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呪いが解けて…
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ウィルバート様の呪いが解けてから一月が経ちました。あれからマイヤー侯爵と令嬢は陛下達から事情を聴かれて、呪いを知っておきながら放置した事は悪質だとして、侯爵から伯爵に降爵され、領地も四分の一を慰謝料としてリートミュラー辺境伯家に譲渡となりました。譲渡された土地は農地なので、山や森が半分を占めるマイヤー伯爵家としてはかなりの打撃でしょう。
お家断絶にならなかったのはクラウス様が婿入りしたためです。そんな彼らは今も領地で謹慎中なのですが…
「…また復縁を乞うお手紙ですか?」
「ええ…」
そうなのです。あの夜会が終わってからというもの、三日と日を置かずにクラウス様から復縁したいと手紙が届くのです。それも便せんにびっしりと言い訳と自己満足なポエムのような愛の告白付きで。私にとっては呪いか不幸の手紙にして思えないのですが、あちらの動向を探るために読まないわけにはいかないのですよね。こんな手紙を書く暇があるなら、さっさと妻となったリーゼロッテ様の呪いを解呪すればいいのに…
「どうして今更復縁出来ると思えるのかしら…」
今までのご自身の私への態度を思えば、そんな可能性など微塵もないことはわかるでしょうに。私の事を馬鹿にしていたくせに、困ると縋り付いてくるなんて男気の欠片もありませんのね。そんなところが大っ嫌いだったのですが。
「人は失ってからその価値に気が付くものですよ」
「それはそうですけど…」
「私もそうですからね」
「…え?」
思いがけない発言に、まじまじとウィルバート様の顔を見上げましたが…
(…ぅ!)
まだ見慣れない麗しいお顔に、また心臓を打ちぬかれてしまいましたわ。あれから何度もお会いして慣れてきたとは思っていますが…麗しい上に凛々しい男性的な美しさはまさに私の好みど真ん中。お陰で未だに慣れなくて顔が赤くなってしまいます。いえ、今はそうじゃなくて…
「ぃい、一体、何に気付かれたんですの?」
平常心と心で唱えながらそう問い返すと、ウィルバート様がスッと私の側までいらっしゃって、私の腰に手を回しました。ち、近いですわ…!
「それはですね」
「それ、は?」
低くて通りのいい声に、思わず背中がぞくぞくしますわ…
「あの獣毛、ですよ」
「…獣毛?」
あの呪いだった獣毛が?どうして?ウィルバート様にとっては忌まわしいものでしかなかったはずですが…
「あの獣毛のお陰で、アリーは私にたくさん触れて下さったのに…」
「…ぅ…」
ますます甘さを含ませて耳元で囁く彼に、私は反射的に距離を取ろうとしましたが…
「ほら。今はこうして直ぐに逃げてしまわれる」
「そ、それは…」
「いっそ獣毛を復活させたら…貴女は私にまた触れて下さるのでしょうか?」
(そ、そんなの無理ですぅ―――!!!)
あ、あれはウィルバート様のことを意識していなかったから出来たのであって、今は絶対に無理です。しかもそんな色気駄々洩れでなんて…きっと白い獣毛を鼻血で染め上げてしまう未来しか見えません…!
「アリー?」
「ウィルバート様…」
「アリー、私の事は、ウィルと呼んでくださいとお願いしたのに…」
今度は飼い主に縋る子犬のような表情ですが…そんなの反則ですわ。こんな方だったのでしょうか…もう私のキャパを超えてしまいそうですが…彼ってこんな時、譲ってくれないのです。
「…ゥ、ウィル…」
「はい、アリー?」
嬉しそうに、その秀麗なお顔に幸せそうな笑みを浮かべたウィルに、私はまたしても見とれてしまい、悔しい思いも霧散してしまいました。
「そんな手紙にはもう、目を通さないで下さい」
「でも…」
「どうしてもと仰るのでしたら、私にお任せください」
「ウィルに?」
「ええ。私が盾となって貴女を煩わすものからお守りしましょう。私は貴女の専属魔術師であり、貴女の婚約者です」
「でも、ウィル…」
「私はこの十年、呪いを解いてくれる方を待っていました。貴女は私を救ってくれた天使であり、女神なのです。そんな貴女を愛さずにはいられません」
「……」
見たこともない甘くて切ない表情に、私の心臓が今にも止まりそうです。
「愛していますよ、私のアリー」
「わ、私もですわ…私だけの、ウィル…」
近づいてきた彼の顔に、私はそっと目を閉じました。唇に感じた柔らかい感触を、きっと私は死ぬまで忘れないでしょう。
お家断絶にならなかったのはクラウス様が婿入りしたためです。そんな彼らは今も領地で謹慎中なのですが…
「…また復縁を乞うお手紙ですか?」
「ええ…」
そうなのです。あの夜会が終わってからというもの、三日と日を置かずにクラウス様から復縁したいと手紙が届くのです。それも便せんにびっしりと言い訳と自己満足なポエムのような愛の告白付きで。私にとっては呪いか不幸の手紙にして思えないのですが、あちらの動向を探るために読まないわけにはいかないのですよね。こんな手紙を書く暇があるなら、さっさと妻となったリーゼロッテ様の呪いを解呪すればいいのに…
「どうして今更復縁出来ると思えるのかしら…」
今までのご自身の私への態度を思えば、そんな可能性など微塵もないことはわかるでしょうに。私の事を馬鹿にしていたくせに、困ると縋り付いてくるなんて男気の欠片もありませんのね。そんなところが大っ嫌いだったのですが。
「人は失ってからその価値に気が付くものですよ」
「それはそうですけど…」
「私もそうですからね」
「…え?」
思いがけない発言に、まじまじとウィルバート様の顔を見上げましたが…
(…ぅ!)
まだ見慣れない麗しいお顔に、また心臓を打ちぬかれてしまいましたわ。あれから何度もお会いして慣れてきたとは思っていますが…麗しい上に凛々しい男性的な美しさはまさに私の好みど真ん中。お陰で未だに慣れなくて顔が赤くなってしまいます。いえ、今はそうじゃなくて…
「ぃい、一体、何に気付かれたんですの?」
平常心と心で唱えながらそう問い返すと、ウィルバート様がスッと私の側までいらっしゃって、私の腰に手を回しました。ち、近いですわ…!
「それはですね」
「それ、は?」
低くて通りのいい声に、思わず背中がぞくぞくしますわ…
「あの獣毛、ですよ」
「…獣毛?」
あの呪いだった獣毛が?どうして?ウィルバート様にとっては忌まわしいものでしかなかったはずですが…
「あの獣毛のお陰で、アリーは私にたくさん触れて下さったのに…」
「…ぅ…」
ますます甘さを含ませて耳元で囁く彼に、私は反射的に距離を取ろうとしましたが…
「ほら。今はこうして直ぐに逃げてしまわれる」
「そ、それは…」
「いっそ獣毛を復活させたら…貴女は私にまた触れて下さるのでしょうか?」
(そ、そんなの無理ですぅ―――!!!)
あ、あれはウィルバート様のことを意識していなかったから出来たのであって、今は絶対に無理です。しかもそんな色気駄々洩れでなんて…きっと白い獣毛を鼻血で染め上げてしまう未来しか見えません…!
「アリー?」
「ウィルバート様…」
「アリー、私の事は、ウィルと呼んでくださいとお願いしたのに…」
今度は飼い主に縋る子犬のような表情ですが…そんなの反則ですわ。こんな方だったのでしょうか…もう私のキャパを超えてしまいそうですが…彼ってこんな時、譲ってくれないのです。
「…ゥ、ウィル…」
「はい、アリー?」
嬉しそうに、その秀麗なお顔に幸せそうな笑みを浮かべたウィルに、私はまたしても見とれてしまい、悔しい思いも霧散してしまいました。
「そんな手紙にはもう、目を通さないで下さい」
「でも…」
「どうしてもと仰るのでしたら、私にお任せください」
「ウィルに?」
「ええ。私が盾となって貴女を煩わすものからお守りしましょう。私は貴女の専属魔術師であり、貴女の婚約者です」
「でも、ウィル…」
「私はこの十年、呪いを解いてくれる方を待っていました。貴女は私を救ってくれた天使であり、女神なのです。そんな貴女を愛さずにはいられません」
「……」
見たこともない甘くて切ない表情に、私の心臓が今にも止まりそうです。
「愛していますよ、私のアリー」
「わ、私もですわ…私だけの、ウィル…」
近づいてきた彼の顔に、私はそっと目を閉じました。唇に感じた柔らかい感触を、きっと私は死ぬまで忘れないでしょう。
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