60 / 107
療養の真相
しおりを挟む
「アンジェ、無事でよかったよ」
そう言いながらオーリー様は私の手の優しく撫でてきた。マッサージされるように優しく撫で、時には指を絡められて、私の羞恥心とか色んなものがガリガリ削られるのを感じた。
(オ、オーリー様……何を……)
何でこんなことになっているのか、全くわからなかった。オーリー様の行動が謎過ぎる……
「アンジェ?」
俯いたままの私の顔を、下から覗き込むようにして目を合わせてきたオーリー様に、益々心臓が跳ねた。そのうち弾け飛んでいきそうな勢いだ。
「あ、あの、よかった、です……」
とにかく何か言わなきゃ! と焦って出てきたのはそれだけだった。
(私の語彙力、どこに行ったのよ……)
今はただこの場から逃げ出したかったけど、オーリー様に手を取られているのでそれも叶わなかった。どうしてこんな状況になっているのだろう……
何も言えず、オーリー様も何も言わない。沈黙が肌を刺すように感じた。静けさを痛く感じるなんて知らなかった。
「……父上に、毒のことを問い詰めて来たよ」
「……!」
その言葉に、ハッと顔を上げるとオーリー様の金色の目と視線がバッチリ合ってしまった。それでも……羞恥心よりも毒の懸念が僅かに上回って、私の視線は辛うじて泳ぎ出さなかった。
「そ、それで……陛下は何と?」
「うん。それが……」
それからオーリー様は、療養直後に起きた話をしてくれた。
オーリー様は廃嫡される少し前から倦怠感を持っていたという。それは軽い疲労感レベルで、周りもオーリー様自身も一連の騒動の影響なのだと思っていた。周囲は魅了された後遺症、オーリー様は長かった初恋への喪失感と婚約破棄後のごたごたへの疲労感だと。
その状態のままオーリー様は療養と称して、離宮に幽閉された。そこで到着直後に熱を出したのだけど……
それは廃嫡される少し前から飲まされていた毒のせいだったのだ。その毒をオーリー様に渡していたのはミア様で、彼女はクッキーなどのお菓子に混ぜてオーリー様に提供していた。
断罪後に二人が引き離されたことで毒の摂取は止まったけれど、その後にオーリー様が医者に処方された薬を飲んだところ、高熱を出した。
実はミア様がオーリー様に飲ませていた毒にはある特徴があって、その毒を飲んでいる時にある成分を摂取すると更に強い毒になる性質を持っていたのだ。オーリー様が熱を出したのはそのせいで、二度目の毒はその毒に気付いた医師たちが飲ませた解毒剤によって出たものだった。
「そんな……ミア様がオーリー様を害しようと?」
「いや、彼女は私に毒を盛っていたことすら、気付いてなかったと私は思っている」
「そんな……って、まさか……」
「そう。彼だろうね」
はっきり名前を出さなくてもわかった。ベルクール公爵だ。でも、どうして公爵はそんなことを企んでいたのだろう。彼はジョアンヌ様かミア様をオーリー様に縁付けて、その孫を王位に就けようと目論んでいたはず……
「公爵は彼女が私にまで手を出すとは想定していなかったんだ。あくまでも公爵が狙っていたのは私とジョアンヌとの婚姻で、ミアは魅了の効果を確かめるための駒だったからね」
「それは、そうでしょうね」
身分からしてもジョアンヌ様の方が王太子妃や王妃に相応しく、婚約者なので何の問題もなかっただろう。なのにミア様が欲を出してオーリー様に手を出してしまい、そのことに公爵は憤っていたとマティアス様も言っていた。
「公爵は多分、私が許せなかったんだろうね。長年の婚約者のジョアンヌを蔑ろにして、自分のシナリオ通りに動かなかった私が」
「でも、それでオーリー様に何かあったら……」
「そう。だから微弱な毒でおいていたんだろう。私がジョアンヌの元に戻れば毒の摂取を止める。でも戻らなかったら、と」
「……」
確かにそう言われれば辻褄は合うけれど。
「公爵は私が助かった後も私を消そうとしていた。ランドンを使ってね」
確かに彼は療養中のオーリー様にずっと毒を処方していた。弱いものではあったけれど。
「そう言えば、どうして彼は……」
「彼の娘はベルクール公爵家の分家の分家に嫁いでいたんだ」
娘家族を人質に取っていたのか。公爵ならやりそうだなと思った。利用出来るものは何でも利用し、誰に何を言われても気にも留めない公爵らしい。
「じゃ、どうして今になってエマ様を?」
そう、毒を盛っていたのに、死を願っていたのに、どうして今になって近づいてきたのだろう。
「五年経ってもルシアンに瑕疵を作れず、王子が生まれたからだろうね。このままでは自分の計画が破綻すると踏んで、私も利用しようとしたんだろう」
あくまでも私は保険の保険くらいの扱いだったろうけどね、とオーリー様が苦い笑みを浮かべた。
「父上は既に証拠を固めておられる。近々その時は来るだろうけど、先日の襲撃も公爵が絡んでいる可能性があるからね。そちらも慎重に調べているところだよ」
「そうですか」
いよいよ公爵の罪が明らかになるのか。もっと時間がかかるかと思っていたけれど、その日が思ったよりも早く訪れることに不安と期待が広がっていった。
そう言いながらオーリー様は私の手の優しく撫でてきた。マッサージされるように優しく撫で、時には指を絡められて、私の羞恥心とか色んなものがガリガリ削られるのを感じた。
(オ、オーリー様……何を……)
何でこんなことになっているのか、全くわからなかった。オーリー様の行動が謎過ぎる……
「アンジェ?」
