【完結】廃嫡された元王太子との婚姻を命じられました

灰銀猫

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急な変調

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「話にならないわね。お断りして」

 後妻からのお茶の誘いは断る以外に選択肢など考えられなかった。彼女らのお目当てはオーリー様だとわかっているだけに、期待に応えてやる必要もない。婿入り前のオーリー様は第一王子殿下の称号は保ったままで、彼女たちが気安くお茶に誘える立場ではないのだ。なのに……

「それが……」

 エリーが言葉の先を濁した瞬間、ドアが勢いよく開いた。何事かと視線を向けると、その先にいたのは後妻と連れ子だった。

「急に押しかけて申し訳ございません。恐れながら第一王子殿下とリファール辺境伯令嬢様にご挨拶申し上げます。ベナール子爵家のソレンヌと申します。こちらは娘のミレイユです」
「……」
「本日はご挨拶に伺いました。こちらは私の実家で摂れる香油でございます。どうかお納めくださいますよう」

 一応最低限の礼儀は保っているつもりなのだろうけど、押しかけてきた時点でマイナスだ。

「ソレンヌ様、無礼ではありませんか? 第一王子殿下の元に何の前触れもなく押しかけるなど……」
「も、申し訳ございません。ですが、同じ屋根の下にいながらご挨拶に参じないのもまたご無礼に思われるかと思ってのことです。ご気分を害されましたらご容赦くださいませ」

 一応言っていることは筋が通らなくもないだけに厄介だった。これがお茶をしましょう!と部屋に入り込んでくるなら追い出すのだけど、確かに同じ屋敷にいながら挨拶に来ないのも問題なのだ。

「わかりました、挨拶は受けましょう」
「オーリー様?」
「ですが、陛下が認めていないあなた方を私が認めるわけにはいきません。そこはご理解いただきたい。そしてこのまま戻るなら不敬は問いません」
「……っ!」
「そ、そんな……」

 断りを入れたのがオーリー様だっただけに、二人は何も言い返せなかった。不敬を見逃してくれるというだけでもかなりの温情なのだ。

「も、申し訳ございませんでした。殿下のご厚情に感謝いたします」
「お、お母様……!」
「戻りますよ、ミレイユ」
「で、でも……」

 まだ未練たっぷりのミレイユに対し、ソレンヌ様は深々と頭を下げるとミレイユの手を取ってそのまま去っていった。諦めがよかったことに違和感が残るけれど、早々に引いてくれた事にはホッとした。

「オーリー様、申し訳ございませんでした。護衛が侵入を許すなんて……」

 あの二人のこの階への侵入を許してしまうなんて、護衛の怠慢だろう。

「アンジェが謝ることではありませんよ」
「いいえ、不審者の侵入を許すなんて大問題ですわ」

 これはお祖父様にしっかり釘を刺して頂かないと。父ならともかくあの二人は赤の他人。そんな二人がこの屋敷内をうろつくのは問題でしかない。

「アン様、これ、どうしましょうか……」

 私が警護の見直しを考えていると、エリーが恐る恐るそう尋ねてきた。その手にはトレイに乗った贈り物らしい箱が乗っていた。しまった、受け取るつもりはなかったのに……非常識さとその後の想定外の態度に、すっかり見落としていた。さすがに今更突き返すことも出来ない。エリーに中身を確認してもらうと、出てきたのは瓶に入った

「香油と言っていましたわ」
「そう言えば……ベルーナ子爵領は香油が有名だったわね」
「そうですよ、アン様。特に女性には肌の艶がよくなるって人気でした」

 私は使ったことがないけれど、エリーは王都にいる時には色んな美容にいい品を集めていたっけ。

「わぁ、すっごくいい香り!」
「随分甘いのね」

 エリーが試供品と思われる小さい瓶を開けると、ふわりと甘い香りが広がった。上品でありながら甘くて記憶に残る香りだろう。

「……っ!」
「殿下?」

 香油に気を取られていた私の耳に、誰かが息を詰める音とエドガール様の声が聞こえた。振り返るとオーリー様が苦しそうに顔を歪め、エドガール様オーリー様の急な変化に戸惑っていた。

「オーリー様?」

 苦しそうに胸元を抑えているオーリー様に、只ならぬものを感じて駆けつけた。顔を覗き込むと、酷く顔色が悪かった。表情も何かを耐えるようなそんな感じで、息も浅くて苦しそうだ。

「エリー! その香油を遠ざけて!」

 急な変化の理由はわからなかったけれど、変わったことと言えばあの香油くらいしか思いつかない。香油の匂いが害をなすとは思わなかったけれど、私はエリーに香油を部屋の外に出すように頼み、残っている侍女に窓を開けるように頼んだ。




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