96 / 107
親友とのお茶会
しおりを挟む
「聞いたわよ、アンジェ! オードリック殿下と王宮の庭で抱き合っていたんですって?」
「ぶっ!」
キラキラした目で私を見てそう言ったのはミシュレ家のマリエル様だった。彼女は夜会に出席するために王都に出ていて、久しぶりに会いたいと連絡を貰った。そこでもう一人学園で親しかった令嬢と共に、建て直したタウンハウスに招待したのだけど……挨拶もそこそこにマリエル様からそう言われて、思わずお茶を吹きそうになった。危なかった……
「ど、どうして……」
「それは勿論、目撃者がいたからよ。朝から大胆よね~オードリック殿下ったら。情熱的な方だったのねと専らの評判よ。ね、イネス様!」
「そうね。夫からも聞いているわ。庭園でプロポーズなさったんですって?」
「……」
イネス様にまでそう言われて羞恥に頭が真っ白になりそうだった。イネス様の夫のマルトゥー伯爵は宰相府の文官だから、もしかしたら目撃者だったとか……? 鼓動が収まらないし動揺しているせいで思考がまとまらないけれど、あんなところを見られていたとは思わなかった。もしかしてオーリー様、わざと……じゃないわよね?
「でも、本当によかったわ、オードリック殿下が見つかって。王族が領地で行方不明になったなんて、一歩間違ったら処罰ものだもの。心配したのよ」
「ええ、私も気が気じゃなかったわ」
「あ、ありがとう」
確かに彼女たちの言う通りで、王族相手では軽い怪我だって処罰の対象になり得るし、行方不明となれば厳罰ものだ。そういう意味では我が家はかなり大目に見て頂けたと言える。間違いなくお祖母様のお陰だろう。陛下がお祖母様に厳しいことを言うのは……無理だろう。
「でもまぁ、無事両想いになってよかったじゃない。殿下と婚約なんて、最初はどうなるかと思っていたもの」
「あの頃の殿下は回復も見込めませんでしたものね。王家はリファール家を潰すつもりか、なんて噂もありましたから」
「確かに……」
王命に二度も背いた父に回復の見込みのない婿。どちらか一つだけでも存続を危ぶまれる要因だったからそう思われても仕方がなかっただろう。ただ、お祖母様がいたから大目に見て貰えていただけで。
「それでアンジェ様。式はやっぱり領地でおやりになるの?」
「そうなりますわ。私が次期当主なので」
「やっぱりね。だったらその時はゆっくりリファールに滞在しようかな。こういう機会がないと他領には行けないもの」
「マリエル様なら大歓迎よ。でも、領地を離れて大丈夫なの?」
「心配ないわ。商売は順調だし、お兄様も最近は体調がいいから」
「そう。だったら是非ゆっくりしていって」
ミシュレ領はワインの産地で、マリエル様は商才があったらしくミシュレワインは今や王族からも望まれるほどになった。一時はベルクール公爵に乗っ取られるのではとの噂もあったがそれも回避して、順調に資産を増やしていた。
「私も是非お伺いしたいわ。夫は行けないかもしれないから、私だけになるかもしれないけれど」
「それは仕方ないわ。マルトゥー伯爵は有能でいらっしゃるから。でもよろしいの? お子様方は……」
「子どもたちには乳母もいるし、下の子も二歳になったわ。少しくらいなら離れても大丈夫よ」
「二歳……もうそんなになるのね」
「いいなぁ~うちはまだ子が出来なくって。私が大人しくしていないせいだって言われているけど」
「子爵家を継ぐのはマリエル様ですものね」
「そうなの。お兄様は身体が弱いから結婚は難しいし。私が頑張らなきゃいけないのよね」
そういう意味では私もマリエル様と同じだった。お互いに二十二歳。マリエル様は結婚して三年経ったからプレッシャーも大きいだろう。
「式はいつ頃かしら?」
「これから相談です」
「そう、いい季節に出来るといいわね」
「ええ」
婚姻は成立したけれど、式の日程は未定だ。まだ領地に知らせが届いていないし、王家からの婿入りとなればそれなりの準備も必要かもしれない。早くても半年、一般的なら一年後だろうか。
「アンジェもすっかり美人になったし、花嫁姿が楽しみだわ。そうそう、学園時代にアンジェを馬鹿にしていた令息たち、今になって後悔しているわよ。あんなに綺麗になるなんて思わなかった、ってね」
「そ、そう」
「殿下が行方不明になってからは、取り成して欲しいって言ってくる人もいたし」
