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王配候補と後継者問題
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「アリーセよ、中々によい話ではないか」
私が返事をしないことに焦れたのか、父が先に是の意を示した。ハンクの視線を受けて動けなかった私は、声をかけられてようやく父の方に振り向いた。彼の視線から逃れたことにホッとしている自分がいた。
「父上……」
父の表情に声のトーンが低くなってしまった。これは絶対に私の反応を面白がっている。
「既に三大公爵家の支持を取り付け、その上もう一家から王配を迎える。中々出来ることではないな」
確かに四家から支持を得た王は少ないだろう。三家から支持が得られれば御の字と言われているのだ。
だが、この話を受ければ残りの一家からは恨まれる可能性がある。ブランゲはハンクがダールマイヤー公爵家の後継になることを望んでいるからだ。それを王家が王配としてとは言え迎えたとなれば、反発は必至だろう。
「しかし、父上……」
「何も今この場で決めろというのではない。婚約者候補の一人として考えればよかろう」
「陛下のご厚情に感謝いたします」
私が返事をする前に、父とハンクの間で話が着いてしまった。いや、私の意志は……?
「我がエーデルマンはアリーセ様の王配にハンク卿を押そう」
「リーベルトもだ」
「ザックス公爵家も支持しよう」
私の戸惑いを知らずか、三家の当主が声を上げて話が勝手に進み、気が付けば会場が再び拍手で湧いた。これはハンクを王配に認めるという貴族たちの意思表示なのだろう。
「お待ちください!」
拍手が湧く中、御前に進み出てきた者たちがいた。ダールマイヤー公爵夫人とブランゲ公爵夫妻、そしてブランゲの次男のカール卿だった。その後にはダールマイヤー公爵と長男夫婦が見えた。
「ハンク! どういうことなの? あなたはダールマイヤー公爵家の後継者でしょう?!」
金切り声とはこういう声を指すのかと思うほど耳に痛い声を上げたのは、ダールマイヤー公爵夫人のイルゼだった。赤紫の瞳はつり上がり、怒りをあらわにしていた。支配的で怒りっぽい性格なのは社交界では有名だった。イルゼ夫人の母親は先王陛下の姉の子で血筋は王家に近いが、今は一臣下に過ぎず、王の御前で声を荒げていい立場ではないだろう。
「母上、何度も申し上げていますが、私はダールマイヤー公爵家を継ぐつもりはありません」
「何ですって?! あなた、まだそんなことを!」
「ハンクよ、そなたはダールマイヤー公爵家と我がブランゲ公爵家の間に生まれた嫡男。正統なダールマイヤー侯爵家の跡取りなのだぞ! その様な我儘は許さぬ!」
母親に賛同したのはブランゲ公爵だった。白いものが混じるが栗毛と赤紫の瞳は妹そっくりで、妹同様に王の御前だということが頭から抜け落ちているらしい。
「ブランゲ公爵、我が家のことに口を出すのは控えて貰おう」
激高する二人を押さえつけるような低い声を出したのは、ハンクの父のダールマイヤー公爵だった。ハンクよりも薄い金の髪と、彼と同じ青碧の瞳を持つ彼は、息子とは違い険しく迫力のある容貌をしていた。確かにこれはダールマイヤー公爵家の問題で、王家ですら口を出す権限はない。
「し、しかしダールマイヤー公爵……!」
騎士団で副団長を務めたこともあるダールマイヤー公爵に睨まれて、ブランゲ公爵が声を詰まらせた。昔、宰相府の文官を数年務めただけのブランゲ公爵では、とても太刀打ち出来ないだろう。
「ハンク自らが後継者から除外するようにと何度も言っているのをご存じであろう? 私は息子の意思を尊重するつもりだ」
「あなた!」
ダールマイヤー公爵ははっきりと拒絶の意志を表し、イルゼ夫人が再び声を荒げた。後継者は長子のレナートだとダールマイヤー公爵は公言しているが、それに対してイルゼ夫人とブランゲ公爵が強硬に反対しているのだ。王家としては口出しすると状況が悪化しかねないと静観しているところだ。だが、ハンクが王配にと名乗りを上げた以上、このままという訳にもいかないだろう。
(ひょっとして、ハンクはその為に王配に名乗り出たのだろうか……)
彼自身は兄との関係は良好で、彼が公爵家の後継は兄にと言っているのは知っていた。
「陛下、ダールマイヤー公爵家は、我が息子ハンクの意志を尊重します。同時にハンクが王配に選ばれなくても、我が公爵家はアリーセ様の即位を支持致します」
「あなた!」
「陛下の御前だぞ! 控えろ!」
「っ!」
さすがに王の御前と言われれば、ブランゲ公爵もイルゼ夫人はそれ以上何も言えなかったらしい。衆目が注がれていることに今更気付いたのか慌てて居住まいを正したが、周囲からの冷たい視線は免れなかった。
私が返事をしないことに焦れたのか、父が先に是の意を示した。ハンクの視線を受けて動けなかった私は、声をかけられてようやく父の方に振り向いた。彼の視線から逃れたことにホッとしている自分がいた。
「父上……」
父の表情に声のトーンが低くなってしまった。これは絶対に私の反応を面白がっている。
「既に三大公爵家の支持を取り付け、その上もう一家から王配を迎える。中々出来ることではないな」
確かに四家から支持を得た王は少ないだろう。三家から支持が得られれば御の字と言われているのだ。
だが、この話を受ければ残りの一家からは恨まれる可能性がある。ブランゲはハンクがダールマイヤー公爵家の後継になることを望んでいるからだ。それを王家が王配としてとは言え迎えたとなれば、反発は必至だろう。
「しかし、父上……」
「何も今この場で決めろというのではない。婚約者候補の一人として考えればよかろう」
「陛下のご厚情に感謝いたします」
私が返事をする前に、父とハンクの間で話が着いてしまった。いや、私の意志は……?
