その後も延々と罵詈雑言が続きましたが、私はそれを静かに聞き流しました。周りが呆れているのがわかっていますし、彼らの馬鹿さ加減を皆様に見せるのも大事なのです。それにしても、こんな時だけはボキャブラリーが増すのですね。弱い犬ほどよく吠えるとはこういうことなのでしょうね。
(でも、それを言っても理解出来ないでしょうね…)
そのうち言いたい事を言い切った彼らは、高笑いをしながら去っていきました。周りにいた皆様の冷たい視線にも気づかないなんて、随分おめでたいですわ。
「ふぅ…やっと静かになりましたわね」
「ええ。しかし…大丈夫ですか?」
解放されてやれやれと思っていると、ウィルバート様が心配そうな声で尋ねられました。表情はお肉でわかりませんが…ウィルバート様のお声はよく響いて、表情がわからなくても声で感情が伝わってきますわ。
「大丈夫ですわ。今までもああやって言いたい事だけ言っていましたし」
「ですが…」
「どこかの駄犬が吠えていると思えば気になりませんもの」
そう言って笑みを浮かべると、ウィルバート様のまとう空気が緩んだ気がしました。どうやら私の言っていることをわかって下さったみたいです。
「さて、挨拶も済ませましたし、そろそろ帰りましょうか?」
「そうですね」
顔は出しましたし、挨拶もして言いたい事も聞いたのですからこれで役目は終えたでしょう。私達は仲良く手を繋いでその場を後にしました。
「アルーシャ様と…リートミュラーのご次男かしら」
「王家から婚約の提案があったと聞いていましたけれど…」
「連れだって夜会に参加されるとは…」
私達が入場すると、会場内からひそひそと私達の事を話す声が聞こえてきました。まぁ、皆様も私達が参加するなんて思っていなかったでしょうから、驚いているでしょうね。それでも、北の守護神の我が家と東の守護神のリートミュラー辺境伯家を馬鹿にするような方はさすがにいらっしゃらないようです。まぁ、我が家とリートミュラー家は魔術に関して抜きんでているので、敵に回せば魔獣討伐の依頼を断られる可能性もあります。そうなれば死活問題なので無下には出来ないでしょうね。
ああでも、それをしたのがクラウス王子とマイヤー侯爵家ですが。両親は売られた喧嘩は倍の値で買ってやり返す派なので、今後のお二人の将来が心配です。でも…それくらいの覚悟はおありでしょう。
「ここにいたか!」
夜会が始まって暫くすると、早速あの二人がやってきました。お二人は鮮やかな青に金の差し色のお揃いの衣裳です。クラウス王子はまぁ、毎度の事で驚きませんが、マイヤー侯爵令嬢は随分とひらひらしたドレスですわね。彼女、確か私の一つ下の十九歳だった筈ですが、そのデザインはもっとお若い方向けのものでしょうに…そりゃあ、童顔で可愛らしいお顔でいらっしゃいますが、お背も高くて実年齢を思うと、さすがに若作り感が否めません。もう少しリボンやフリルを控えたらまだマシなのですが…どうやらこの方とは趣味が合いそうにありませんわ。
「これはクラウス王子とマイヤー侯爵令嬢、ご婚約おめでとうございます」
不良物件同士でくっついて下さったので、ここはお祝いしておきましょう。祝辞などいくら言ってもタダですし、こちらの懐も痛みませんからね。
「ああ、貴様との婚約を破棄して清々しているわ」
「左様でございますか」
「しかも貴様もその白豚と婚約したそうだな。今更お前のような可愛げもない年増など誰も相手にしないだろうからな!」
そう言って得意げに口元を歪めるクラウス王子ですが…我が家に来た釣書を是非お見せしたかったですわ。
「驕慢で行き遅れの年増に、愚鈍な白豚とはお似合いじゃないか」
「左様ですか」
「ああ。やはり私に相応しいのはリーゼのような可憐で健気な女性だ。決してお前ではない!」
「左様ですか」
確かにマイヤー侯爵令嬢は可憐ですが、さすがにそう言える年は過ぎていますし、健気な女性は自分の婚約者を裏切って他人の婚約者を略奪しませんわ。
その後も延々と罵詈雑言が続きましたが、私はそれを静かに聞き流しました。周りが呆れているのがわかっていますし、彼らの馬鹿さ加減を皆様に見せるのも大事なのです。それにしても、こんな時だけはボキャブラリーが増すのですね。弱い犬ほどよく吠えるとはこういうことなのでしょうね。
(でも、それを言っても理解出来ないでしょうね…)
そのうち言いたい事を言い切った彼らは、高笑いをしながら去っていきました。周りにいた皆様の冷たい視線にも気づかないなんて、随分おめでたいですわ。
「ふぅ…やっと静かになりましたわね」
「ええ。しかし…大丈夫ですか?」
解放されてやれやれと思っていると、ウィルバート様が心配そうな声で尋ねられました。表情はお肉でわかりませんが…ウィルバート様のお声はよく響いて、表情がわからなくても声で感情が伝わってきますわ。
「大丈夫ですわ。今までもああやって言いたい事だけ言っていましたし」
「ですが…」
「どこかの駄犬が吠えていると思えば気になりませんもの」
そう言って笑みを浮かべると、ウィルバート様のまとう空気が緩んだ気がしました。どうやら私の言っていることをわかって下さったみたいです。
「さて、挨拶も済ませましたし、そろそろ帰りましょうか?」
「そうですね」
顔は出しましたし、挨拶もして言いたい事も聞いたのですからこれで役目は終えたでしょう。私達は仲良く手を繋いでその場を後にしました。
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