俯いたままの私の顔を、下から覗き込むようにして目を合わせてきたオーリー様に、益々心臓が跳ねた。そのうち弾け飛んでいきそうな勢いだ。
「あ、あの、よかった、です……」
とにかく何か言わなきゃ! と焦って出てきたのはそれだけだった。
(私の語彙力、どこに行ったのよ……)
今はただこの場から逃げ出したかったけど、オーリー様に手を取られているのでそれも叶わなかった。どうしてこんな状況になっているのだろう……
何も言えず、オーリー様も何も言わない。沈黙が肌を刺すように感じた。静けさを痛く感じるなんて知らなかった。
「……父上に、毒のことを問い詰めて来たよ」
「……!」
その言葉に、ハッと顔を上げるとオーリー様の金色の目と視線がバッチリ合ってしまった。それでも……羞恥心よりも毒の懸念が僅かに上回って、私の視線は辛うじて泳ぎ出さなかった。
「そ、それで……陛下は何と?」
「うん。それが……」
それからオーリー様は、療養直後に起きた話をしてくれた。
オーリー様は廃嫡される少し前から倦怠感を持っていたという。それは軽い疲労感レベルで、周りもオーリー様自身も一連の騒動の影響なのだと思っていた。周囲は魅了された後遺症、オーリー様は長かった初恋への喪失感と婚約破棄後のごたごたへの疲労感だと。
その状態のままオーリー様は療養と称して、離宮に幽閉された。そこで到着直後に熱を出したのだけど……
それは廃嫡される少し前から飲まされていた毒のせいだったのだ。その毒をオーリー様に渡していたのはミア様で、彼女はクッキーなどのお菓子に混ぜてオーリー様に提供していた。
断罪後に二人が引き離されたことで毒の摂取は止まったけれど、その後にオーリー様が医者に処方された薬を飲んだところ、高熱を出した。
実はミア様がオーリー様に飲ませていた毒にはある特徴があって、その毒を飲んでいる時にある成分を摂取すると更に強い毒になる性質を持っていたのだ。オーリー様が熱を出したのはそのせいで、二度目の毒はその毒に気付いた医師たちが飲ませた解毒剤によって出たものだった。
「そんな……ミア様がオーリー様を害しようと?」
「いや、彼女は私に毒を盛っていたことすら、気付いてなかったと私は思っている」
「そんな……って、まさか……」
「そう。彼だろうね」
はっきり名前を出さなくてもわかった。ベルクール公爵だ。でも、どうして公爵はそんなことを企んでいたのだろう。彼はジョアンヌ様かミア様をオーリー様に縁付けて、その孫を王位に就けようと目論んでいたはず……
「公爵は彼女が私にまで手を出すとは想定していなかったんだ。あくまでも公爵が狙っていたのは私とジョアンヌとの婚姻で、ミアは魅了の効果を確かめるための駒だったからね」
「それは、そうでしょうね」
身分からしてもジョアンヌ様の方が王太子妃や王妃に相応しく、婚約者なので何の問題もなかっただろう。なのにミア様が欲を出してオーリー様に手を出してしまい、そのことに公爵は憤っていたとマティアス様も言っていた。
「公爵は多分、私が許せなかったんだろうね。長年の婚約者のジョアンヌを蔑ろにして、自分のシナリオ通りに動かなかった私が」
「でも、それでオーリー様に何かあったら……」
「そう。だから微弱な毒でおいていたんだろう。私がジョアンヌの元に戻れば毒の摂取を止める。でも戻らなかったら、と」
「……」
確かにそう言われれば辻褄は合うけれど。
「公爵は私が助かった後も私を消そうとしていた。ランドンを使ってね」
確かに彼は療養中のオーリー様にずっと毒を処方していた。弱いものではあったけれど。
「そう言えば、どうして彼は……」
「彼の娘はベルクール公爵家の分家の分家に嫁いでいたんだ」
娘家族を人質に取っていたのか。公爵ならやりそうだなと思った。利用出来るものは何でも利用し、誰に何を言われても気にも留めない公爵らしい。
「じゃ、どうして今になってエマ様を?」
そう、毒を盛っていたのに、死を願っていたのに、どうして今になって近づいてきたのだろう。
「五年経ってもルシアンに瑕疵を作れず、王子が生まれたからだろうね。このままでは自分の計画が破綻すると踏んで、私も利用しようとしたんだろう」
あくまでも私は保険の保険くらいの扱いだったろうけどね、とオーリー様が苦い笑みを浮かべた。
「父上は既に証拠を固めておられる。近々その時は来るだろうけど、先日の襲撃も公爵が絡んでいる可能性があるからね。そちらも慎重に調べているところだよ」
「そうですか」
いよいよ公爵の罪が明らかになるのか。もっと時間がかかるかと思っていたけれど、その日が思ったよりも早く訪れることに不安と期待が広がっていった。
115
あなたにおすすめの小説
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
【書籍化決定】愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。
曽根原ツタ
恋愛
ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。
ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。
その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。
ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる