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クラウスの後悔
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「クラウス様ぁ…信じて下さい。悪気があったわけじゃないんですぅ…」
あの夜会で俺の未来は暗転した。今まで散々馬鹿にしていたあのリートミュラーの次男の呪いが解けたせいだった。
リートミュラーの次男の事はリーゼからも聞いていた。子供の頃からずっと太っていたこと、痩せて欲しいと思っていたけれど、中々言い出せずに今まで来たこと。出来れば婚約を解消したいけれど家のためを思うと容易ではなく、また彼と同程度かそれ以上の魔術の腕がないと両親が認めてくれないこと―などだった。
痩せるなど容易いし、それをしないのは怠慢だからだ。リーゼの嘆きを知らずに平然としている奴にいら立ちが募り、散々白豚だと揶揄してやったが、奴はそんな俺の言葉など耳の入っていないかのように痩せようとはしなかった。
だが、あいつが痩せなかったのは魔女の呪いで、その呪いは本来ならリーゼが受けるものだったのだ。
(嘘だろう…リーゼが…)
愛らしく健気で、優しい心の持ち主だと信じ切っていた彼女が、実は呪いの原因を作った張本人で、しかも自分の身代わりになった婚約者を十年も放置していたとは…しかもその呪いは古代文字というだけで、その気になれば誰にでも解けるものだったのだ。
「クラウス様、信じて下さぃ…」
そう言って涙を流すリーゼだったが…少しも可愛いとは思えなかった。顔は縦よりも横の方が広く、可憐な瞳はすっかり肉に埋もれている。今までの三倍は横に広い身体はくびれも何もない。背が高いせいか俺よりも大きく見えるのは…気のせいではないだろう。その上でひらひらのフリルがたくさんついているドレスを着るのだ…そんな彼女を愛らしいとはとても思えなかった。
(こんなリーゼに比べたら…アルーシャの方がよっぽど…)
いつも俺に小言ばかり言ってくるアルーシャだったが、美人で優秀なのは疑いようもない。今のリーゼに比べたら百倍はマシだった。少なくともアルーシャなら俺が呪われても必死に解除しようとしただろう。そうだ、彼女は義理堅くて、俺が困っていると文句を言いながらも助けてくれたのだ。
(…だったら…アルーシャとヨリを戻せば…)
あっちはまだ婚約しただけで、婚姻は一年後だと聞いている。俺だってまだ式を挙げていないから、今なら何とか誤魔化せるだろう。そう思って父上に頼みに行ったのに…
「これ以上恥を晒すな、馬鹿者が!!!」
父上からは一喝されてそれ以上話を聞いて貰えなかった。既に婚姻は大々的に公表しているからもみ消せるレベルを過ぎていると言われたのだ。
「馬鹿な事を言っている暇があったら、あの娘の呪いをお前が解け」
「わ、私がですか?」
「そうだ。そうすれば少しは美談になってお前たちの評判も上がるだろう」
母上や兄上に相談しても、まるで虫けらを見る様な目で見られるだけだった。俺がやった婚約破棄は、貴族社会では許されないことで、俺のせいで王家の威光が穢されたのだとまで言われ、誰も助けてはくれなかった。
「これはクラウス様ではありませんか」
一人虚しく王宮の廊下を歩いていたところで声を掛けてくれたのは…ファーベルク先生だった。
「先生…!」
「どうされた、その様な暗いお顔で…」
心配して下さる先生に思わず涙が出そうになった。お茶でもいかがですかと誘われ、先生の執務室に案内されると、先生の机の上には古代文字の本が広げられていた。
「先生…これは…?」
「ああ、リートミュラー令息が掛けられていた術式を調べていたのですよ」
「術式を…」
「ええ、あれはわざと解けやすくしてあったのです。それが面白いので解析していたのですよ。上手くすれば生徒たちの課題に使えそうなのでね」
そう仰る先生に言い方の軽さに驚いた。そんなに簡単なのなら…俺にも解けるのだろうか…
「先生、リーゼの術式は…」
「そうですな。古代文字を学べばクラウス様でも可能ですよ」
先生にそう言われて、俺は解除してみたいという気になった。単純に魔術への興味もあるし、あんな姿のリーゼを視界にいれたくないというのもあった。俺は現実から逃げるように古代文字と解除にのめり込んだ。それが叶った時には、既に一年近くが経っていたが…その頃にはリーゼとの関係はすっかり冷え切り、マイヤー伯爵家は酷く居心地の悪い場所になっていた。
