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私が結婚を諦めた理由
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思い出すのも時間の無駄で、どうでもいい事この上なく、それでいて私の心から結婚への夢を消失させた男の存在を思い出して、私の気分は急降下した。いや、あんな奴のせいで気分を振り回されたくないのだが…それでも、まだ初心だった私のいたいけな心を、あのバカ男は無残にも踏みにじってくれたのだ。
あれは五年前、私が学園に通っていた頃。あの頃はまだ母も弟も王都にいて、一緒に暮らしていた。学園から帰った私を母が、珍しく頬を紅潮させて出迎えたのだ。私と同じ茶色の髪と弟と同じ青い瞳の母は、気の強そうな顔立ちをした美人で、顔立ち同様に気も強く第一印象は私とは真逆だ。
「エリー聞いて!貴女に縁談の申し込みがあったのよ!」
「…はぁ?」
母の言葉を私は直ぐに信じられなかった。あの頃の私はもう、文官になって仕事に生きると決めていたからだ。その為学園では見た目など全く構わず、地味で根暗ながり勉だと言われていただけに、縁談が来るなんて思いもしなかった。
「それ、宛先間違いなんじゃない?それとも、誰かと勘違いしているとか?」
「そんな筈ないわ!ちゃんと問い合わせしたら、エリーで間違いないって言ってたもの」
「ええっ。でも、私これだよ?」
「何言ってるのよ!エリーだってちゃんと整えれば可愛いわよ!なんたって私の子だし、リアムの姉なのですもの」
「…」
そりゃあ、母は美人で昔は求婚者がたくさんいたとは聞いている。そして九歳下の弟のリアムは、父譲りの銀の髪と母譲りの青い瞳の、それはもう天使かと思うほどに可愛い顔立ちをしているのだ。そんな彼は私の心の支えであり、生きがいと言ってもいい。
「見た目はいいとして…持参金は?うち、そんな余裕ないわよ?」
「そこも問題ないわ。あちらもうちとあまり変わらないから。お相手は長男だけど騎士志望だそうよ。エリーは優秀だから、いずれは伯爵家の領地経営をお願いしたいんですって」
「はぁ…最初から領地経営を押し付けられるのは決定事項なのね」
相手が騎士志望となれば、家の事は全て妻の仕事になる。となれば、まずは能力ありきでの縁談なのか。それに相手もうちと同程度なら裕福ではない、と。
(それって、私の負担、物凄く重くない?)
人の事は言えない私だが、向こうだってそこそこ不良物件だった。でも、貴族の結婚なんてそんなものかもしれない。
「ね!一度顔合わせを…と言ってきているの。会うだけでも会ってみましょう?」
母にそう言われたら、断る理由もなかった。確かに私だって、着飾ればそれなりに見える筈だ。母や弟ほどの美形じゃないけど、顔立ちは決して悪くはない、と思う。ただ、そこに力を入れる理由が見つからず、それよりも勉強したい気持ちの方が勝っているだけ。美貌は年とともに衰えるが、知識は一度手に入れたら奪われる事はない、が私の信条なのだ。
一応、自分なりに結婚する夢を完全に閉じたわけではなかった私は、少しだけ、本当にちょびっとだけ期待していた。だけど…
「はぁあ?!マジかよ!こんな地味で冴えない女と?嘘だろう!」
初めての顔合わせで、いきなり私を罵倒してきた相手-ジョエル=セルネーは、私と似たような茶髪と灰色に近い青の瞳を持つ、ニキビ面をした同じような年の少年だった。地味で冴えないのはお互い様ではないだろうか…
さすがに初対面でこんな態度をとる相手と結婚する忍耐力は、私にはなかった。いや、罵声を放った本人以外はドン引きだ。母のこめかみの青筋はひくつき、相手の両親は顔色を青や白に染めて平謝りだった。
