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出迎えの準備
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王妃様から隣国から帰国される陛下を迎えに行くように言われた私たちは、直ぐにその準備に取り掛かった。陛下が訪問しているのはリードホルム王国で、我が国の西にある。我がリファール辺境伯領は国の北東側にあるので、位置的には反対とも言える。王都からリードホルムの国境までは馬車で十二日ほど、馬なら十日もあれば辿り着くだろうか。
私とオーリー様、ジョエルにエリー、副団長とアデル様、ルイス先生が応接室に集まった。
「この際、機動力を重視して、馬で移動するのもありかもしれませんね」
ジョエルが地図を見ながらそう言った。確かに大っぴらに馬車で向かうのは目立つし、時間もかかる。陛下がリードホルムの王都を発つのは今日から数えて十日後だという。王都から国境までは馬車で四日だから、陛下が国境に着くのは早くても十四日後だろう。十分に間に合う距離だ。
「国境で待っている方が確実でしょう」
「そうね。街道ではすれ違う可能性もあるわ」
「時間的に余裕はあります。王太后様への贈り物を乗せた馬車で向かいましょう」
ジョエルが提案したのは、同行した馬車で一番い小さいものだった。あれは四人乗りで領地ではよく使っているけれど、長旅には少々狭い。それでも、クッション性がいいのでワインなどのガラス物を運ぶのに向いているのだ。
「オーリー様の体調も完全じゃないから、馬車は必要だと思います。でも、大きい物や家紋が入っている物はあんまり……」
「……確かに、アンジェの言う通りだね」
「そうですな。万が一を考えて、休める馬車は必須でしょう」
ルイス先生も同じ考えだった。最近は鍛錬も増やしているけれど、まだ万全ではない。
「私も十日の距離を馬で駆ける自信がない。途中で体調を崩せば皆に迷惑をかけてしまう」
「オーリー様、迷惑だなんて……」
「いや、私がいると知れれば何が起きるかわからない。今回は馬車を使わせてもらいたい」
ここは馬で行くと主張されるかと思ったけれど、オーリー様が選んだのは安全で確実な方だった。そのことにホッとするとともに、ちょっと意外だとも思った。
「では、馬車で向かいましょう。オーリー様と私、ジョエルとエリー、あと護衛は……四人でどうでしょう?」
「アン様、少なくありませんか?」
「でも、人数が多すぎると動きにくいわ。あの馬車の護衛なら四人が妥当じゃない?」
あの馬車一台なら上位貴族の旅行といった感じだろう。だったら護衛も少ない方がいい。宿の手配も人数が増えると難しくなる。
「では、護衛は腕が立つ者を四人。それと斥候役に二人を先行させましょう」
「そうね。人選は副団長に一任すればいいかしら?」
「勿論です。早速人選に入りましょう」
出発は翌々日の朝に決まった。気は急くけれど準備も疎かには出来ない。ルイス先生と残りの護衛はこのままアデル様の元でお世話になることになった。
「オーリー様、本当に大丈夫なのですか?」
話し合いの後、私はオーリー様に尋ねた。王妃様が仰ったとはいえ、まだ飲んだ毒が何なのかもわからない状況に変わりはない。元気になったように見えても、内臓が傷ついているかもしれない。治癒魔術も薬も万能ではないのだ。
「ありがとう、アンジェ。でも、私がやったことで皆が苦労しているんだ。今更ではあるけれど、ここで知らん顔は出来ない」
「でも、また無理をしては……」
「だから馬車を遣わせてもらったんだ。辛くなりそうになったら早めに休むよ。それに、早く父上に会いたいんだ。毒のことは父上しかご存じなさそうだし」
オーリー様は毒の詳細を早く知りたいのだろう。自分の身体のことだし、毒が何なのかわかれば治療だってもっと効果的に出来るだろう。何もわからないまま自分の身体が蝕まれていく不安は想像を絶するものなのかもしれない。
「わかりました。でも、絶対に無理はしないで下さいね」
「わかっているよ」
「オーリー様のわかっているは当てになりませんが……」
ブノワ殿の薬で回復してからは、何度か無理をして疲れ過ぎてしまったことがある。その度に治癒魔術をかけていたけれど、本人はこれくらいならいけると思ったんだけどなぁ……と苦笑していた。それを思うと、自分の体力を過信している傾向が強くて全く安心出来ない。
「ジョエルが副団長に頼んで、馬車の中でも横になれるようにしてくれるらしいよ」
「そうですか。それ、使わずに済むようにお願いしますね」
「わかったよ」
最後は苦笑していたけれど、ここで大丈夫だろうなんて楽観視する気はなかった。
