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疲労感満載
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(つ、疲れた……)
殆ど初めてとも言える夜会は、激しい疲労感と虚しさと共に終わった。しかも情報が多すぎて消化しきれない。湯あみをしながら私は大きく息を吐いた。
(せっかくのドレスだったのに……)
実質初めての夜会、しかも婚約者を伴ってのそれに期待がなかった訳じゃない。あんなに素的なドレスに浮かれていた自覚もある。それが台無しになった虚しさも相まって、想定の五倍は疲れた気がした。
(でも、エマ様たちが処刑にならずに済んでよかった……)
過ごした時間は短かったけれど、彼らの本心を知ってからはいい関係が築けたと思っていた。私にとっては数少ない貴族の友達の一人でもあったになれたと思う。公爵が断罪されれば彼らの身にも累が及ぶのは理解していたけれど、現実として突きつけられると胸が痛んだ。彼らも苦しい人生を送って来たと知ってしまったから尚更だろう。貴族、それも公爵家の者が平民として生きるのは簡単ではないだろうし。
それに、父のことも頭が痛かった。話をしても通じないから諦めていたけれど、それでもいつかは目が覚めてくれればと思っていたのだ。廃嫡されても文官の身分があれば貴族としての体裁は保てるし、贅沢しなければ十分暮らしていけた筈。なのにそれを自ら手放す真似をしていたなんて……
「……よかったよね……」
ふと出た言葉に驚いて周りを見たけれど、エリーには届いていなかったらしい。少し離れた場所で背を向けている彼女は振り返らなかった。聞こえなかったことにホッとして、同時に何を言っているんだ自分、と自分に突っ込んでしまった。
あの時、ちらと目にしたオーリー様の表情が少しだけ緩んだように見えた。オーリー様が泥をかぶっても守ろうとした人だ。これで累が及んだら全てが台無しになってしまうだろう。それを回避できたのはよかったと思った。それでも、オーリー様の思いが報われることはないのだろう。そのことをジョアンヌ様は知らない。それが何とももどかしく思えた。それがオーリー様の望みなのだけど。
それ以外にも気になることがたくさんあり過ぎて、頭がパンクしそうだった。
「そうそう、アン。アデル様から伝言を言付かったわ。近々また夜会があるそうよ。今日着たドレスで参加するようにと陛下からお言葉があったんですって」
「ええ?」
ボーっとしていたらエリーに声をかけられたけど、その内容は思いもしないものだった。普通、上位貴族は夜会のたびにドレスを変える。中にはリメイクして着る方もいるけど、それは経済状況がよくなかったり、親の形見だったりした場合だ。それでも直近の夜会で着たドレスを着ることはほぼない。
「今回の夜会のためにドレスを新調した女性には気の毒なことをしたと、陛下がそう仰ったそうよ。断罪のための夜会だったと知っていたら、新調しなかっただろうにと王妃様とアデル様が仰ったとか」
「そ、そう」
確かに女性にとって夜会はドレスを新調出来る貴重な機会だ。王妃様たちが陛下に進言なさった、というか叱られたのかもしれない。女性の楽しみを台無しにして、と責められる陛下の姿が浮かんだ。あの夜会後の面談を思えばその方がしっくりくる気がした。
それに……ちょうど私も同じことを考えていたのだ。あのドレスをあれきりで終わらせるのはもったいなかった。そりゃあ、別の機会に着ることも出来るけど、あれだけ立派な品となると着られる夜会も限られてきそうだから。
その機会は直ぐにやってきた。一週間後の同じ時間帯に夜会が開かれることになったからだ。元々慣例で嵐など不測の事態に備えて予備日が設けられているけれど、それがこんな形で生かされる日が来るとは思わなかった。
(さすがに二度目だと、感動がないかも……)
前回は心が躍ったドレスも、二度目、しかもあの断罪劇の後ではどうにも気が滅入った。父のせいもあるだろう。あれから特に王宮などからの問い合わせはないけれど、捜査は続いているのだろうし……自分は悪くないと言い張る父の姿がしっくり来て、余計に頭が痛くなった。そう言えば我が家のタウンハウスと義母たちはどうなっているのだろう。
「もう、アンったら。もっと晴れやかな顔をしなさいな」
「わかってるわよ。でも、父たちの事を思い出したら気が重いのよ……」
そう、世間にも父のことは知られているだろう。昔から問題ありの我が家だったから今更ではあるけれど、今までは公の場に出なかったから直接言われなかっただけだ。今夜は……何を言われるかわからない。
「だからこそ尚更ですわ。他家に付け込まれないようにしっかりなさって下さい!」
「わ、わかったわ」
確かにエリーの言う通りだ。父のことは父の責任で、ここでオドオドしていたら相手の思う壺だろう。それに今日はオーリー様も一緒だ。早々暴言を吐かれることはない、と思いたい。
「アンジェ、大丈夫?」
馬車に乗るとオーリー様に声をかけられた。アデル様は昨日から王宮に行ってそのままお泊りになったから、今は二人だけだ。そのことも私の精神を削っている気がする。
「大丈夫ですよ」
どうやらオーリー様にまで心配をかけてしまっていたらしい。悩んでも仕方がないのだ。だったら今まで通り外野の騒音なんか気にしなければいいだけだ。私はそっと気合を込めた。
