【完結】黒茨の魔女と金眼の下僕

灰銀猫

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これからのこと

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「ランメルト?」

 さすがに驚かずにはいられなかった。だけどランメルトに向かわせればあちらの住人が犠牲になるだろうに。いや、でも……

「魔の森へ?」
「ああ。そこなら人もいない。被害はここよりは少ないだろう?」

 そりゃあ、そうかもしれないけれど、本当に大丈夫なのだろうか。いや、魔の森は魔獣の巣で私がいた頃人は住んでいなかった。稀に冒険者が素材欲しさに訪れるくらいで。でも……

「このままこちらに向かってこれば、この町の先にある村も幾つかは巻き込まれる可能性がある。それくらいならランメルトに向かってくれた方が被害は少ない。それに……」

 そこでルイは一旦言葉を区切った。それって……

「まさか、仕返し?」
「ま、そんなところ」

 事も無げにルイはそう言った。仕返しって……いや、まぁ、気持ちはわからなくもないけれど。

「あんただってランメルトへの恨みはあるだろう?」

 恨みと言われたけれど、意外にも自分の中に以前はあったはずの怒りは薄れていた。何故だろう……あんなにも神殿に対して許せないと思っていたのに。

「いや、恨みというほどでは……」

 そこまでの思いは……なかった。どちらかと言うと今は怒りよりも悲しみや虚しさが勝る気がする。私なりに国のために尽力したのに、と。

「はぁ、あんたって本当に……」

 ため息をついた後、呆れたようにルイが呟いた。

「すまない」
「何に対して謝ってるの?」
「それは……お前の好意を、無にしたから……」

 ルイは私のことを大切にしてくれている。多分、ランメルトに対しても私以上に憤っていたのだろう。だけど、あの国を憎みきれない自分がいる。あの国は……私にとって守るべきもので、我が子のような、そんな感じだったから。

「……いいよ、もう。で、どうするんだ? やるのか、やらないのか」
「やった方が被害は少ないのだろう? 時間もないし冒険者の力も借りないといけないから……」
「ああ、人の力は借りない。俺たちだけでやる」
「はぁあ!? 私たちだけって……」

 ちょっと待て、雷角牛のスタンビートだぞ? 結界を張る場所に行くまでだって安全だとは言い難い誰から護衛をお願いするとか、頼むことはいくらでもあるはず。なのに誰の手も借りずにだなんて……

「今は出来る限り目立ちたくない。俺もあんたもランメルトのお尋ね者だ。それに……結界が維持できずに困った国があんたを探すかもしれない」
「まさか……」
「あの結界は他国の侵入も防いでいたんだ。神殿は魔獣しか見ていなかったけど国が見ていたのはもっと大きなものだ」

 そうなのか。いや、確かにルイの言う通りだ。あの結界は初代国王が他国や魔獣の侵入から民を守るためにと考え出したものだ。本来なら神官一人に押し付けていい代物ではない。神殿が総力を挙げて維持しなきゃいけないものだから。

「これを機にこの町を出ようと思う」
「町を? どうして?」
「あの女のせいで居心地が悪いだろう? それを許しておけるほど俺は心が広くない」

 ルイの心が意外と狭いのは知っているけれど、この町を気に入っていると思っていたから意外だった。そりゃあ、あの町の住民の私を見る目は段々刺々しくなっていた。同情でルイを縛り付けているとか、弱みを握っていて逆らえないようにしているとか……ルイが否定すると、それはそれでそう言わざるを得ないような裏があるんだろうと言われている。とにかく私がルイを利用していて、優しいルイは私を切り捨てられないのだろうと。噂の出所はあのマノンらしいけれど、町で人気者のマノンを疑う者はいない。それがルイを苛立たせているのだけど、周りはそれも私のせいだと言っている。ルイは私の耳に入らないように気を配っているけれど、食堂で食事をしているとわざとそういうことを言う者がいる。女将さんやマスターは注意してくれるけれど、効果がないのが現状だ。

「避難すると言って町を出てスタンビートを逸らす。そのまま他所に行ってしまえばいい。本音を言えばあんたを悪く言う奴がのさばってる町なんかどうでもいいけど……あんたは気にするだろう?」
「それは、まぁ……」

 別に殴られたとか、そういう実害はない。だから何もせずに町を離れるのはちょっと……ずっと後悔しそうだからそれはしたくない。

「どうせこの町にずっと居続ける気はなかったんだ。あんたの体調が戻るまでの予定だったからな。そろそろ移動しようかと思っていたんだ」
「そうなのか?」
「ここは寒いし世間が狭い。詮索しないとはいっても付き合いが密だろ」
「確かに」

 過去は問わないと言うけれど、私やルイの場合はランメルトのお尋ね者だから手配書が回ってきたら引き渡される可能性が高そうだ。親切だけど厄介事はお断り、そんな空気が流れているのを感じるほどにはこの町に馴染んでいた。

「時間がないから荷づくりが終わったらすぐに出る。あ、その前に腹ごしらえはしていくか。暫くはまともな食事は出来ないだろうからな」

 女将さんやマスターの温かくて美味しいご飯が食べられなくなると思うと離れ難い。でも、ここでは自由に街を歩き回るのもままならなくなっている。下手に目立って正体がばれるのも避けたい。となるとルイの言う通りにするのが一番なのだろう。



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