(体力回復に滋養増強、魔力回復に効く薬も必要かしら……)
とにかく準備は万全過ぎても困ることはないだろう。私はルイス先生にお願いして、それらの薬を揃えてもらえる様にお願いすることにした。
私とオーリー様、ジョエルにエリー、副団長とアデル様、ルイス先生が応接室に集まった。
「この際、機動力を重視して、馬で移動するのもありかもしれませんね」
ジョエルが地図を見ながらそう言った。確かに大っぴらに馬車で向かうのは目立つし、時間もかかる。陛下がリードホルムの王都を発つのは今日から数えて十日後だという。王都から国境までは馬車で四日だから、陛下が国境に着くのは早くても十四日後だろう。十分に間に合う距離だ。
「国境で待っている方が確実でしょう」
「そうね。街道ではすれ違う可能性もあるわ」
「時間的に余裕はあります。王太后様への贈り物を乗せた馬車で向かいましょう」
ジョエルが提案したのは、同行した馬車で一番い小さいものだった。あれは四人乗りで領地ではよく使っているけれど、長旅には少々狭い。それでも、クッション性がいいのでワインなどのガラス物を運ぶのに向いているのだ。
「オーリー様の体調も完全じゃないから、馬車は必要だと思います。でも、大きい物や家紋が入っている物はあんまり……」
「……確かに、アンジェの言う通りだね」
「そうですな。万が一を考えて、休める馬車は必須でしょう」
ルイス先生も同じ考えだった。最近は鍛錬も増やしているけれど、まだ万全ではない。
「私も十日の距離を馬で駆ける自信がない。途中で体調を崩せば皆に迷惑をかけてしまう」
「オーリー様、迷惑だなんて……」
「いや、私がいると知れれば何が起きるかわからない。今回は馬車を使わせてもらいたい」
ここは馬で行くと主張されるかと思ったけれど、オーリー様が選んだのは安全で確実な方だった。そのことにホッとするとともに、ちょっと意外だとも思った。
「では、馬車で向かいましょう。オーリー様と私、ジョエルとエリー、あと護衛は……四人でどうでしょう?」
「アン様、少なくありませんか?」
「でも、人数が多すぎると動きにくいわ。あの馬車の護衛なら四人が妥当じゃない?」
あの馬車一台なら上位貴族の旅行といった感じだろう。だったら護衛も少ない方がいい。宿の手配も人数が増えると難しくなる。
「では、護衛は腕が立つ者を四人。それと斥候役に二人を先行させましょう」
「そうね。人選は副団長に一任すればいいかしら?」
「勿論です。早速人選に入りましょう」
出発は翌々日の朝に決まった。気は急くけれど準備も疎かには出来ない。ルイス先生と残りの護衛はこのままアデル様の元でお世話になることになった。
「オーリー様、本当に大丈夫なのですか?」
話し合いの後、私はオーリー様に尋ねた。王妃様が仰ったとはいえ、まだ飲んだ毒が何なのかもわからない状況に変わりはない。元気になったように見えても、内臓が傷ついているかもしれない。治癒魔術も薬も万能ではないのだ。
「ありがとう、アンジェ。でも、私がやったことで皆が苦労しているんだ。今更ではあるけれど、ここで知らん顔は出来ない」
「でも、また無理をしては……」
「だから馬車を遣わせてもらったんだ。辛くなりそうになったら早めに休むよ。それに、早く父上に会いたいんだ。毒のことは父上しかご存じなさそうだし」
オーリー様は毒の詳細を早く知りたいのだろう。自分の身体のことだし、毒が何なのかわかれば治療だってもっと効果的に出来るだろう。何もわからないまま自分の身体が蝕まれていく不安は想像を絶するものなのかもしれない。
「わかりました。でも、絶対に無理はしないで下さいね」
「わかっているよ」
「オーリー様のわかっているは当てになりませんが……」
ブノワ殿の薬で回復してからは、何度か無理をして疲れ過ぎてしまったことがある。その度に治癒魔術をかけていたけれど、本人はこれくらいならいけると思ったんだけどなぁ……と苦笑していた。それを思うと、自分の体力を過信している傾向が強くて全く安心出来ない。
「ジョエルが副団長に頼んで、馬車の中でも横になれるようにしてくれるらしいよ」
「そうですか。それ、使わずに済むようにお願いしますね」
「わかったよ」
最後は苦笑していたけれど、ここで大丈夫だろうなんて楽観視する気はなかった。
(体力回復に滋養増強、魔力回復に効く薬も必要かしら……)
とにかく準備は万全過ぎても困ることはないだろう。私はルイス先生にお願いして、それらの薬を揃えてもらえる様にお願いすることにした。
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