「私のところにも来たわ。でも、辺境伯家の婿は王家が手配するから王家にお話しくださいと言って丁重にお断りしたけど」
「そ、そんなことが……」
「あったのよ。ま、でも気持ちはわからなくもないわ」
「ええ、オードリック殿下が婚約者になってからは目に見えて綺麗になりましたもの。三年前の夜会ではみんな驚いていらっしゃいましたものね」
「ふふっ、あの時は騒然となったものね。あの地味令嬢がオードリック殿下と並ぶなんていい余興だって息巻いていた連中の顔ったら!」
「……」
どうやら知らないところで話題になっていたらしい。でも、学園時代の私の評判からすれば当然と言えば当然だろう。
「今度の夜会もすっごく楽しみだわ。見た目だけに拘って頭空っぽの連中にはいい薬よね」
「マリエル様ったら、言いすぎですわ」
「あら、そんなことないわよ。そういうイネス様だって伯爵夫人として有能で、しかも後継の男児を二人も生んでいるじゃない。イネス様を迎えればよかったって言っている人、多いんだから」
「そんな……」
気が付けばマリエル様もイネス様も、周囲に羨ましがられる存在になっていた。それは彼女たちの努力と誠実さの表れで、それが認められていることがとても嬉しかった。
「ぶっ!」
キラキラした目で私を見てそう言ったのはミシュレ家のマリエル様だった。彼女は夜会に出席するために王都に出ていて、久しぶりに会いたいと連絡を貰った。そこでもう一人学園で親しかった令嬢と共に、建て直したタウンハウスに招待したのだけど……挨拶もそこそこにマリエル様からそう言われて、思わずお茶を吹きそうになった。危なかった……
「ど、どうして……」
「それは勿論、目撃者がいたからよ。朝から大胆よね~オードリック殿下ったら。情熱的な方だったのねと専らの評判よ。ね、イネス様!」
「そうね。夫からも聞いているわ。庭園でプロポーズなさったんですって?」
「……」
イネス様にまでそう言われて羞恥に頭が真っ白になりそうだった。イネス様の夫のマルトゥー伯爵は宰相府の文官だから、もしかしたら目撃者だったとか……? 鼓動が収まらないし動揺しているせいで思考がまとまらないけれど、あんなところを見られていたとは思わなかった。もしかしてオーリー様、わざと……じゃないわよね?
「でも、本当によかったわ、オードリック殿下が見つかって。王族が領地で行方不明になったなんて、一歩間違ったら処罰ものだもの。心配したのよ」
「ええ、私も気が気じゃなかったわ」
「あ、ありがとう」
確かに彼女たちの言う通りで、王族相手では軽い怪我だって処罰の対象になり得るし、行方不明となれば厳罰ものだ。そういう意味では我が家はかなり大目に見て頂けたと言える。間違いなくお祖母様のお陰だろう。陛下がお祖母様に厳しいことを言うのは……無理だろう。
「でもまぁ、無事両想いになってよかったじゃない。殿下と婚約なんて、最初はどうなるかと思っていたもの」
「あの頃の殿下は回復も見込めませんでしたものね。王家はリファール家を潰すつもりか、なんて噂もありましたから」
「確かに……」
王命に二度も背いた父に回復の見込みのない婿。どちらか一つだけでも存続を危ぶまれる要因だったからそう思われても仕方がなかっただろう。ただ、お祖母様がいたから大目に見て貰えていただけで。
「それでアンジェ様。式はやっぱり領地でおやりになるの?」
「そうなりますわ。私が次期当主なので」
「やっぱりね。だったらその時はゆっくりリファールに滞在しようかな。こういう機会がないと他領には行けないもの」
「マリエル様なら大歓迎よ。でも、領地を離れて大丈夫なの?」
「心配ないわ。商売は順調だし、お兄様も最近は体調がいいから」
「そう。だったら是非ゆっくりしていって」
ミシュレ領はワインの産地で、マリエル様は商才があったらしくミシュレワインは今や王族からも望まれるほどになった。一時はベルクール公爵に乗っ取られるのではとの噂もあったがそれも回避して、順調に資産を増やしていた。
「私も是非お伺いしたいわ。夫は行けないかもしれないから、私だけになるかもしれないけれど」
「それは仕方ないわ。マルトゥー伯爵は有能でいらっしゃるから。でもよろしいの? お子様方は……」
「子どもたちには乳母もいるし、下の子も二歳になったわ。少しくらいなら離れても大丈夫よ」
