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王妃様の命令
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あれからも長々と王妃様からのお説教と叱咤が続いた。オーリー様は反論の余地もなく、ひたすら頭を下げて聞いていた。あれから国王ご夫妻だけでなく王太子ご夫妻、王太子妃でもあるグレース様の実家のアーリンゲ侯爵家や宰相たち重鎮は、かなり苦労なさったらしい。特にベルクール公爵を宥めるのは簡単ではなく、多額の賠償金を払い、政治的にも頭が上がらない状態だという。
「申し訳、ございませんでした……」
オーリー様は王妃様からの言葉に瀕死の状態だった。主にメンタルが。儚げに見えて中身はお祖母様並みにお強いらしい。いや、ギャップの分だけ破壊力が増しているかもしれない。
「それで? わざわざこの母を呼び付けた理由は何かしら?」
「そ、それは……」
にっこりと笑顔を浮かべた王妃様に、オーリー様が僅かに怯えを見せた。笑顔だけど目は笑っていないようにも見える。王族怖い……
「わ、私が飲まされた、ど、毒のことを……」
「ああ、知らないわ」
「え?」
「知らないのよ。私も陛下に尋ねたけれど、教えて下さらなくって」
「そう、ですか……」
不満そうにそう答えた王妃様に、オーリー様ががっくりと項垂れた、期待していた分だけ落胆も大きい、そんな感じだった。でも、私も同感だ。これでオーリー様の懸念の一つがなくなると思ったから。
「それは直接陛下に聞いてちょうだい。まぁ、答えてくれるかはわからないけれど」
「そうですか。それで、父上はいつごろお戻りに?}
「確か、半月後だった筈よ。詳しい日程は極秘だからさすがに言えないわ」
「そうでしたね」
王族の動向は暗殺防止の観点からも公にされないことが多い。今回も王都への旅程は非公開で、影武者を立てる場合もあるという。
「ちょうどいいわ、オードリック。あなた、陛下を迎えに行きなさい」
「はぁっ? は、母上?」」
「襲撃の心配があるけど、あなたがいれば安心でしょ?」
そう言って笑みを浮かべた王妃様だけど……確かにオーリー様の結界があれば襲撃があっても陛下をお守り出来る。出来るけど……
「というのも、あの男が陛下を亡き者にしようとしているんじゃないか、って話があるのよ」
「な……! そ、れは……」
「そう、暗殺よ」
「暗殺……」
そんなあからさまな手を公爵が使うだろうか。でも、そんなことを目論む人物が他に思い浮かばないのも確かだ。
「しかし、そんな話、一体どこから……」
「嫡男よ」
「は?」
「嫡男って……まさか……」
「マティアス坊よ」
さすがにこれにはオーリー様と顔を見合わせてしまった。彼がそんな話を王妃様たちにしていたなんて……そりゃあ彼は、父親の罪を公にしたいと言っていたけれど……
「あの男、ラグナードの反体制派と手を組んだとの話もあるわ」
「ラグナードって……!」
ラグナード国は我が国の隣にある国で、アーリンゲ侯爵の夫人がこの国の王女だ。我が国と長年友好関係が続いている国の一つで、王家同士の婚姻もある。
「反体制派って……」
「多分、公爵は陛下を亡き者にした後、アーリンゲ侯爵も失脚させる気なんでしょうね」
「いくら何でもそれで侯爵を失脚させるのは……」
「陛下を襲ったのはグラナード国で、我が国を乗っ取るためにアーリンゲ侯爵と共謀して陛下を狙ったと、そう訴える気なのでしょう」
確かにそう言われれば信じる者も一定数はいるだろう。どこの国でも他国の継承権を利用して有利な立場に立とうとするものだから。下手をすると戦争にもなり兼ねないけれど、現王は穏やかで内政に力を入れるタイプだと言われているから、そうなる可能性は低い。
「気でしょうねって……母上、そんな悠長なことを……」
夫でもある陛下が狙われているのに、王妃様は平然としていた。その姿にオーリー様が異を唱えたけれど……
「勿論、そのつもりで対策しているわよ。だからあなたも陛下の元に行って、その計画を阻止しなさいと言っているのよ」
「私が……」
「ついでに襲撃犯をまとめて結界で拘束して、そのまま連れて帰りなさい。そうすれば、今度こそあの男の尻尾を掴める筈よ」
確かにそれが出来たらこれ以上ない証拠となるだろう。公爵に辿り着けなくても警戒させて動きを封じることは可能だろうし、これを理由に国内の反体制派を叩くことも出来るかもしれない。
「それに。体調に問題がないのなら、後遺症から回復したと発表してしまいなさい」
「しかし、まだ……」
「あなたが元気になれば、ルシアンたちが狙われる確率も減る筈よ。あなたは廃嫡されたとはいえ未だ王族なんだから」
王妃様の懸念はルシアン様ご家族の負担だった。急な王太子教育の後は公務に追われ、しかも暗殺の危機もある。グレース様は相当参っているらしく、そんな彼女に対してルシアン様は相当憔悴しているという。幼子を抱えて命を狙われる生活は、相当な負担だとも。
「すべてあなたが引き起こしたことなの。少しでも申し訳ないと思うなら、弟夫婦の盾くらいにはなりなさい」
王妃様の言葉に、オーリー様が深く項垂れた。ルシアン様のご家族にそこまで負担をかけているとご存じなかったからだろう。