あの夜会で俺の未来は暗転した。今まで散々馬鹿にしていたあのリートミュラーの次男の呪いが解けたせいだった。
リートミュラーの次男の事はリーゼからも聞いていた。子供の頃からずっと太っていたこと、痩せて欲しいと思っていたけれど、中々言い出せずに今まで来たこと。出来れば婚約を解消したいけれど家のためを思うと容易ではなく、また彼と同程度かそれ以上の魔術の腕がないと両親が認めてくれないこと―などだった。
痩せるなど容易いし、それをしないのは怠慢だからだ。リーゼの嘆きを知らずに平然としている奴にいら立ちが募り、散々白豚だと揶揄してやったが、奴はそんな俺の言葉など耳の入っていないかのように痩せようとはしなかった。
だが、あいつが痩せなかったのは魔女の呪いで、その呪いは本来ならリーゼが受けるものだったのだ。
(嘘だろう…リーゼが…)
愛らしく健気で、優しい心の持ち主だと信じ切っていた彼女が、実は呪いの原因を作った張本人で、しかも自分の身代わりになった婚約者を十年も放置していたとは…しかもその呪いは古代文字というだけで、その気になれば誰にでも解けるものだったのだ。
「クラウス様、信じて下さぃ…」
そう言って涙を流すリーゼだったが…少しも可愛いとは思えなかった。顔は縦よりも横の方が広く、可憐な瞳はすっかり肉に埋もれている。今までの三倍は横に広い身体はくびれも何もない。背が高いせいか俺よりも大きく見えるのは…気のせいではないだろう。その上でひらひらのフリルがたくさんついているドレスを着るのだ…そんな彼女を愛らしいとはとても思えなかった。
(こんなリーゼに比べたら…アルーシャの方がよっぽど…)
いつも俺に小言ばかり言ってくるアルーシャだったが、美人で優秀なのは疑いようもない。今のリーゼに比べたら百倍はマシだった。少なくともアルーシャなら俺が呪われても必死に解除しようとしただろう。そうだ、彼女は義理堅くて、俺が困っていると文句を言いながらも助けてくれたのだ。
(…だったら…アルーシャとヨリを戻せば…)
あっちはまだ婚約しただけで、婚姻は一年後だと聞いている。俺だってまだ式を挙げていないから、今なら何とか誤魔化せるだろう。そう思って父上に頼みに行ったのに…
「これ以上恥を晒すな、馬鹿者が!!!」
父上からは一喝されてそれ以上話を聞いて貰えなかった。既に婚姻は大々的に公表しているからもみ消せるレベルを過ぎていると言われたのだ。
「馬鹿な事を言っている暇があったら、あの娘の呪いをお前が解け」
「わ、私がですか?」
「そうだ。そうすれば少しは美談になってお前たちの評判も上がるだろう」
母上や兄上に相談しても、まるで虫けらを見る様な目で見られるだけだった。俺がやった婚約破棄は、貴族社会では許されないことで、俺のせいで王家の威光が穢されたのだとまで言われ、誰も助けてはくれなかった。
「これはクラウス様ではありませんか」
一人虚しく王宮の廊下を歩いていたところで声を掛けてくれたのは…ファーベルク先生だった。
「先生…!」
「どうされた、その様な暗いお顔で…」
心配して下さる先生に思わず涙が出そうになった。お茶でもいかがですかと誘われ、先生の執務室に案内されると、先生の机の上には古代文字の本が広げられていた。
「先生…これは…?」
「ああ、リートミュラー令息が掛けられていた術式を調べていたのですよ」
「術式を…」
「ええ、あれはわざと解けやすくしてあったのです。それが面白いので解析していたのですよ。上手くすれば生徒たちの課題に使えそうなのでね」
そう仰る先生に言い方の軽さに驚いた。そんなに簡単なのなら…俺にも解けるのだろうか…
「先生、リーゼの術式は…」
「そうですな。古代文字を学べばクラウス様でも可能ですよ」
先生にそう言われて、俺は解除してみたいという気になった。単純に魔術への興味もあるし、あんな姿のリーゼを視界にいれたくないというのもあった。俺は現実から逃げるように古代文字と解除にのめり込んだ。それが叶った時には、既に一年近くが経っていたが…その頃にはリーゼとの関係はすっかり冷え切り、マイヤー伯爵家は酷く居心地の悪い場所になっていた。
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