「二歳……もうそんなになるのね」
「いいなぁ~うちはまだ子が出来なくって。私が大人しくしていないせいだって言われているけど」
「子爵家を継ぐのはマリエル様ですものね」
「そうなの。お兄様は身体が弱いから結婚は難しいし。私が頑張らなきゃいけないのよね」
そういう意味では私もマリエル様と同じだった。お互いに二十二歳。マリエル様は結婚して三年経ったからプレッシャーも大きいだろう。
「式はいつ頃かしら?」
「これから相談です」
「そう、いい季節に出来るといいわね」
「ええ」
婚姻は成立したけれど、式の日程は未定だ。まだ領地に知らせが届いていないし、王家からの婿入りとなればそれなりの準備も必要かもしれない。早くても半年、一般的なら一年後だろうか。
「アンジェもすっかり美人になったし、花嫁姿が楽しみだわ。そうそう、学園時代にアンジェを馬鹿にしていた令息たち、今になって後悔しているわよ。あんなに綺麗になるなんて思わなかった、ってね」
「そ、そう」
「殿下が行方不明になってからは、取り成して欲しいって言ってくる人もいたし」
「私のところにも来たわ。でも、辺境伯家の婿は王家が手配するから王家にお話しくださいと言って丁重にお断りしたけど」
「そ、そんなことが……」
「あったのよ。ま、でも気持ちはわからなくもないわ」
「ええ、オードリック殿下が婚約者になってからは目に見えて綺麗になりましたもの。三年前の夜会ではみんな驚いていらっしゃいましたものね」
「ふふっ、あの時は騒然となったものね。あの地味令嬢がオードリック殿下と並ぶなんていい余興だって息巻いていた連中の顔ったら!」
「……」
どうやら知らないところで話題になっていたらしい。でも、学園時代の私の評判からすれば当然と言えば当然だろう。
「今度の夜会もすっごく楽しみだわ。見た目だけに拘って頭空っぽの連中にはいい薬よね」
「マリエル様ったら、言いすぎですわ」
「あら、そんなことないわよ。そういうイネス様だって伯爵夫人として有能で、しかも後継の男児を二人も生んでいるじゃない。イネス様を迎えればよかったって言っている人、多いんだから」
「そんな……」
気が付けばマリエル様もイネス様も、周囲に羨ましがられる存在になっていた。それは彼女たちの努力と誠実さの表れで、それが認められていることがとても嬉しかった。
140
あなたにおすすめの小説
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
【完結】妹に全部奪われたので、公爵令息は私がもらってもいいですよね。
曽根原ツタ
恋愛
ルサレテには完璧な妹ペトロニラがいた。彼女は勉強ができて刺繍も上手。美しくて、優しい、皆からの人気者だった。
ある日、ルサレテが公爵令息と話しただけで彼女の嫉妬を買い、階段から突き落とされる。咄嗟にペトロニラの腕を掴んだため、ふたり一緒に転落した。
その後ペトロニラは、階段から突き落とそうとしたのはルサレテだと嘘をつき、婚約者と家族を奪い、意地悪な姉に仕立てた。
ルサレテは、妹に全てを奪われたが、妹が慕う公爵令息を味方にすることを決意して……?
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
そんなに妹が好きなら死んであげます。
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』
フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。
それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。
そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。
イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。
異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。
何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる