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賭けをしよう
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「………けっきょん?(結婚?)」
俺の言葉に彼女は、きょとんとした表情で俺を見下ろした。どうやら意外過ぎて驚いたらしく、涙は止まったらしい。
「結婚、したいんだろう?」
「…で、でみょ…じじゃんきんもにゃいし、しおきゅりしにゃいと…(でも、持参金もないし、仕送りしないと…)」
「仕送り?」
聞けば彼女の実家は困窮していて、持参金を準備出来ないから結婚は諦めていたのだという。今は実家を助けるために働いていて、そのために文官として働かなきゃいけないのだと。それを聞いて、色々と繋がった気がした。
(俺を嫌っていたのって…首席が取れなかったから、か?)
どうしてあんなに嫌われているのかと思っていたが、答えは想像していたものとはかけ離れたものだった。いや、男からはそんな理由で散々敵視されていたが、まさか令嬢にまでそんな風に思われていたとは思いもしなかった。そもそも女性で文官を希望する者は少ないのだ。そして出世するのに首席だったという札は大きな意味を持つ。だから俺も必死で首席をキープしたのだ。
「持参金はなくてもいい。働きたければ働けばいいし、仕送りもすればいい。何なら援助もしてやるよ」
「ひょ、ひょんとに?(ほ、本当に?)」
「ああ。でも、俺と結婚しても子供は持てないぞ?」
「きょ、ども?(子、供?)」
「ああ。だが、俺とでは、子供は無理だ」
そう、俺は子供の頃に高熱を出したせいで、子供が出来なくなった。だから結婚するつもりはなかったし、それでいいと思っていた。だが、相手が彼女で、実家を助けるためだというなら、それを手伝うのも悪くない。ただし、彼女がそれを受け入れるなら、の話だが…
「…い…いいにょ?(いいの?)」
「俺は構わない。でも、子供が欲しいならやめた方がいい。もし望むなら、誰かいい相手を…」
「しゅる!ふくらんひょ~とけっきょんしゅる!(する、副団長と結婚する!)」
意外にも即答された。いいのか、結婚だぞ?一生の事だし、子供が出来ないんだぞ?そうは思ったが、彼女は嬉しそうな笑みを浮かべていて、迷いはなさそうに見えた。
「いいのか?子供が欲しくないのか?」
「しゃいしょきゃら…(最初から…)」
「ん?」
「こどみょはあきりゃめていたきゃから…いいにょ(子供は諦めていたから…いいの)」
「そ、そうか…」
どうやら子供はいなくてもいいらしい。弟がいるから後継者を作る必要もなく、一生働くつもりだったから子供は諦めていたのだと言った。だが…
(…いいのか、本当に?)
あっさり承諾されて、俺の方が戸惑ってしまった。だが…これは賭けだ。もし目が覚めた後も彼女がこの会話を覚えていたら、約束通り結婚しよう。家のために結婚も子供も諦めたとは言う事は、本心ではなかったという事だ。だったらそれを叶える手伝いくらいはしてもいいように思った。殿下に守れと命じられていたが、それが結婚と言う形であっても問題はない筈だ。それに…俺が結婚するとなればあれも諦めがつくだろう。
一方で、完全に忘れていたらこの話はなしだ。俺が好きだと言った事も覚えていないのなら、きっと目覚めたら今までの態度に戻るだろう。だったら…そのままでいい。ああ見えてプライドが高く意地っ張りな性格だから、俺にこんな姿を見せたと知ったらショックだろうし、仕事を辞めたいと言い出すかもしれない。それは今は困る。
ただ…彼女を守るために婚約する必要はある。実家も後見も当てに出来ない彼女を守るためには、婚約者にするのが手っ取り早い。既に奴らは彼女を狙っているから、のんびりしている余裕はない。
だから…いかにも何かがあった風を装って、婚約せざるを得ない状況だけは整えた。結婚しようと言った事を忘れている可能性の方が高いから、強引だが関係を持った風に装った。魔術で赤い跡をつけ、裸で眠ればそれらしく見えるだろう。まぁ、益々嫌われるだろうが…それでいい。
結局、この賭けは後者で終わった。目が覚めた彼女は、俺との会話を全く覚えておらず、あの夜の態度は何だったのかと思うほどにこれまでの頑なな態度を維持していた。だったら何も言うまい。どうせ結婚するなら、俺じゃない方が幸せになれるだろう。
俺の言葉に彼女は、きょとんとした表情で俺を見下ろした。どうやら意外過ぎて驚いたらしく、涙は止まったらしい。
「結婚、したいんだろう?」
「…で、でみょ…じじゃんきんもにゃいし、しおきゅりしにゃいと…(でも、持参金もないし、仕送りしないと…)」
「仕送り?」
聞けば彼女の実家は困窮していて、持参金を準備出来ないから結婚は諦めていたのだという。今は実家を助けるために働いていて、そのために文官として働かなきゃいけないのだと。それを聞いて、色々と繋がった気がした。
(俺を嫌っていたのって…首席が取れなかったから、か?)
どうしてあんなに嫌われているのかと思っていたが、答えは想像していたものとはかけ離れたものだった。いや、男からはそんな理由で散々敵視されていたが、まさか令嬢にまでそんな風に思われていたとは思いもしなかった。そもそも女性で文官を希望する者は少ないのだ。そして出世するのに首席だったという札は大きな意味を持つ。だから俺も必死で首席をキープしたのだ。
「持参金はなくてもいい。働きたければ働けばいいし、仕送りもすればいい。何なら援助もしてやるよ」
「ひょ、ひょんとに?(ほ、本当に?)」
「ああ。でも、俺と結婚しても子供は持てないぞ?」
「きょ、ども?(子、供?)」
「ああ。だが、俺とでは、子供は無理だ」
そう、俺は子供の頃に高熱を出したせいで、子供が出来なくなった。だから結婚するつもりはなかったし、それでいいと思っていた。だが、相手が彼女で、実家を助けるためだというなら、それを手伝うのも悪くない。ただし、彼女がそれを受け入れるなら、の話だが…
「…い…いいにょ?(いいの?)」
「俺は構わない。でも、子供が欲しいならやめた方がいい。もし望むなら、誰かいい相手を…」
「しゅる!ふくらんひょ~とけっきょんしゅる!(する、副団長と結婚する!)」
意外にも即答された。いいのか、結婚だぞ?一生の事だし、子供が出来ないんだぞ?そうは思ったが、彼女は嬉しそうな笑みを浮かべていて、迷いはなさそうに見えた。
「いいのか?子供が欲しくないのか?」
「しゃいしょきゃら…(最初から…)」
「ん?」
「こどみょはあきりゃめていたきゃから…いいにょ(子供は諦めていたから…いいの)」
「そ、そうか…」
どうやら子供はいなくてもいいらしい。弟がいるから後継者を作る必要もなく、一生働くつもりだったから子供は諦めていたのだと言った。だが…
(…いいのか、本当に?)
あっさり承諾されて、俺の方が戸惑ってしまった。だが…これは賭けだ。もし目が覚めた後も彼女がこの会話を覚えていたら、約束通り結婚しよう。家のために結婚も子供も諦めたとは言う事は、本心ではなかったという事だ。だったらそれを叶える手伝いくらいはしてもいいように思った。殿下に守れと命じられていたが、それが結婚と言う形であっても問題はない筈だ。それに…俺が結婚するとなればあれも諦めがつくだろう。
一方で、完全に忘れていたらこの話はなしだ。俺が好きだと言った事も覚えていないのなら、きっと目覚めたら今までの態度に戻るだろう。だったら…そのままでいい。ああ見えてプライドが高く意地っ張りな性格だから、俺にこんな姿を見せたと知ったらショックだろうし、仕事を辞めたいと言い出すかもしれない。それは今は困る。
ただ…彼女を守るために婚約する必要はある。実家も後見も当てに出来ない彼女を守るためには、婚約者にするのが手っ取り早い。既に奴らは彼女を狙っているから、のんびりしている余裕はない。
だから…いかにも何かがあった風を装って、婚約せざるを得ない状況だけは整えた。結婚しようと言った事を忘れている可能性の方が高いから、強引だが関係を持った風に装った。魔術で赤い跡をつけ、裸で眠ればそれらしく見えるだろう。まぁ、益々嫌われるだろうが…それでいい。
結局、この賭けは後者で終わった。目が覚めた彼女は、俺との会話を全く覚えておらず、あの夜の態度は何だったのかと思うほどにこれまでの頑なな態度を維持していた。だったら何も言うまい。どうせ結婚するなら、俺じゃない方が幸せになれるだろう。
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