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今後の治療方針
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一夜明けて、私はアデル様とルイス先生も交えて、オーリー様の毒の説明をすることにした。陛下から聞いた話をルイス先生にも聞いてもらい、今後の治療に役立てて欲しかったからだ。現時点でオーリー様はブノワ殿が処方した薬を飲み続けているけれど、療養初期に飲んだ毒の正体がわかれば今後の対処も変わってくるかもしれないからだ。そうは思うのだけど……
(どんな顔をして、会えばいいのよ……)
昨夜思いがけず泣いてしまったことが恥ずかしく、オーリー様だけでなくアデル様とも顔を合わせ難かった。そりゃあ、一々その事を指摘するような方ではないのだけど。侍女に頼んで話し合いの場を設けて下さるようにお願いした後は、気恥ずかしさに一人悶々とする羽目になってしまった。
それでもその時はやって来る。私は務めて平静を装ってその場に挑んだ。オーリー様やアデル様の姿を見た途端その場から逃げ出したくなったけれど、そこはぐっと我慢した。今からの話はオーリー様の命に関わるかもしれないのだ。そう自分に言い聞かせた。
「なるほど……テシャの葉とクロナの実、ですか……」
ルイス先生が口にしたそれは、オーリー様がミア様から飲まされていたものだった。
「確かに、これにタターリャという茶を加えれば、毒になりますな」
ルイス先生の話では、これらはそれ自体では毒にならないけれど、組み合わせると毒になるという。一般には知られていないけれど、薬師なら知っていることだと言った。
「そう。それで、毒の効果はまだ残っているのかしら?」
アデル様が言うように、最も気になったのはそこだった。それらの毒を口にしたのは五年以上前だ。その後は別の毒を口にしていたけれど、それがどういう意味を成すのか、それが問題だ。
「そう、ですな……」
ルイス先生は顎に手を当てて考え込んでしまった。毒と言っても調合の仕方で薬にもなり得るし、同じ素材を使っても配合によって効果も様々だから一概にどうとは言えない面もある。先生ほどの経験と知識があっても判断は容易ではないらしい。直ぐに出てこない答えにもどかしさが募った。
「……記録を見るに、毒の接種後に飲んだ解毒剤で、この毒の解毒自体は終わっていると考えてよろしいかと」
「じゃ!」
「ですが、その後に五年余りにわたって飲んでいた毒がございます。こちらの方が厄介と言わざるを得ません」
ルイス先生が言うには、微量でも長期間毒を摂り続けると静かに内臓にダメージが蓄積されていくという。その為、今症状がなくてもこの先五年、十年後はわからないという。
「そんな……それじゃ……」
「無暗に悲観する必要はないでしょう。ですが、楽観出来る材料もございません。これからも無理せず、些細な変化も見逃さずにお暮しになるのが最善かと」
「そう。厄介なものね」
アデル様も落胆を隠し切れなかったらしい。でも、毒で内臓がどれくらい傷ついたかは見えないのでわからない。これが目に見える怪我なら対処は楽なのに。
「そうか。ルイス先生、感謝する」
「オードリック……」
「お祖母様、リファールに行く前は庭の散歩もままならないくらいで、あと一年生きられるだろうかと思っていたくらいです。それに比べたら今は体調も格段にいい。ルイス先生やブノワ、それにアンジェがいて私を支えてくれます」
そう言ってオーリー様が私やルイス先生を見た。視線が合って頬が熱くなった気がした。
「ルイス先生、このままなら今すぐ死ぬことはないのだろう?」
「断言はできませんが、今のお顔色と言い体調と言い、案じる要素は見当たりませぬ。内臓の方は治癒魔術を掛け続ければ急激に悪化することもないでしょう」
「だったら問題ないな」
「オーリー様?」
「アンジェ。あなたには負担をかけてしまって申し訳ないが、父上に命じられた結界は十分に出来そうだ」
「え? あ、そう、ですね」
申し訳なさそうにそう言われたけれど、私は何故か自分が落胆していた。結界は陛下が命に代えてもと命じられ、我が領に取っては死活問題で切望していたことだ。それが履行されるのなら落胆する理由はないのだけど……
「オードリック……あなた……」
「はい?」
「……何でもないわ……」
アデル様が綺麗な形の眉を顰めて小さくため息をつかれた後、私をチラっと見た。何だろう。
「そうそう、陛下から二週間後の夜会の招待状が来ていたわ」
「招待状って……私にですか?」
アデル様が私に招待状を差し出したので手に取った。確かに王家の蝋印があるけど……
「あの、私とオーリー様も、ですか?」
中には私とオーリー様を招待する旨が書かれていた。オーリー様が王都にいるのは伏せているけど、出て大丈夫なのだろうか。
「ああ、父上からもそう言われたよ。婚約披露もしていなかったから、その夜会ですると仰っていた」
「ええっ?」
簡単に言うけど、ドレスとかの手配もあるから急に言われても困る。特に今回はそんな予定は全くしていなかったから尚更だ。
