【完結】廃嫡された元王太子との婚姻を命じられました

灰銀猫

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夜会の準備

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 オーリー様との婚約を披露するから夜会に来るように言われたけれど、本当に大丈夫なのかと不安になった。ベルクール公爵の動きがわからない。エマ様を領地に置いてきたままだし、そもそも私たちが王都にいることも知らない筈……

「オーリー様、こんな時期に夜会になど出て大丈夫なのですか?」

 私はまだしも、狙われているオーリー様が表に出て大丈夫なのだろうか。そりゃあアデル様の元にいれば公爵も手を出しにくいだろうけど、またよからぬことを企んだりはしないだろうか。

「大丈夫だよ、アンジェ。私が夜会に出るのは父上のご意向だ。警備はしっかり見てくれると約束して下さったから、アンジェが危険な目に遭うことはないよ」

 そう言ってオーリー様が重ねて大丈夫だと言ったけれど、私が心配しているのはオーリー様であって我が身ではない。今だって毒を処方されている状態なのに、元気な姿で表に出てしまっていいのだろうか。そうは思うのだけど、陛下のご意向だと言われれば異を唱えるわけにもいかない。
 
 私が不安を抱えている間に、屋敷にドレスが届いた。

「ええっ? これを、私に?」

 デザイナーが取り出したのは、青みがかった銀色の生地に金とローズ色の刺繍やレースがあしらわれたドレスだった。銀はオーリー様の、ローズ色は私の色で、金は私たちの瞳の色だ。最近は背中が広く開いたデザインが流行りらしいけど、幸いにもこれは露出控えめで無駄にスカートも広がっていない。オーソドックスな形だったのは幸いだった。
 オーリー様の衣装も同じ配色で、少々合わせ過ぎではないだろうか。生地もレースも刺繍も見ただけで一級品だとわかる出来で、こんなに高級なドレスを着るのは初めてだ。いや、真っ当にドレスを着たことがないのだけど……汚したり粗相をしたりしないか不安になってきた。

「まぁ、いい感じに仕上がったわね」
「アデル様からご依頼があった時は地味ではないかしらと心配しましたが……なるほど、このデザインならご令嬢の髪色がとても映えるでしょう」
「ふふ、思った通りね。アンジェの髪は綺麗なピンク色だから、ドレスも同じ色だと軽くなりすぎると思ったのよ。少し重厚な感じの方が品よく見えるわ」
「ええ、ええ。さすがはアデル様ですわ」

 アデル様とデザイナー、侍女たちがはしゃいでいる横で、私は顔が引き攣るのを抑えられなかった。こんな高価そうなドレスを着こなせる自身がない。絶対にドレスに着られる風に見えるだろう。嬉しいけど、もう少し普通のものでいいのだけど……

「これは……アンジェが着るのが楽しみだな」
「……」

 オーリー様まで嬉しそうに衣裳を眺めていたけれど、私は夜会に早くも怖気づいていた。夜会はデビュタントの時に出たことがあるけれど、それ一度きりだ。あの時も最低限の挨拶を済ませるとすぐに帰ってしまったから、よくわからないうちに終わってしまったという感じだった。そんな私が夜会に、それもオーリー様の婚約者として出て大丈夫なのだろうか……

「アンジェ? どうかした?」
「……え? あ、いえ、何でも……」
「何でもないって表情じゃないよ? 何か不安でも?」

 オーリー様が覗き込むようにそう尋ねてきた。その近さにまた心臓が跳ねた。最近こんなことが増えている気がする。何だと言うのだ……

「い、いえ……その、夜会に出るのは初めてのようなものなので、大丈夫なのかな、と……」
「え?」

 驚かれてしまったけれど、それも無理もない。辺境伯家の子女だったら、私の年には結婚している者も多いし、夜会だって何度も出ているものだ。

「……そう言えば、アンジェは公式の場は避けていたものね」
「はい」

 アデル様はお祖母様と親しくてその辺の事情をご存じだった。父との確執も、母の学園時代の浮名もあって、私は夜会や舞踏会への出席をいつも断っていた。

「そう、か……」
「申し訳ありません、オーリー様。もしかしたら夜会で恥をかかせてしまうかもしれません……」
「そんなことは気にしないけれど……そう、だな。時間があまりないけれど、不安なところがあるなら今のうちに何とかしよう」
「え?
 な、何とかって……」
「そうね。まだ日はあるわ。マナーでもダンスでも、一通りおさらいするところから始めましょうか」
「そうですね。私も社交に出るのは五年ぶりですし。アンジェ、一緒にやろう」
「ええっ?」

 何故かやる気になったオーリー様に、アデル様も賛同してしまった。

「そうと決まったら、明日にでもマナーやダンスの講師を呼びましょう」
「お願いします」
「え? ええっ?」

 何だか知らない間に話が進んでしまい、私は目を白黒させるしか出来なかった。

 結局、その翌日から夜会の前日まで、マナーやダンス、会話術などをオーリー様と習うことになったけれど、日がなかったせいで厳しいものになったのは言うまでもなかった。




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