【完結】一夜を共にしたからって結婚なんかしませんから!

灰銀猫

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新たな動き

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 それから数日後、今度は王太子殿下から謝罪の手紙が届いた。王女殿下の突撃に対するもので、立て続けの王族からの接触に恐れ多くて胃が痛くなりそうだった。
 その手紙には、王女殿下は六歳の時に副団長に一目惚れして、それからずっと彼を慕っていたのだとあった。国王ご夫妻と王太子殿下は、遠回しに彼は無理だと諭し、王女殿下もそれ以上何かを言う事はなかった。
 だが十五歳でデビュタントを迎え婚約者の選考に入った時、王女殿下は副団長を希望したのだという。これに驚いたのは国王ご夫妻と兄王子だった。王女殿下は彼が実の兄だとは知らされておらず、説得は空振りに終わった。結局陛下は王女殿下に真相を話したが、急に兄妹だと言われた王女殿下は納得せず、今に至るらしい。

(そりゃあ、ずっと好きだったのに兄だって言われてもねぇ…)

 ほんの僅かだけど王女殿下にも同情してしまった。六歳からって事はざっと十年も想い続けていたのだから。だからといって肯定する気にはなれないけど。



 それから半月ほどが経ったある日、書類の方で動きがあった。怪しい書類を見つけたのだ。それはラドン伯爵の縁者のものだった。ラドン伯爵は国王陛下の実弟のエリュアール公爵の妻の父で、野心家で孫にあたる公爵令息とアリソン王女を結婚させて、その子を王位につけたがっていると言われている。要は王太子殿下の暗殺計画の中心人物と目されている人物だ。
 そのラドン伯爵のいとこが治める子爵領からの報告書で、他領との取引に関する部分が問題だった。領地の規模の割には取引額が占める額が大きく、その相手となる領との金額も合わない。多少の誤差は起きるけれど、それを大きく上回っていた。更に調べると相手の領地もラドン伯爵の妻の遠縁に当たる。そしてもう一つ気になったのが、その取引内容だった。

「…小麦の取引だろう?別に問題ないのではないか?」

 副団長はそう言ったけれど、そこじゃないのだ。問題はその時期だった。

「小麦の取引自体は問題ありません。ですが、気になる点が。取引の時期と額です」
「時期と額?」
「はい。この領地は北にあり、元々小麦の栽培に適しません。そのため殆どの小麦を他領から購入しています。ですがこの報告書は購入ではなく売却になっています。元より小麦不足が常態化しているのに、小麦が一番不足する時期に売却している事があり得ません」
「…確かに…」

 どうやら私の言いたい事は伝わったらしい。元々領民が飢えるかどうかと言う状態で、命綱とも言える小麦を売る事自体がおかしいのだ。

「別の報告書を調べてみましたが、この時期の前後にこの領地ではかなりの数の死者が出ているとの報告が上がっています。そんな時期に小麦を他領に売っているのも不可解ですし、もっと不可解なのは隣国との取引です」
「隣国との?」
「はい。あの領地は国境に接していて、隣国との交流がありますが、同じ時期にこれまでになかった取引がありました。報告書では家畜の売却となっていますが、小麦と同じ理由で売却は不可解ですし、そもそも売るほどの家畜がいるのが疑問です」
「なるほど…」

 手渡した書類を見ながら副団長は考え込んでしまった。でも、この報告書は一見すると色んな物資を購入したように見えるのだけど、細かく売却が混じっていて、よっぽど注意してみないと見落とすレベルだ。実際、会計監査局はスルーした。この程度ならよくある事だし、…

「エリアーヌ嬢はどう思う?」

 書類に一通り目を通した副団長が私に問うてきた。どうって、どういう意味で言っているのだろうか。

「どう、と申されましても…」
「この書類から想定出来る事はあるだろうか?」

 そう来たか。確かに会計監査局にいたし、この書類から見えるものもあるのだけど…

「…何の根拠もありませんが、それでも?」
「ああ、忌憚ない意見を」
「それでは…」

 その書類と彼の領地にまつわる諸々から想定出来るものを、私は思いつく限り並べてみた。


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