「我がエーデルマンはアリーセ様の王配にハンク卿を押そう」
「リーベルトもだ」
「ザックス公爵家も支持しよう」
私の戸惑いを知らずか、三家の当主が声を上げて話が勝手に進み、気が付けば会場が再び拍手で湧いた。これはハンクを王配に認めるという貴族たちの意思表示なのだろう。
「お待ちください!」
拍手が湧く中、御前に進み出てきた者たちがいた。ダールマイヤー公爵夫人とブランゲ公爵夫妻、そしてブランゲの次男のカール卿だった。その後にはダールマイヤー公爵と長男夫婦が見えた。
「ハンク! どういうことなの? あなたはダールマイヤー公爵家の後継者でしょう?!」
金切り声とはこういう声を指すのかと思うほど耳に痛い声を上げたのは、ダールマイヤー公爵夫人のイルゼだった。赤紫の瞳はつり上がり、怒りをあらわにしていた。支配的で怒りっぽい性格なのは社交界では有名だった。イルゼ夫人の母親は先王陛下の姉の子で血筋は王家に近いが、今は一臣下に過ぎず、王の御前で声を荒げていい立場ではないだろう。
「母上、何度も申し上げていますが、私はダールマイヤー公爵家を継ぐつもりはありません」
「何ですって?! あなた、まだそんなことを!」
「ハンクよ、そなたはダールマイヤー公爵家と我がブランゲ公爵家の間に生まれた嫡男。正統なダールマイヤー侯爵家の跡取りなのだぞ! その様な我儘は許さぬ!」
母親に賛同したのはブランゲ公爵だった。白いものが混じるが栗毛と赤紫の瞳は妹そっくりで、妹同様に王の御前だということが頭から抜け落ちているらしい。
「ブランゲ公爵、我が家のことに口を出すのは控えて貰おう」
激高する二人を押さえつけるような低い声を出したのは、ハンクの父のダールマイヤー公爵だった。ハンクよりも薄い金の髪と、彼と同じ青碧の瞳を持つ彼は、息子とは違い険しく迫力のある容貌をしていた。確かにこれはダールマイヤー公爵家の問題で、王家ですら口を出す権限はない。
「し、しかしダールマイヤー公爵……!」
騎士団で副団長を務めたこともあるダールマイヤー公爵に睨まれて、ブランゲ公爵が声を詰まらせた。昔、宰相府の文官を数年務めただけのブランゲ公爵では、とても太刀打ち出来ないだろう。
「ハンク自らが後継者から除外するようにと何度も言っているのをご存じであろう? 私は息子の意思を尊重するつもりだ」
「あなた!」
ダールマイヤー公爵ははっきりと拒絶の意志を表し、イルゼ夫人が再び声を荒げた。後継者は長子のレナートだとダールマイヤー公爵は公言しているが、それに対してイルゼ夫人とブランゲ公爵が強硬に反対しているのだ。王家としては口出しすると状況が悪化しかねないと静観しているところだ。だが、ハンクが王配にと名乗りを上げた以上、このままという訳にもいかないだろう。
(ひょっとして、ハンクはその為に王配に名乗り出たのだろうか……)
彼自身は兄との関係は良好で、彼が公爵家の後継は兄にと言っているのは知っていた。
「陛下、ダールマイヤー公爵家は、我が息子ハンクの意志を尊重します。同時にハンクが王配に選ばれなくても、我が公爵家はアリーセ様の即位を支持致します」
「あなた!」
「陛下の御前だぞ! 控えろ!」
「っ!」
さすがに王の御前と言われれば、ブランゲ公爵もイルゼ夫人はそれ以上何も言えなかったらしい。衆目が注がれていることに今更気付いたのか慌てて居住まいを正したが、周囲からの冷たい視線は免れなかった。
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