当然この話はなかった事になり、相手側からは正式な謝罪と、暴言男を後継から外す旨が伝えられてこの話は終わった。後継から外すのはやり過ぎでは?とも思ったが、母の怒りは相当なもので、そんな母は昔、王太子妃時代の王妃様に仕える侍女で、その伝はまだ残っていたのだ。多分、相手が忖度したのだろう。
そしてこの一件で、私は完全に結婚する選択肢を諦めたのだった。
あれは五年前、私が学園に通っていた頃。あの頃はまだ母も弟も王都にいて、一緒に暮らしていた。学園から帰った私を母が、珍しく頬を紅潮させて出迎えたのだ。私と同じ茶色の髪と弟と同じ青い瞳の母は、気の強そうな顔立ちをした美人で、顔立ち同様に気も強く第一印象は私とは真逆だ。
「エリー聞いて!貴女に縁談の申し込みがあったのよ!」
「…はぁ?」
母の言葉を私は直ぐに信じられなかった。あの頃の私はもう、文官になって仕事に生きると決めていたからだ。その為学園では見た目など全く構わず、地味で根暗ながり勉だと言われていただけに、縁談が来るなんて思いもしなかった。
「それ、宛先間違いなんじゃない?それとも、誰かと勘違いしているとか?」
「そんな筈ないわ!ちゃんと問い合わせしたら、エリーで間違いないって言ってたもの」
「ええっ。でも、私これだよ?」
「何言ってるのよ!エリーだってちゃんと整えれば可愛いわよ!なんたって私の子だし、リアムの姉なのですもの」
「…」
そりゃあ、母は美人で昔は求婚者がたくさんいたとは聞いている。そして九歳下の弟のリアムは、父譲りの銀の髪と母譲りの青い瞳の、それはもう天使かと思うほどに可愛い顔立ちをしているのだ。そんな彼は私の心の支えであり、生きがいと言ってもいい。
「見た目はいいとして…持参金は?うち、そんな余裕ないわよ?」
「そこも問題ないわ。あちらもうちとあまり変わらないから。お相手は長男だけど騎士志望だそうよ。エリーは優秀だから、いずれは伯爵家の領地経営をお願いしたいんですって」
「はぁ…最初から領地経営を押し付けられるのは決定事項なのね」
相手が騎士志望となれば、家の事は全て妻の仕事になる。となれば、まずは能力ありきでの縁談なのか。それに相手もうちと同程度なら裕福ではない、と。
(それって、私の負担、物凄く重くない?)
人の事は言えない私だが、向こうだってそこそこ不良物件だった。でも、貴族の結婚なんてそんなものかもしれない。
「ね!一度顔合わせを…と言ってきているの。会うだけでも会ってみましょう?」
母にそう言われたら、断る理由もなかった。確かに私だって、着飾ればそれなりに見える筈だ。母や弟ほどの美形じゃないけど、顔立ちは決して悪くはない、と思う。ただ、そこに力を入れる理由が見つからず、それよりも勉強したい気持ちの方が勝っているだけ。美貌は年とともに衰えるが、知識は一度手に入れたら奪われる事はない、が私の信条なのだ。
一応、自分なりに結婚する夢を完全に閉じたわけではなかった私は、少しだけ、本当にちょびっとだけ期待していた。だけど…
「はぁあ?!マジかよ!こんな地味で冴えない女と?嘘だろう!」
初めての顔合わせで、いきなり私を罵倒してきた相手-ジョエル=セルネーは、私と似たような茶髪と灰色に近い青の瞳を持つ、ニキビ面をした同じような年の少年だった。地味で冴えないのはお互い様ではないだろうか…
さすがに初対面でこんな態度をとる相手と結婚する忍耐力は、私にはなかった。いや、罵声を放った本人以外はドン引きだ。母のこめかみの青筋はひくつき、相手の両親は顔色を青や白に染めて平謝りだった。
当然この話はなかった事になり、相手側からは正式な謝罪と、暴言男を後継から外す旨が伝えられてこの話は終わった。後継から外すのはやり過ぎでは?とも思ったが、母の怒りは相当なもので、そんな母は昔、王太子妃時代の王妃様に仕える侍女で、その伝はまだ残っていたのだ。多分、相手が忖度したのだろう。
そしてこの一件で、私は完全に結婚する選択肢を諦めたのだった。
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