そして王妃様も身近でルシアン様たちの苦労を見ていらっしゃるだけに、その原因であるオーリー様が療養と称して安全な場所にいることにも思うところがおありなのだろう。動けるようになったのなら王族としての責務を果たせと仰るのは、王妃としてだけではなく母親としてルシアン様ご夫婦への気遣いが大きいように思えた。
「申し訳、ございませんでした……」
オーリー様は王妃様からの言葉に瀕死の状態だった。主にメンタルが。儚げに見えて中身はお祖母様並みにお強いらしい。いや、ギャップの分だけ破壊力が増しているかもしれない。
「それで? わざわざこの母を呼び付けた理由は何かしら?」
「そ、それは……」
にっこりと笑顔を浮かべた王妃様に、オーリー様が僅かに怯えを見せた。笑顔だけど目は笑っていないようにも見える。王族怖い……
「わ、私が飲まされた、ど、毒のことを……」
「ああ、知らないわ」
「え?」
「知らないのよ。私も陛下に尋ねたけれど、教えて下さらなくって」
「そう、ですか……」
不満そうにそう答えた王妃様に、オーリー様ががっくりと項垂れた、期待していた分だけ落胆も大きい、そんな感じだった。でも、私も同感だ。これでオーリー様の懸念の一つがなくなると思ったから。
「それは直接陛下に聞いてちょうだい。まぁ、答えてくれるかはわからないけれど」
「そうですか。それで、父上はいつごろお戻りに?}
「確か、半月後だった筈よ。詳しい日程は極秘だからさすがに言えないわ」
「そうでしたね」
王族の動向は暗殺防止の観点からも公にされないことが多い。今回も王都への旅程は非公開で、影武者を立てる場合もあるという。
「ちょうどいいわ、オードリック。あなた、陛下を迎えに行きなさい」
「はぁっ? は、母上?」」
「襲撃の心配があるけど、あなたがいれば安心でしょ?」
そう言って笑みを浮かべた王妃様だけど……確かにオーリー様の結界があれば襲撃があっても陛下をお守り出来る。出来るけど……
「というのも、あの男が陛下を亡き者にしようとしているんじゃないか、って話があるのよ」
「な……! そ、れは……」
「そう、暗殺よ」
「暗殺……」
そんなあからさまな手を公爵が使うだろうか。でも、そんなことを目論む人物が他に思い浮かばないのも確かだ。
「しかし、そんな話、一体どこから……」
「嫡男よ」
「は?」
「嫡男って……まさか……」
「マティアス坊よ」
さすがにこれにはオーリー様と顔を見合わせてしまった。彼がそんな話を王妃様たちにしていたなんて……そりゃあ彼は、父親の罪を公にしたいと言っていたけれど……
「あの男、ラグナードの反体制派と手を組んだとの話もあるわ」
「ラグナードって……!」
ラグナード国は我が国の隣にある国で、アーリンゲ侯爵の夫人がこの国の王女だ。我が国と長年友好関係が続いている国の一つで、王家同士の婚姻もある。
「反体制派って……」
「多分、公爵は陛下を亡き者にした後、アーリンゲ侯爵も失脚させる気なんでしょうね」
「いくら何でもそれで侯爵を失脚させるのは……」
「陛下を襲ったのはグラナード国で、我が国を乗っ取るためにアーリンゲ侯爵と共謀して陛下を狙ったと、そう訴える気なのでしょう」
確かにそう言われれば信じる者も一定数はいるだろう。どこの国でも他国の継承権を利用して有利な立場に立とうとするものだから。下手をすると戦争にもなり兼ねないけれど、現王は穏やかで内政に力を入れるタイプだと言われているから、そうなる可能性は低い。
「気でしょうねって……母上、そんな悠長なことを……」
夫でもある陛下が狙われているのに、王妃様は平然としていた。その姿にオーリー様が異を唱えたけれど……
「勿論、そのつもりで対策しているわよ。だからあなたも陛下の元に行って、その計画を阻止しなさいと言っているのよ」
「私が……」
「ついでに襲撃犯をまとめて結界で拘束して、そのまま連れて帰りなさい。そうすれば、今度こそあの男の尻尾を掴める筈よ」
確かにそれが出来たらこれ以上ない証拠となるだろう。公爵に辿り着けなくても警戒させて動きを封じることは可能だろうし、これを理由に国内の反体制派を叩くことも出来るかもしれない。
「それに。体調に問題がないのなら、後遺症から回復したと発表してしまいなさい」
「しかし、まだ……」
「あなたが元気になれば、ルシアンたちが狙われる確率も減る筈よ。あなたは廃嫡されたとはいえ未だ王族なんだから」
王妃様の懸念はルシアン様ご家族の負担だった。急な王太子教育の後は公務に追われ、しかも暗殺の危機もある。グレース様は相当参っているらしく、そんな彼女に対してルシアン様は相当憔悴しているという。幼子を抱えて命を狙われる生活は、相当な負担だとも。
「すべてあなたが引き起こしたことなの。少しでも申し訳ないと思うなら、弟夫婦の盾くらいにはなりなさい」
王妃様の言葉に、オーリー様が深く項垂れた。ルシアン様のご家族にそこまで負担をかけているとご存じなかったからだろう。
そして王妃様も身近でルシアン様たちの苦労を見ていらっしゃるだけに、その原因であるオーリー様が療養と称して安全な場所にいることにも思うところがおありなのだろう。動けるようになったのなら王族としての責務を果たせと仰るのは、王妃としてだけではなく母親としてルシアン様ご夫婦への気遣いが大きいように思えた。
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