殆ど初めてとも言える夜会は、激しい疲労感と虚しさと共に終わった。しかも情報が多すぎて消化しきれない。湯あみをしながら私は大きく息を吐いた。
(せっかくのドレスだったのに……)
実質初めての夜会、しかも婚約者を伴ってのそれに期待がなかった訳じゃない。あんなに素的なドレスに浮かれていた自覚もある。それが台無しになった虚しさも相まって、想定の五倍は疲れた気がした。
(でも、エマ様たちが処刑にならずに済んでよかった……)
過ごした時間は短かったけれど、彼らの本心を知ってからはいい関係が築けたと思っていた。私にとっては数少ない貴族の友達の一人でもあったになれたと思う。公爵が断罪されれば彼らの身にも累が及ぶのは理解していたけれど、現実として突きつけられると胸が痛んだ。彼らも苦しい人生を送って来たと知ってしまったから尚更だろう。貴族、それも公爵家の者が平民として生きるのは簡単ではないだろうし。
それに、父のことも頭が痛かった。話をしても通じないから諦めていたけれど、それでもいつかは目が覚めてくれればと思っていたのだ。廃嫡されても文官の身分があれば貴族としての体裁は保てるし、贅沢しなければ十分暮らしていけた筈。なのにそれを自ら手放す真似をしていたなんて……
「……よかったよね……」
ふと出た言葉に驚いて周りを見たけれど、エリーには届いていなかったらしい。少し離れた場所で背を向けている彼女は振り返らなかった。聞こえなかったことにホッとして、同時に何を言っているんだ自分、と自分に突っ込んでしまった。
あの時、ちらと目にしたオーリー様の表情が少しだけ緩んだように見えた。オーリー様が泥をかぶっても守ろうとした人だ。これで累が及んだら全てが台無しになってしまうだろう。それを回避できたのはよかったと思った。それでも、オーリー様の思いが報われることはないのだろう。そのことをジョアンヌ様は知らない。それが何とももどかしく思えた。それがオーリー様の望みなのだけど。
それ以外にも気になることがたくさんあり過ぎて、頭がパンクしそうだった。
「そうそう、アン。アデル様から伝言を言付かったわ。近々また夜会があるそうよ。今日着たドレスで参加するようにと陛下からお言葉があったんですって」
「ええ?」
ボーっとしていたらエリーに声をかけられたけど、その内容は思いもしないものだった。普通、上位貴族は夜会のたびにドレスを変える。中にはリメイクして着る方もいるけど、それは経済状況がよくなかったり、親の形見だったりした場合だ。それでも直近の夜会で着たドレスを着ることはほぼない。
「今回の夜会のためにドレスを新調した女性には気の毒なことをしたと、陛下がそう仰ったそうよ。断罪のための夜会だったと知っていたら、新調しなかっただろうにと王妃様とアデル様が仰ったとか」
「そ、そう」
確かに女性にとって夜会はドレスを新調出来る貴重な機会だ。王妃様たちが陛下に進言なさった、というか叱られたのかもしれない。女性の楽しみを台無しにして、と責められる陛下の姿が浮かんだ。あの夜会後の面談を思えばその方がしっくりくる気がした。
それに……ちょうど私も同じことを考えていたのだ。あのドレスをあれきりで終わらせるのはもったいなかった。そりゃあ、別の機会に着ることも出来るけど、あれだけ立派な品となると着られる夜会も限られてきそうだから。
その機会は直ぐにやってきた。一週間後の同じ時間帯に夜会が開かれることになったからだ。元々慣例で嵐など不測の事態に備えて予備日が設けられているけれど、それがこんな形で生かされる日が来るとは思わなかった。
(さすがに二度目だと、感動がないかも……)
前回は心が躍ったドレスも、二度目、しかもあの断罪劇の後ではどうにも気が滅入った。父のせいもあるだろう。あれから特に王宮などからの問い合わせはないけれど、捜査は続いているのだろうし……自分は悪くないと言い張る父の姿がしっくり来て、余計に頭が痛くなった。そう言えば我が家のタウンハウスと義母たちはどうなっているのだろう。
「もう、アンったら。もっと晴れやかな顔をしなさいな」
「わかってるわよ。でも、父たちの事を思い出したら気が重いのよ……」
そう、世間にも父のことは知られているだろう。昔から問題ありの我が家だったから今更ではあるけれど、今までは公の場に出なかったから直接言われなかっただけだ。今夜は……何を言われるかわからない。
「だからこそ尚更ですわ。他家に付け込まれないようにしっかりなさって下さい!」
「わ、わかったわ」
確かにエリーの言う通りだ。父のことは父の責任で、ここでオドオドしていたら相手の思う壺だろう。それに今日はオーリー様も一緒だ。早々暴言を吐かれることはない、と思いたい。
「アンジェ、大丈夫?」
馬車に乗るとオーリー様に声をかけられた。アデル様は昨日から王宮に行ってそのままお泊りになったから、今は二人だけだ。そのことも私の精神を削っている気がする。
「大丈夫ですよ」
どうやらオーリー様にまで心配をかけてしまっていたらしい。悩んでも仕方がないのだ。だったら今まで通り外野の騒音なんか気にしなければいいだけだ。私はそっと気合を込めた。
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