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襲撃
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「……わかった。任せる」
相手が金眼ならもう何があっても驚かない。ルイが立ち上がって十も進むと、赤毛魔狼が唸り声と共に姿を現した。左手にいるのはこの群れのボスだろうか。一際身体が大きくて、その威圧感に身体が自ずと震えてくる。前世の私なら雑魚でしかなかった相手も、今は意識では平気だと思うのに本能が恐れている。
それは一瞬の出来事だった。ルイという獲物ににじり寄っていた赤毛魔狼は一瞬にして灰に化して骨すらも残らなかった。相当な火力の魔術を凝縮して、魔狼だけに絞り込んだ術を展開したのだ。その鮮やかで精度の高さに戦慄した。この魔術は……私が完成させたものだ。五十年かけて編み出した術をどうして……
「お前、その魔術……」
「ああ、あんたの家の地下室にあった魔術書を見て」
「見てって……それだけで?」
「ああ」
言葉が出なかった。確かにあの地下室には私が書いた魔術に関する記録が積み上がっていたけれど……それを読んだだけで理解して、しかもあれほどの精度に……これだけで彼が並みの術者ではないとわかった。私でもあれほどの精度は出せなかったから。
これが金眼の力、なのか……いや、金眼なのだ。赤毛魔狼が百頭いたって殲滅してしまうのだろう。いや、その気になれば、魔力量さえあれば山一つ吹っ飛ばすことも可能かもしれない。それくらい金眼は格が違うのだと誰かが言っていた。実際に出会ったのは初めてだけど。
その時だった。風切り音と共に何かの気配を感じたと思ったら、それは真っすぐにルイへと向かって行って……それは彼の心臓の辺りで透明な何かに刺さったかのように止まった。
「な……!!」
思わず腰が浮き、ルイが私を隠すように前に立った。そのせいで彼の向こう側にいる何かが見えない。
「さっすが金眼!」」
その場に響いた声は高く、若い女性のもののように聞こえた。はしゃぐような声はこの場の緊張感とは随分とかけ離れていた。
「さすがだわ。あれほどの数の狼を一瞬で消し去るなんて!」
面白がる声の中に感嘆とも恐怖ともとれる響きを感じた。ルイの凄さはもしかしたら上位の魔術師でないと正確にはわからないかもしれない。それに先ほどルイに向けて放った術はとても精度が高いように見えた。だとしたらそこにいる人物は……
「……何の用だ?」
ルイがこれまでに聞いたことがないほどに低くゾッとするような冷たい声を発した。騎士相手に陽気に話しかけていたルイとは別人のようだ。
「何って……決まっているじゃない。あなたを追いかけてきたのよ!」
「迷惑だ」
ルイは素っ気なく突き放した。知り合いのようだけど、朗らかに騎士たちに対していたのとは別人のように冷たかった。話がよくわからないけれど、女性はルイを追って来たらしい。それにしては挨拶が随分と過激だったけど。一歩間違えていたら死んでいただろうに。それとも……それだけルイの力量を正しく把握していて、あの程度では傷一つ付けられないとわかっていたのか。
「もう! 素っ気ないんだから! でも、そんなところも素敵なのだけど」
急に声が高くなって思わぬ方向に向かった気がする。素敵って、ルイが? 確かに下男としてのルイは朗らかで人懐っこい笑顔は女性受けするとは思うけれど。
「お前の相手をする気はない」
「そんな冷たいところも好きよ」
「俺はお前に興味はない」
何を聞かされているのだろう……好きって……そんなに軽く言えるものなのか? それとも友情って意味の好きとか?
「ルイは私の魂の伴侶なのよ! だから諦めないわ! あなたを理解出来るのも私だけだもの!」
随分と自信に満ちた熱烈な言葉だった。聞いている私の方が赤面しそう……世の女性たちはみんなこんな風に愛を語るものなのか? 前世も今生もそういうこととは一切縁がなかったからよくわからないけれど……
「俺の相手はもう決まっている。お前じゃない」
「もう! でもその人はもう死んでいるし、いつ生まれ変わるかもわからないんでしょ? それに見つけるなんて簡単に言うけど、実際は途方もないことだわ。生まれる場所も名前も顔もわからないのよ。それにルイのことだって覚えていない。そんな相手をどうやって見つけるのよ!?」
彼女の言う通りだ。現実には不可能だと言えるけど……その相手って私のことか? そうだよな。ルイがそう言っていたんだから……そう思ったら何だか面映ゆい気がして変な緊張感に包まれた。だって……ルイが言ったことが本当なら、その相手は私で、この女性にとって私は恋敵になるわけで……待て待て待て! 突然魔術を放ってくるような娘が恋敵? それって……とんでもなく危険なんじゃないのか? 前世の私ならまだしも、今の私ではあんな攻撃魔術を避けるなんて出来ないんだけど……
「余計なお世話だ。さっさと消えろ」
「酷いわ! こんなに心配しているのに!」
「俺が頼んだわけじゃない」
ルイよ、その言い方はちょっと酷くないか? それじゃかえって恨みを買うような……
「ふ~ん、それって……まさかとは思うけど、その相手ってそこに隠れている女のことじゃないわよね?」
低く唸るような問いかけに周囲の温度が二、三度低くなったような気がした。
- - - - -
今年一年ありがとうございました。
お正月三ヶ日はお休みします。
四日から再開しますので、来年もよろしくお願いします。
