【完結】廃嫡された元王太子との婚姻を命じられました

灰銀猫

文字の大きさ
91 / 107

再び王都へ

しおりを挟む
 あれから一ヶ月半が経った。魔力切れに陥った私だけれど、それも二十日もするとすっかり元気になった。オーリー様は一事が万事戸惑いに襲われていたけれど、慣れたというか開き直ったというか、動じることは殆どなくなっているように見えた。

「恥ずかしいからそう見せているだけだよ」

 そう言って苦笑していたけれど、それでもさっさと状況を把握して理解していたのはさすがだと思う。そこにはエドガール様の献身も大きかっただろう。オーリー様がいなくなった後で起きたことを、エドガール様は細かく記録していたのだ。そのお陰でオーリー様はこれまでに起きたことを把握出来たのだという。
 私も日記を付けていたから、私もオーリー様用の記録を作っておけばよかったと思った。でも日記には個人的なことも書いてあったから、とてもオーリー様に見せられるものではない。むしろこの二年間を消してしまいたいくらいだ。

 そんなオーリー様に対しての印象が変わったと思う。何て言うのだろう、以前は五年の差が凄く大きくて、しかも博識だったオーリー様に凄いという想いが大きかったのに、今はそれが薄れているのだ。

「そりゃあ、アンだって成長しているんだから当然よ。そうでなかったらこの三年、アンは全く成長していなかったってことになるもの」

 エリーに一刀両断されてしまった。でも、そうなのだ、オーリー様と年の差が思った以上に縮まった気がした。一番は可愛いと思ってしまう事が増えたことだ。些細な仕草や言動、失敗した時にへらっと崩れた笑顔に三年の間にあったことを指摘するとちょっと拗ねたような表情を浮かべるところなんかが。以前はそんな風に思うことがなかったから、やっぱり三年は大きいと感じた。

 ようやく私もオーリー様も落ち着いた頃、王家から呼び出し状が届いた。勿論オーリー様に会いたいと陛下たちからのものだ。夜会で次の婚約を公表する予定だっただけに、陛下も慌てられたのだろう。一月ほど経った頃、私はオーリー様と共に王都に向かた。



「……まぁ、見違えたわ」
「ああ、新しい家の匂いがするよ」

 新しく立て直したタウンハウスは以前の重厚で暗い雰囲気が一掃され、すっきり明るい印象だった。父がベルクール公爵の不正に関与していたため、ここにも騎士団の捜索が入った。そんな悪い印象が染み付いたタウンハウスをこのまま残すのは気分が悪く、また老朽化も進んでいたため、一年前に思い切って立て直したのだ。
 建築費はちょっと痛かったけれど、祖父母も私も新たに婿を迎えるからにはあのままというのは相手に失礼だと思ったのもある。

「……何もかもが新しい……」
「色合いも明るくて、すっきりした感じになったね」
「ええ。ここも今のところ王都に来た時しか使わないからと、規模も縮小したんです」

 元々後継者がここで王都と領地の案内役として住んでいたけれど、当面の間ここに誰かが住む予定はない。私はこのままお祖父様から領主の仕事を引き継ぐから領地を離れられないし、次代がここに住むのもまだまだ先だからだ。

 ちなみに……父は捜査の結果、有罪となって今は鉱山で肉体労働をしているという。最後まで自分は悪くないと言っていたらしいけれど、証拠の品を山ほど残していたのだからどうしようもない。悪いことを推奨する気はないけれど、証拠をその辺に置きっ放しにしていた頭の弱さに軽く絶望したのは内緒だ。あんなのが父親だったとは……残念の一言に尽きた。
 後妻と連れ子は何も知らなかったらしいけれど、二人して別々の修道院へと送られた。婚姻していないのに辺境伯家の若夫人、実子として社交界で振舞ったのが悪質だと指摘されたのが大きかった。実際、お祖父様もお祖母様も何度も警告をしていたし、王家に陳情もしていたのだ。
 それでも父が問題ないと言い張り、それを真に受けた二人は貴族としての常識と品位に大いに欠けるとされた。父を勘当した後もこの家に居座り、我が家の資産を無断で使っていたのも大きかった。まぁ、何を言っても理解しないので証拠にするべく好きにさせていたのだとお祖父様は言っていたけれど。

「結局、私たちが甘やかしたのが悪かったのね……」

 そう言ってお祖母様は深くため息をついた。でも、あのお祖母様があれだけ言っても理解出来なかったのだ。きっと別の人が親だったとしても変わらなかっただろうし、もっと悪い方向に向かっていたような気がする。結局最後まで分かり合えることはなかった。寂しい……というよりも虚しさの方が勝った。

 そしてもう一つ、ずっと噂レベルで疑惑とされていた私の母の死の真相も決着がついた。実家に戻ってそのまま流行り病で亡くなった母だけど、実は父に殺されたのではないかという噂が流れていたのだ。根拠もないのにだ。でも結婚する前はたくさんの令息にちやほやされていた母だっただけに、面白おかしく噂されていたのだ。
 今回、父の逮捕を受けてこちらの調査も行われたけれど、母は流行り病で亡くなっていて事件性はなかったとされた。同時期に母の祖母も同じ病で亡くなっていたし、母が祖母の看病をしていたと使用人の証言が得られた。そして父やその関係者が母の実家を訪ねたという事実も見つからなかった。この結果は父の刑の公表と同時に発表されたため、貴族の間で広がっていた不本意な噂は急速に消えていった。



しおりを挟む
感想 92

あなたにおすすめの小説

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。

曽根原ツタ
恋愛
 ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。  ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。  その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。  ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?  

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...