【完結】廃嫡された元王太子との婚姻を命じられました

灰銀猫

文字の大きさ
17 / 107

後妻と連れ子からの接触

しおりを挟む
 結局父はまともな返事も出来ないまま、逃げるように去っていった。名前呼びのことも、再婚のことも、オーリー様や王家に認められていないと気付いたからだろう。そもそも王家の意向を無視し、既成事実を盾にごり押しで結婚したのは父なのだ。あれでよく王族の前に顔を出せたな、とその厚顔さに呆れてしまった。
 連れ子も旗色が悪いと感じとったのか、名残惜し気にオーリー様に視線を向けながら父に従った。自分の母親との結婚が正式なものでないと気が付いたのだろうか。最後に私を憎々し気に見ていたけれど、多分その表情はばっちりオーリー様に見られていただろう。

「申し訳ありませんでした」

 部屋に戻ると、私はオーリー様に父の非礼を詫びた。あんなのでも一応父親だから謝らない選択肢はない。不本意ではあるけれど。

「前にも言いましたが、彼のことでアンジェが謝る必要はないですよ。あなたこそ被害者なのですから」
「そう言って頂けると助かるのですが……」
「ふふっ、あの場で笑いをこらえるのは大変だったでしょう?」
「……やっぱり、わかってあんな風に仰っていたのですね」

 悪戯っぽい笑みを浮かべたオーリー様に、思わず吹き出しそうになった。不敬かもしれないけど爽やかそうに見える笑顔が黒い。多分、これがこの人の本質なのだろう。こんな人がどうして魅了にかかってしまったのか不思議だ。

「彼がここの後継者になることはありませんから、心配は無用ですよ」
「やはり、そうですか……」
「はい。父は、陛下は、王家の意向を無視した彼を許すことはありません。それを許せば王家の威信に傷がつきますからね」
「ええ」
「まぁ、盛大に傷をつけた私が言うのもなんだけどね」

 そう言ってオーリー様が寂しそうに笑った。確かにオーリー様がしたことで王家は大きな傷を負った。その後陛下やルシアン様たちの必死の努力で、ようやく過去のこととして人の口に登ることも減ったけれど、オーリー様がやった事実は変わらないのだ。

(それなのにオーリー様を担ぎ出そうなんて……何を考えているのかしら?)

 ベルクール公爵たちの目的がわからない。確かにルシアン様よりもオーリー様の方が能力はあるかもしれないけれど、廃嫡された事実に変わりはないし、魅了にかかってしまったことが問題なのだ。

「さ、これで彼が私に接触してくることはないでしょう」
「そ、そうですね。ありがとうございます」

 ベルクール公爵たちのことを考えていたところに話しかけられて、違和感を追いかけていた思考が途切れた。それに父が後継者にならないことの方が今の私にはずっと重要だった。ここを追い出されることはないという安堵感が違和感に勝り、私はその事をそれ以上考えることはなかった。



 それから三日後、ようやく雨が上がった。これで二日ほど雨が降らなければ、鬼の峠の泥も乾いて通れるようになるだろう。お祖父様は三日後の朝には父たちを王都に向かわせるといった。これでようやくあの人達から解放されるかと思うと安堵感が広がった。そこに寂しさが欠片も生まれなかったのは……残念としか言いようがない。

「晩餐を?」

 父たちが王都に発つ前日、オーリー様と朝のお茶をしているとエリーが憤りながらやって来た。聞けば最後に晩餐だけでも共に出来ないかと招かれざる客が言い出したらしい。

「晩餐って……準備は誰が? まさかこちら側が?」
「そうなりますよね」
「はぁ……よくそんなことを言い出せたわね……」
「言い出したのは夫人だそうです」
「夫人が?」

 父ならまだわかるが、言い出したのが後妻だったとは意外だった。お祖父様たちに認められていないのによくそんなことが言い出せるな、とその厚顔さに呆れるしかない。しかも晩餐を準備するのはこちら側だ。詫びとして晩餐に招くなら理解出来なくもないけれど、こっちに準備をさせようなんて馬鹿にしているとしか思えなかった。

「それで、お祖母様は?」
「話にならないと却下なさいました」
「当然だわ。押しかけて来たくせに晩餐まで強請るなんて、厚かましいにもほどがあるわ」

 しかもその晩餐にはオーリー様も是非、と言っているらしい。そんな風に言われたら警戒心が湧くだけで、益々遠慮したい。当然お断り一択だったのだけど……

「はぁ? 後妻と連れ子が一緒にお茶したい?」

 晩餐を却下されて懲りたかと思ったら、全く懲りていなかった。

しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...