皆様もよいお年をお迎えください。
相手が金眼ならもう何があっても驚かない。ルイが立ち上がって十も進むと、赤毛魔狼が唸り声と共に姿を現した。左手にいるのはこの群れのボスだろうか。一際身体が大きくて、その威圧感に身体が自ずと震えてくる。前世の私なら雑魚でしかなかった相手も、今は意識では平気だと思うのに本能が恐れている。
それは一瞬の出来事だった。ルイという獲物ににじり寄っていた赤毛魔狼は一瞬にして灰に化して骨すらも残らなかった。相当な火力の魔術を凝縮して、魔狼だけに絞り込んだ術を展開したのだ。その鮮やかで精度の高さに戦慄した。この魔術は……私が完成させたものだ。五十年かけて編み出した術をどうして……
「お前、その魔術……」
「ああ、あんたの家の地下室にあった魔術書を見て」
「見てって……それだけで?」
「ああ」
言葉が出なかった。確かにあの地下室には私が書いた魔術に関する記録が積み上がっていたけれど……それを読んだだけで理解して、しかもあれほどの精度に……これだけで彼が並みの術者ではないとわかった。私でもあれほどの精度は出せなかったから。
これが金眼の力、なのか……いや、金眼なのだ。赤毛魔狼が百頭いたって殲滅してしまうのだろう。いや、その気になれば、魔力量さえあれば山一つ吹っ飛ばすことも可能かもしれない。それくらい金眼は格が違うのだと誰かが言っていた。実際に出会ったのは初めてだけど。
その時だった。風切り音と共に何かの気配を感じたと思ったら、それは真っすぐにルイへと向かって行って……それは彼の心臓の辺りで透明な何かに刺さったかのように止まった。
「な……!!」
思わず腰が浮き、ルイが私を隠すように前に立った。そのせいで彼の向こう側にいる何かが見えない。
「さっすが金眼!」」
その場に響いた声は高く、若い女性のもののように聞こえた。はしゃぐような声はこの場の緊張感とは随分とかけ離れていた。
「さすがだわ。あれほどの数の狼を一瞬で消し去るなんて!」
面白がる声の中に感嘆とも恐怖ともとれる響きを感じた。ルイの凄さはもしかしたら上位の魔術師でないと正確にはわからないかもしれない。それに先ほどルイに向けて放った術はとても精度が高いように見えた。だとしたらそこにいる人物は……
「……何の用だ?」
ルイがこれまでに聞いたことがないほどに低くゾッとするような冷たい声を発した。騎士相手に陽気に話しかけていたルイとは別人のようだ。
「何って……決まっているじゃない。あなたを追いかけてきたのよ!」
「迷惑だ」
ルイは素っ気なく突き放した。知り合いのようだけど、朗らかに騎士たちに対していたのとは別人のように冷たかった。話がよくわからないけれど、女性はルイを追って来たらしい。それにしては挨拶が随分と過激だったけど。一歩間違えていたら死んでいただろうに。それとも……それだけルイの力量を正しく把握していて、あの程度では傷一つ付けられないとわかっていたのか。
「もう! 素っ気ないんだから! でも、そんなところも素敵なのだけど」
急に声が高くなって思わぬ方向に向かった気がする。素敵って、ルイが? 確かに下男としてのルイは朗らかで人懐っこい笑顔は女性受けするとは思うけれど。
「お前の相手をする気はない」
「そんな冷たいところも好きよ」
「俺はお前に興味はない」
何を聞かされているのだろう……好きって……そんなに軽く言えるものなのか? それとも友情って意味の好きとか?
「ルイは私の魂の伴侶なのよ! だから諦めないわ! あなたを理解出来るのも私だけだもの!」
随分と自信に満ちた熱烈な言葉だった。聞いている私の方が赤面しそう……世の女性たちはみんなこんな風に愛を語るものなのか? 前世も今生もそういうこととは一切縁がなかったからよくわからないけれど……
「俺の相手はもう決まっている。お前じゃない」
「もう! でもその人はもう死んでいるし、いつ生まれ変わるかもわからないんでしょ? それに見つけるなんて簡単に言うけど、実際は途方もないことだわ。生まれる場所も名前も顔もわからないのよ。それにルイのことだって覚えていない。そんな相手をどうやって見つけるのよ!?」
彼女の言う通りだ。現実には不可能だと言えるけど……その相手って私のことか? そうだよな。ルイがそう言っていたんだから……そう思ったら何だか面映ゆい気がして変な緊張感に包まれた。だって……ルイが言ったことが本当なら、その相手は私で、この女性にとって私は恋敵になるわけで……待て待て待て! 突然魔術を放ってくるような娘が恋敵? それって……とんでもなく危険なんじゃないのか? 前世の私ならまだしも、今の私ではあんな攻撃魔術を避けるなんて出来ないんだけど……
「余計なお世話だ。さっさと消えろ」
「酷いわ! こんなに心配しているのに!」
「俺が頼んだわけじゃない」
ルイよ、その言い方はちょっと酷くないか? それじゃかえって恨みを買うような……
「ふ~ん、それって……まさかとは思うけど、その相手ってそこに隠れている女のことじゃないわよね?」
低く唸るような問いかけに周囲の温度が二、三度低くなったような気がした。
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今年一年ありがとうございました。
お正月三ヶ日はお休みします。
四日から再開しますので、来年もよろしくお願いします。
皆様もよいお年をお迎えください。
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