「大丈夫よ、アンジェ。ちゃんと用意してあるわ」
「ええっ? ア、アデル様?」
「こうなるだろうと思っていたからね。来週には届くはずよ」
「お祖母様、ありがとうございます」
何だか知らないところで準備が進んでいた。
(どんな顔をして、会えばいいのよ……)
昨夜思いがけず泣いてしまったことが恥ずかしく、オーリー様だけでなくアデル様とも顔を合わせ難かった。そりゃあ、一々その事を指摘するような方ではないのだけど。侍女に頼んで話し合いの場を設けて下さるようにお願いした後は、気恥ずかしさに一人悶々とする羽目になってしまった。
それでもその時はやって来る。私は務めて平静を装ってその場に挑んだ。オーリー様やアデル様の姿を見た途端その場から逃げ出したくなったけれど、そこはぐっと我慢した。今からの話はオーリー様の命に関わるかもしれないのだ。そう自分に言い聞かせた。
「なるほど……テシャの葉とクロナの実、ですか……」
ルイス先生が口にしたそれは、オーリー様がミア様から飲まされていたものだった。
「確かに、これにタターリャという茶を加えれば、毒になりますな」
ルイス先生の話では、これらはそれ自体では毒にならないけれど、組み合わせると毒になるという。一般には知られていないけれど、薬師なら知っていることだと言った。
「そう。それで、毒の効果はまだ残っているのかしら?」
アデル様が言うように、最も気になったのはそこだった。それらの毒を口にしたのは五年以上前だ。その後は別の毒を口にしていたけれど、それがどういう意味を成すのか、それが問題だ。
「そう、ですな……」
ルイス先生は顎に手を当てて考え込んでしまった。毒と言っても調合の仕方で薬にもなり得るし、同じ素材を使っても配合によって効果も様々だから一概にどうとは言えない面もある。先生ほどの経験と知識があっても判断は容易ではないらしい。直ぐに出てこない答えにもどかしさが募った。
「……記録を見るに、毒の接種後に飲んだ解毒剤で、この毒の解毒自体は終わっていると考えてよろしいかと」
「じゃ!」
「ですが、その後に五年余りにわたって飲んでいた毒がございます。こちらの方が厄介と言わざるを得ません」
ルイス先生が言うには、微量でも長期間毒を摂り続けると静かに内臓にダメージが蓄積されていくという。その為、今症状がなくてもこの先五年、十年後はわからないという。
「そんな……それじゃ……」
「無暗に悲観する必要はないでしょう。ですが、楽観出来る材料もございません。これからも無理せず、些細な変化も見逃さずにお暮しになるのが最善かと」
「そう。厄介なものね」
アデル様も落胆を隠し切れなかったらしい。でも、毒で内臓がどれくらい傷ついたかは見えないのでわからない。これが目に見える怪我なら対処は楽なのに。
「そうか。ルイス先生、感謝する」
「オードリック……」
「お祖母様、リファールに行く前は庭の散歩もままならないくらいで、あと一年生きられるだろうかと思っていたくらいです。それに比べたら今は体調も格段にいい。ルイス先生やブノワ、それにアンジェがいて私を支えてくれます」
そう言ってオーリー様が私やルイス先生を見た。視線が合って頬が熱くなった気がした。
「ルイス先生、このままなら今すぐ死ぬことはないのだろう?」
「断言はできませんが、今のお顔色と言い体調と言い、案じる要素は見当たりませぬ。内臓の方は治癒魔術を掛け続ければ急激に悪化することもないでしょう」
「だったら問題ないな」
「オーリー様?」
「アンジェ。あなたには負担をかけてしまって申し訳ないが、父上に命じられた結界は十分に出来そうだ」
「え? あ、そう、ですね」
申し訳なさそうにそう言われたけれど、私は何故か自分が落胆していた。結界は陛下が命に代えてもと命じられ、我が領に取っては死活問題で切望していたことだ。それが履行されるのなら落胆する理由はないのだけど……
「オードリック……あなた……」
「はい?」
「……何でもないわ……」
アデル様が綺麗な形の眉を顰めて小さくため息をつかれた後、私をチラっと見た。何だろう。
「そうそう、陛下から二週間後の夜会の招待状が来ていたわ」
「招待状って……私にですか?」
アデル様が私に招待状を差し出したので手に取った。確かに王家の蝋印があるけど……
「あの、私とオーリー様も、ですか?」
中には私とオーリー様を招待する旨が書かれていた。オーリー様が王都にいるのは伏せているけど、出て大丈夫なのだろうか。
「ああ、父上からもそう言われたよ。婚約披露もしていなかったから、その夜会ですると仰っていた」
「ええっ?」
簡単に言うけど、ドレスとかの手配もあるから急に言われても困る。特に今回はそんな予定は全くしていなかったから尚更だ。
「大丈夫よ、アンジェ。ちゃんと用意してあるわ」
「ええっ? ア、アデル様?」
「こうなるだろうと思っていたからね。来週には届くはずよ」
「お祖母様、ありがとうございます」
何だか知らないところで準備が進んでいた。
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