【完結】王子に婚約破棄され、白豚令息との婚約を命じられました

灰銀猫

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婚約披露

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 ウィルバート様との婚約が成立してから一週間後、私達は共に王家主催の夜会に出席しました。あのクラウス王子とマイヤー侯爵令嬢の婚約発表の夜会です。

(全く、あの屑王子が…)

 クラウス王子、わざわざ私達にまで招待状を送ってきたのですよね。王家からの招待となれば、よほどの何かがない限りは欠席出来ません。お陰で両親が静かに怒りに燃えていましたわ。私はまぁ、こうなる可能性も予測はしていたので、両親ほど腹は立ちませんでしたが。

「…緊張しますね…」

 私をエスコートしながら会場に入ったウィルバート様は、煌びやかな雰囲気に小さくため息をつきました。華やかな場所は苦手なのでしょうか。でも、さりげなく私のペースに合わせてくれたりとエスコートがお上手ですわ。いつも自分のことばかりで私への気遣いが皆無だった誰かさんとは大違いです。

「ふふ、私もですわ」
「ゲル…アルーシャ様も、ですか?」
「ええ。だって婚約破棄されて初めての公式の場ですもの」

 そう、婚約破棄を突きつけられたあの日以来、私は公式の場には出ていませんでした。仲のいいご令嬢達のお茶会には出ていましたが、夜会などは久しぶりなのでちょっと気恥ずかしいですわね。
 今日は私の瞳の色でもある紫のドレスです。大人っぽい顔立ちの私には、フリルやレースの多いパステルカラーは似合わないので、今日もシンプルで大人っぽいデザインのものです。水色の髪はふんわりと結い上げて、うなじを出して女性らしさを前面に出しました。
 ウィルバート様も薄紫に青の差し色のある正装で、背が高いので中々立派に見えますわ。横に広いのがちょっと残念ですが、いずれは痩せるのがわかっているので問題なしです。

「それにしても…お美しいですね」
「え?」
「あ、いえ…その、アルーシャ様が、です」

 突然そう仰るウィルバート様を私はまじまじと見上げてしまいました。表情は変わりませんが、いつもよりも心なしかお肌の色がピンク色っぽいですわ。これって…照れていらっしゃる、のかしら?

「す、すみません。変なことを言って…」

 思いがけない誉め言葉に私が一瞬呆けていると、ウィルバート様が恐縮してしまいましたが…

(へ、変なことだなんて…そんなこと…)

 これまで元婚約者には嫌味しか言われなかった私は、ストレートな誉め言葉にこちらまで赤くなりそうです。

「い、いえ…う、嬉しいですわ。今まで、婚約者から褒められたことがなかったので…」
「そ、そうですか…」

 何でしょうか、この背中にじわじわくる甘酸っぱい何かは…!こんな感覚は生まれて初めてでどう反応していいのか困ってしまいますわ…婚約者からは一度もそんな風に言われたことはありませんでしたから。そのせいでしょうか、ウィルバート様のそれは素朴で偽りが感じられず、静かに心に染み入るようです。

「それならよかった…」

 ほっとしたような呟きが本当に心からのものに見えて、そんな姿に頬が熱くなるのを感じました。

「で、では…次は私にドレスを贈らせて下さいませんか?」
「え? ドレスを、ですか?」
「いえ、ご迷惑でなければ、ですが…」
「いいえ! ご迷惑だなんて、そんな事ありませんわ。是非お願いします」

 控えめに、遠慮がちに言われたそれに、思わず声が大きくなってしまいました。ドレスを贈って下さるだなんて…う、生まれて初めてです。そんなことは私には無縁だと思って諦めていただけに、思いがけず胸が弾んでしまいましたわ。

(案外、悪くないかもしれないわ…)

 他にいい条件の方がいらっしゃらないからと思って婚約しましたが…婚約してからは彼から時折贈り物が届くようになりました。それはリートミュラー領で採れる花や果物だったり、私の瞳の色の宝石が付いた髪飾りやブローチだったり、古代文字について彼がこれまで調べたものをまとめたものだったりですが…

(前の婚約者とは雲泥の差、いえ、比べるのが失礼なレベルよね。こんなに気の利く方だったなんて…)

 あのもふもふ獣毛ばかりに気が行っていましたが、彼自身の気遣いに惹かれつつあるのを自覚しました。



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